第124話:狐目の人間は大体悪者(偏見)
「二十六番のお客様ですね。大変申し訳ないのですが、別室に来ていただいても良いでしょうか?」
呼ばれて査定された金を貰って終わりかと思いきや、まさかの別室である。
理由に心当たりはないが、とりあえずアクマのせいって事にしておこう。
本音を言えば断ってしまいたいが、他で換金するよりは早いだろうし、素直に従うとするか。
「分かりました。後ろの三人も一緒で構いませんか?」
「ありがとうございます。問題ありませんので、此方にお願いします」
カウンターから入り、店の裏へと案内される。
後ろから服を掴まれているせいで少し歩きにくいが、振りほどくほどではないので無視しておく。
案内された部屋には狐の様な女性……狐族と思われる女性が俺の渡した袋と共に待っていた。
「呼び出してしまってすいませんなあ。先ずはお座りください」
胡散臭い感じだが、見た目が胡散臭いからと性格までがそうとは限らない。
初めて目にしたジャンヌさんは目の前の女よりも胡散臭く、アクマから注意されてもなお、敵ではないのかとしばらくの間疑った。
結果的にとても良い人であり、俺の中ではコーヒー友達と呼べる程度の仲になれたと思う。
おそらく純粋な友達としては、ジャンヌさんが一番趣味があっていた。
あの人とコーヒーを飲みながらまったりと過ごした時間は、俺の記憶の中でも良いものだった。
結局あの人がどこから天然物のコーヒーを仕入れて来ていたのか分からなかったが、ジャンヌさんのコーヒーを淹れる腕はプロ並みであり、俺よりも上だった。
……話が逸れたな。
言われた通りにソファーに座ると、お茶が配膳される。
「うちは万事屋メーテルの買取り部門の店長をしてる メーテル・コンタシアと申します。今回呼ばして貰うたのは、此方の魔石をどないして手に入れたのか、聞きたかったさかいどす」
ふむ……ふむ?
「魔石は私が倒して手に入れたものですが、何か不審な点がありましたか?」
「とんでもあらしまへん。ただ、ここら辺では見られへんものやったさかい、不思議に思いまして。それに、いささか子供では相手にならへんランクの物もあったさかい、盗んだものとちがうか思いまして」
くすりと笑い、まるで自分はそうは思ってはいないが、そう思われるのも仕方ないとでも言いたげに、袋から純度の高い魔石を取り出す。
俺が倒した悪魔は、元の世界基準でDかCランク位の強さなので、雑魚も雑魚だ。
アースドレイクよりは強いが、俺の知り合いの魔法少女ならば誰でも勝てるだろう。
そして今更だが、何で京都弁なのだろうか?
一応俺には翻訳して聞こえているはずなので、方言の概念とかないはずだが、これもアクマかエルメスのお遊びだろう。
「つまり、私がそれだけの魔石を手に入れられる実力があると、証明すれば宜しいのでしょうか?」
「そうどすなぁ。盗んだものとちがうと証明して貰えたら、色を付けて買い取らして貰うどすけど、出来なかったら分かってます?」
目を細めて、ニッコリと笑う様はどう見ても悪者だな。
中々様になっているが……。
(アクマ)
『ロッカーに一人と、そこの木箱の中に一人。それから後の扉の後に一人だね』
悪役とは、やることがワンパターン過ぎるな。
普通に移動してから実力を測れば良いだろうに、何故闇討ちに括るのだろうか?
殺気を感じない辺りプロなのか、もしくは単純に脅すだけみたいだが、先手を取らせて貰うとしよう。
三本の鎖を射出し、アクマの指示した所に居る三人を簀巻きにする。
メーテルは特に驚く事なく成り行きを見守り、三人が床に並ばされたところで、ゆっくりと俺に頭を下げた。
「どうやらうちが間違うとったみたいどすなぁ。そやけど、無詠唱でその早さどすか……。光属性ちゅうことは、もしかしてルシファー様のお知り合いやったりするん?」
「いえ、全く関係ありません」
隣に座っているかえで達が突然の事態に驚くが、メーテルは反応を示さず、お茶を飲む。
簀巻きにしておいた三人は、俺達が来た側の廊下へと投げ捨て、それから鎖を消す。
「そうどすか。買取価格どすけど、迷惑料を含めて五十万円でいかが?」
「適正だと二十万位と思いますが、迷惑料込みでも多くないですか?」
貰えるならば貰えるだけ貰いたいが、何事にも適正というものがある。
しかし度が過ぎるのは考えものだ。
「魔石ん価格だけならばそれくらいやけんど、此処では手に入るることが難しい魔石になるけん、そん分値が上がった形になるなぁ。それと、また魔石売って頂くことは出来るかえ?」
色々と加味しての値段か……輸送量とか手間賃を考えれば値段としてはおかしいと言う程ではない。
だからと言ってメーテルの願いを聞く必要はなく、面倒を考えれば…………いや、待てよ。
こいつにかえで達を押し付ければ良いのではないだろうか?
