第133話:ルミナスチェーン
「それは残念ですね。因みに、何かコツとかありますか?」
エメリナは少し残念にしながらも、直ぐに授業に関係のある質問をしてきた。
通常ならば俺の話を二人に聞かせて、一つの糧にさせるつもりなのだろうが、残念ながらコツと呼べるようなものは何もない。
魔力量が無限にあり、繊細な魔力の使い方は魔法少女の時に学び、通常時も常に鎖で訓練している。
つまり、努力の結果としか言えないのだ。
「以前説明しましたが、常にこれを展開して訓練していますので、その結果としか」
袖の下から鎖を伸ばして、軽く操る。
鎖の存在を知っているエメリナとマフティーは特に驚かなかったが、アントワネットは引き気味の笑みを浮かべていた。
メイド服の時とは違い、両腕に一本ずつ隠しているだけなので、ライトボール程度ならば問題なく発動できる事ができた。
「私も先日見せて頂いた後に訓練しようと思ったのですが、詠唱と魔法名称を教えて頂く事って出来ますか?」
詠唱と魔法名か……特に考えていなかったな。
鎖一本の難易度は中級程度と見ているので、しっかりと定義かすればエメリナも直ぐに使えるようになるだろう。
二本三本と増やそうとすれば流石に難しくなるだろうが、発動するだけならばマフティーですら出来るかもしれない。
さて、詠唱と魔法名か……。
適当で良いっか。
「遍く不変の理よ、我が意に従え。ルミナスチェーンになります」
「……あの、教えを請いておいてなんですが、そう簡単に教えて良いのですか?」
「オリジナルではありますが、隠す程のものではないので。それに、使ってみていただければ、私の言いたいことも分かるかと」
納得はしていないようだが、使えばどれだけ無駄な魔法かわかるはずだ。
この鎖は俺の無駄にある魔力だからこそ成り立っているのであり、普通の人が使うには無駄が多い。
車のマニュアルとオートマみたいなものだな。
そして難易度自体は中級だが、一本でも自由に操ろうとすれば中級の上位となり、敵の魔法を弾いたり戦いに使えるようにするには上級位の難易度になる。
ついでに魔力消費も馬鹿にならないので、エメリナクラスならともかく、初心者が無理に操ろうとすれば、直ぐに魔力が枯渇するだろう。
「遍く不変の理よ。我が意に従え。ルミナスチェーン」
エメリナが唱えると、一本の光の鎖が姿を現す。
それと共に、エメリナが出していたライトボールが全て消える。
「これは……」
ぎこちないながらも鎖を操るエメリナだが、直ぐに鎖を消した。
因みに鎖を伸ばせば伸ばす程、魔力の消費スピードも上がる。
「なるほど。中々手のかかる魔法みたいですね」
「俺も使ってみて良いか?」
「あ、なら私も良い?」
「どうぞ。ですが、一応中級程度の難易度なので、無理はしないように注意してください」
エメリナに引き続きマフティーも魔法を唱えるが、少しだけ鎖が現れたところで四散して消える。
アントワネットの方は鎖のリンクが三つくらい出たところで同じく消えてしまった。
その間俺は鎖を出したままである。
「何だこれは……こんな魔法を使う意味が分からない。何より、消費魔力と効果が釣り合わん」
「人の手を一つ増やすようなものですから、これくらいの消費は妥当かと。それよりも、授業の続きをしなくて宜しいのですか?」
俺達三人が話している間に、一人で練習をしているエメリナに声をかける。
話しかけた時に肩が一瞬動いたので、結構集中していたのかもしれないな。
「そうですね。マフティーさんとアントワネットさんは、先程と同じくライトボールの練習を三十分程行い、それから次に移りましょう。ハルナさんは……何か習いたいことはありますか?」
再びライトボールをマフティーとアントワネットに渡してから、俺へと問いかけてくる。
いつもならば無いと答える所だが、今回はエメリナに聞きたいことがちゃんとある。
「補助系の魔法について教えて頂けると。あまり馴染みが無いものでして」
「補助ですね。プロテクションやフォースアップ等で宜しいでしょうか?」
「はい」
魔法少女の時は普通に使えていた補助系の魔法だが、通常時では強化魔法を含めて上手く発動することが出来ない。
明確な原因が分からず、どうしようかと悩んでいた所、ふとカイル達とヨルムの戦いを思い出した。
あの時アンリとエメリナは、補助魔法をカイル達に施していたので、分からないならば聞いて見れば良いと思い至った。
