第132話:教会に興味はないかい?
「集まったな。属性毎に分かれる前に、臨時教師に自己紹介をして貰おうと思う。まあ、ほとんど知ってるとは思うがな」
教師達の前に集まったものの、ほとんどの生徒はジョンやハロルドには目もくれず、他の二人を見ている。
Sランク冒険者の名声もさることながら、レッドアイズスタードラゴンを倒したと思われている事も有り、その人気は凄まじいものだ。
平民だけではなく貴族の子息達からも憧れの目を向けられているが、自分の力で身を立てるってのに憧れるものがあるのだろう。
下手な貴族よりも資金を持っているだろうし、国によっては直ぐに貴族として身分を手に入れる事が出来る。
戦力としては、戦争の盤面に影響を与える程度に大きい物だろうからな。
それに、他の冒険者に比べて世間的に名前も知られているのもある。
「暁の調所属のアンリよ。今日は水と風と闇の担当になるわ。臨時だからいつまで居るか分からないけど、宜しく」
「同じく暁の調所属のエメリナです。担当は光のみとなりますが、皆さんにしっかりと教えられるように頑張りたいと思います」
アンリとエメリナの自己紹介が終わり、教室で聞いた拍手よりも、大きな拍手が巻き起こる。
ここで騒がしくならないのは、マナーを学んでいる貴族が多いからだろう。
「因みにアンリは魔法研究の第一人者であり、エメリナもソルアラマス教会の大司教だ。失礼の無いようにな」
前に話していた神殿だか宗教だが、ソルアラマスの事だったのか。
知恵と光を司る神を司る神であり、シルヴィー曰く色々と煩いらしい。
いつの日か会う機会はあると思うが、シルヴィーの話す通りならば敵対する事になるかもしれない。
まあ殺し合いになる事は無いだろうがな。
お互いに上司がいるので、そこら辺は弁えているつもりだ。
「それと、一応自己紹介しておくが、俺がジョン・オブライアンで、こちらがハロルド・ロブロイスキーだ。俺が土と風。ハロルドが火を担当する。それと、武器の申請書を持ってきている奴は今の内に出してくれ」
時間ギリギリで来た生徒達は武器と一緒に紙を持ってきていたが、ジョンに言われて、前に出て渡した。
リディスには朝一で渡せと言っておいたので、この中には混ざっていない。
「武器の申請は後でも受け付けるが、申請のない武器は使わないようにな。それと、杖を借りたい奴は手を上げてくれ? ……十人だな。学園で貸し出してるのは本当に補助をするだけのものだが、下手な店で売っている奴よりはマシだから安心してくれ」
ジョンは後ろにある木箱から、先端に石を埋め込んだ杖を取り出して、手を上げた生徒に配る。
長さは千ミリ程なので、子供の背丈でも問題なく扱えそうだ。
使ってみるのもありかもしれないが、魔力の込め方を失敗すると爆発しそうなので、好奇心に任せた行動をしない方が良いだろう。
「それじゃあ受けたい属性の教師の前に移動してくれ。風についてはアンリじゃなくて俺の方に来るようにな。おっと、固有属性はハロルドの所に向かうように」
教師達が距離を取り、生徒達がぞろぞろと移動を開始する。
リディスの魔法は一応固有なので、受け持ちはハロルドか。
ついでにアーシェリアとヨルムも一緒なので、俺とクルルが省かれているような感じだな。
とりあえずエメリナの所に移動すると、貴族街で見かけた少女と、マフティーが一緒に待っていた。
「久しいな。来るとは思っていたが、相変わらず無表情だな」
「取り繕う必要もありませんので。因みにマフティー様が使える属性は?」
「光と闇だ。どちらも習ってはいるが、教師が教師なのでこちらを選んだ。それに、光の方が人が少ないだろうからな」
理由的には俺と同じ様なものか。
マフティーが言う通り、俺達三人以外が来る様子はない。
これならば煩わしいことは無いだろう。
「あ、あの、王子様とお知り合いなのですか?」
「主人の付き添いでお茶会に出た際に、光属性が使えるということで少々。失礼ながら、お名前は?」
「私はアントワネットって言うの。あなたは?」
「ハルナと申します。このような身ですが、ブロッサム家にてメイドをさせていただいています」
「えっ?」
驚きの声をあげるアントワネットだが、直ぐに取り繕った笑みを浮かべる、
「アインリディスちゃんの所のメイドなんだね。びっくりしちゃった」