ソローに話を通すよりは、金で解決できそうなメーテルの方がまだ楽だろう。
「なるほど。でしたら私のお願いを聞いていただけるなら、正規の価格かつこれから魔石を売る時は此処で売ると契約しましょう」
「契約してええんどすか? その意味分かってますん?」
「私としては問題ありませんので。それで、どうしますか?」
「……内容は?」
「この四人が生きて行けるように面倒を見て下さい。分かっていると思いますが、不当な扱いをせずにです」
かえでが不安そうに見てくるが、ソロー達みたいな裏社会よりも、一応真っ当に生きているメーテルに世話をしてもらった方が、多分マシなはずだ。
従業員も普通そうだったし、たまには見に来る予定なので、大丈夫だろう。
メーテルはしばらく黙り込んで、何やら考えているようだ。
もしも無理だと言われたら、面倒だが予定通りソローに任せる事になるだろう。
「そうやなあ……構いませんよ。その代わり、一ヶ月以内に五十万円分の魔石を売って貰うてもええどすか?」
「その程度なら。契約書をお願いします」
何か言いたげにメーテル目を細めるが、何も言わずに手を叩く。
すると高品質な紙を持った女性が現れ、メーテルへ差し出す。
スラスラと契約書を二枚書き、確認のためと両方とも差し出してきた。
……問題なさそうだな。仮に契約を反故にされたら、それを口実にメーテルを殺せばいい。
きっと沢山の戦力を、用意してくれている事だろう。
「あの、大丈夫なんですか?」
「そのための契約です。特に裏の顔のある人間は契約の穴を突く事はあっても、契約を破る事はしません。信用や信頼と言ったものは積み重ねるものであり、金銭だけで得るのは無理ですからね」
「よう分かっとるなぁ。どない小さな契約でも、いっぺん破ったらそらおっきな瑕疵となる。そやさかいこそ、意味を聞いたんどすけど、しっかりと分かってるようどすなぁ」
その契約のせいで何度か痛い目を見て、仕返しに痛い目を見せてきたからな。
俺がフリーランスなのを良いことに、阿漕な契約を結ぼうとしてきた会社が幾つかあった。
流石に犯罪クラスのは無かったが、遠回しな表現で支払金額を下げようとして来るのは日常茶飯事だし、納期も頼んでから三日以内とかにされそうになったことがある。
酷いものは間に弁護士を挟んでやり取りしたこともあるが、一番面倒だったのは魔物によって会社が潰れた時だった。
しかも仕事が終わって後は確認と支払を待つだけだったのに、とある契約の一文のせいで面倒な事になった。
ほぼ愚痴みたいなものだが、契約はクソ面倒な事だが契約をしないともっと面倒な事になるので、契約を結んだ方が方が得なのだ。
契約書の確認をしっかりとしてからサインをして、メーテルへと渡す。
「確認したさかい。お金は帰る際に受け取ってくれやす。さて、此処からは世間話としましょ」
商人らしい張り付いた笑みを浮かべていたメーテルは、契約書をいつの間にか部屋にいた店員へ渡し、取り出した扇子で口元を隠す。
「なんで態々盗人を捕まえて、此処まで連れてきたんどすか?」
結構な出入りがある筈なのに、かえでが俺から袋を盗んだところをしっかりと見ていたようだな。
かえでを見逃したのは、後々回収しようと思ったのか、それとも俺が声を上げなかったからか……。
店内で騒動を起こせば、どうしても売上が下がる。
その事を危惧していたと考えるのが妥当か?
「成り行き。もしくはこの子達の運が良かったからでしょう。とある国の言葉ですが、強者には選ぶ権利があるそうです」
「そら分かりやすい理由どすなぁ。それで、面倒とは普通に育てたらええんどすか?」
「お任せします。食事と寝床の用意さえ怠らなければ、私から強く言う事はありません」
服を掴まれる力が強くなるが、人間やる気があればどうとでもなる。
俺に甘やかすなんて芸当は出来ないし、メーテルも馬鹿な事は流石にしないだろう。
そのための契約だし。
「何とも好きものどすなぁ。怯えんでも、取って食う事はしいひんさかい、安心してくれやす」
「……は……はい……」
「これからよろしくお願い……します?」
かえでとリーネは返事を返すが、他の二人はメーテルに怯えたままだ。
胡散臭い奴だし、俺にはアクマのせいで口調が酷い事になっており、胡散臭さが更に増している。
せめて標準語にしてくれれば、まだ真面目そうにしているように見えるのだが、この口調ではなぁ……。
序盤は仲間だが、終盤の大事なところで裏切る悪役にしか見えない。