実際に使われれば、何かわかるかもしれないしな。
正直、治療系の魔法が使えるのに、補助系が使えないのか本当に分からない。
「確かヒールとかは使えるのでしたよね?」
「はい。この通り」
袖から出した鎖の先端に、ヒール特有の緑色の光が溢れ出る。
エメリナが笑顔のまま固まるが、分かっていてやっているので無視しておく。
「……どちらかと言えば治療系よりも、補助系は習得難易度が低いのですが……」
「一度何か補助系の魔法を掛けて貰っても良いでしょうか?」
「分かりました。プロテクション」
ほんの一瞬だけ身体の周りに膜の様なものが出来るが、あっと言う間に四散してしまった。
ふむ……ふむ……。
「……その、もしかして服の下にルミナスチェーンを出していますか?」
「はい。……今消しました」
「それではもう一度」
再び膜の様なものが張られるが、少しだけ耐えたがやはり四散してしまった。
補助魔法の感覚が何となくわかったが、やはり駄目だったか。
一度目はともかく、二度目が駄目だった理由はおそらく俺の魂のせいだろう。
俺の魂は、現在身体と適合させるために調整中であり、分かりやすく言えば魔力が身体に馴染んでいないと言える。
身体に魔力が馴染まないのに、魔力を身体に定着させる魔法である、補助魔法をかけられるわけがないのだ。
ならば、何故回復魔法を使えるかだが、回復魔法は作り出す魔法であり、魔力を込めれば馴染まなくても何とかなるのだ。
無論他人に使うのは問題ないので、自分に使うのは諦めるとしよう。
肉体的強度が低くても、攻撃を受けなければどうとでもなる。
「……何故でしょう?」
「おそらく私の魔力のせいですね。ですが、補助魔法がどの様なものか分かったので、他人に使う分には問題有りません」
「そう……ですか?」
納得はしていなさそうだが、こればかりは仕方ない。
調整が終われば使えるようにするになるだろうが、その頃には学園にいないし、そもそも自分に使うような事はないだろう。
バフデバフをするより、殴った方が早いからな。
一旦マフティー達の練習が終わるまで待つことになり、暇なのでリディス達が居る方を見る。
何やら数人の生徒と険悪な雰囲気だが、リディスは貴族モードのため、涼しげ表情を保っている。
俺に念話も飛んでこないので、大事ではないのだろう。
そう言えば、アントワネットは学園の貸し出しの杖を使っていたが、マフティーは杖を使っていなかったな。
完全に練習と割りきっているのか、それとも自分の杖を持っていないのか……。
ついでにアーシェリアの方を見ると、視線が合ったので直ぐに逸らしておく。
結構距離があるのだが、何故視線が合ったのだろうか?
「三十分経ちましたので、一旦ここまでにしておきましょう。集まって下さい」
「そうか」
「はい」
ライトボールの練習が終わり、次のステップへと進む。
ほんの三十分の練習だったが、二人とも何か得られたものがあるのだろう。
「次はライトボールを使った玉当てになります。私が作り出す的にライトボールを撃って、当ててください」
「ライトボールならば、当て方は何でも良いのでしょうか?」
「いえ、自分の半径一メートル以内にライトボールを出して、そこから動かして下さい。それと、一回に操って良いのは一つまでです」
つまり普通に唱えて普通に放てって事だな。
まあここは言われた通りにやるとしよう。
エメリナが少し遠い所に光の円盤を出したので、それが的だろう。
「一斉にやるのも良いですが、最初は個別で行いましょう。マフティーさんからお願いします」
「分かった」
マフティーの出したライトボールが、エメリナの出した的に向かって飛んでいく。
速度としては決して早くはないが、正確に真っすぐ飛んでいき、的に当たったライトボールが四散した。
マフティーは少し顔を歪めたが、壊せなかった事に驚いたのだろう。
「一年生としては素晴らしいですね」
「慰めはいらん。壊す気で放ったのだが、流石Sランク冒険者という事か」
「これでもレッドアイズスタードラゴンの攻撃を、少しとは言え防いだ実績がありますから。次はアントワネットさん、お願いします」
「はい!」
今の所、アントワネットは普通の学生という印象しかない。
アクマは何やら、俺が楽しめるような存在と言っていたが、果たして本当なのだろうか?