「私以外にも、主人と共に入学しているメイドは居ますので、そう驚くような事でもありません。あなたのクラスのクルルさんとかも、私と同じくメイドですから」
ただたんに驚いただけって感じではなかったが、何かしら隠していることがありそうだな。
しかし、アントワネットか……。
俺の世界でならば、かなりの偉人だ。
歴史の授業では必ず名前が出ていたし、ゲーム何かでも出てくる事がある。
この世界ではありふれた名前なのかもしれないが、アクマの反応もあり、少し気になる。
まあ何にせよ、覚えやすい名前で助かる。
「雑談はそこまでにして、そろそろ始めましょう。先ずは実習となるので、説明は軽くとさせていただきます」
他に人が来ないことを確認したエメリナにより話を止め、三人でエメリナを見る。
エメリナは手の平を上に向けて、そこに光の玉を作り出す。
「光魔法は他の属性に比べて、攻撃には向いていません。この様に放つことも出来ますが、防御に向いています」
光の玉を剣の形に変えて、それを地面へと放つ。
半ばまで刺さるが、光の剣は四散して消える。
「それと、属性の中では唯一怪我などを治せる特性を持っていますが、怪我を治すよりは怪我をさせないように魔法を使った方が、消費魔力が少なくて済みます。戦いの際は治療分の魔力を残すよりは、しっかりと攻撃を防ぐ魔法を使った方が、結果的に被害が少なく済みます」
光属性の特性に当てはめれば、相手の攻撃を二とした場合、一で防ぐことが出来る。
たが、二の攻撃で出来た怪我を治す場合、三の魔力が必要となる。
俺が魔法少女の時に使っている回復魔法よりも、戦いの最中は副作用もあるので、戦いながら回復するくらいならば、エメリナの言う通りしっかりと防御に専念した方が建設的だ。
まあ俺の場合防御する判断はせず、攻撃には攻撃で対処するがな。
魔女の攻撃は防御しようにも、防御不可みたいなものだし。
「また、光属性は攻撃魔法が少なく、確認されている禁忌魔法の中には、一つも攻撃出来るものはありません。使える方がそもそもほとんどいませんが、仮に一つでも使えたら一生苦労せずに暮らせる事も出来ると思います。さて、お話はここまでにしまして、そろそろ実習といきましょう」
エメリナが両手を打ち合わせると光属性の下級魔法である、ライトボールが三つ現れる。
大きさはバスケットボール程あり、当たれば痛いでは済まないだろう。
「出来る方もいると思いますが、これが下級魔法のライトボールになります。詠唱は光の球よ、敵を打ち砕けです。先ずはこれと同じ物を使えるようにしてみましょう」
三人の目の前に、一つずつライトボールが移動する。
お手本をしっかりと用意してくれるとは親切な事だ。
この程度であれば、最低限魔法が何なのか理解している人間ならば、練習次第で同じものを作る事が出来るだろう。
「なるほどな。ライトボール」
マフティーが呪文を唱えると、エメリナが作り出したのよりも小振りのライトボールが現れた。
大きさもだが、エメリナのは真っ白で淀みの無い光だが、マフティーのはあまり綺麗ではない。
「詠唱破棄でその精度は素晴らしいですね。練習すれば直ぐに達成できると思います」
「これでも王子だからな。だが、一度で成功出来ないとは……」
「ジョンさんに確認して、二年生程度の技量が必要になる用調整してありますので、直ぐに出来ないのも当たり前でしょう」
「えーっと、光の球よ、敵を打ち砕け。ライトボール!」
マフティーに引き続きアントワネットも唱えるが、パッと見大きさは問題ないが、ライトボールは滞空せずにそのまま打ち出され、遠くの壁に当たって四散した。
思わずアントワネットは「あっ」と声を上げる。
「詠唱に気を取られ過ぎてしまいましたね。大きさは良さそうでしたが、込められた魔力の密度が低いですね。もっとしっかりとイメージしてみて下さい」
「分かりました」
流れ的に次は俺なのだが……とりあえず完コピしておくか。
パフォーマンスとして、手をエメリナの出したライトボールの隣に出し、全く同じ大きさ、同じ魔力量でライトボールを出す。
「…………教会に興味はありませんか?」
「遠慮しておきます」
しばし無言になって、俺のライトボールを見詰めていたエメリナが馬鹿な事を言ったので、即答しておく。