第117話:お茶会? 青春です
「それは中々の大きさだな。ブロッサム家にはコランオブライトを安定して手に入れる方法でもあるのか?」
呆れ半分。驚愕半分の反応をしたマフティーだが、その反応に対してリディスが俺に助けを求めてくる。
馬鹿正直に話さず、自分が持っている事を話さなければ問題なかったのに、話してしまうから苦しむ事となる。
真っ当に手に入れたのならば悩まずに話す事が出来るが、リディスが手に入れた方法はシルヴィーからの手渡しである。
マフティーがシルヴィーについてどの程度知っているのか分からないが、今回は付いてこない辺り、顔を合わせたことくらいはあるのだろう。
知り合いでも誤魔化す事は出来るが、俺から距離を取ると絶対にバレないとも言えないらしいからな。
まあ何よりも、神様から家賃として貰ったなんて話す事が出来るはずもないか。
取りあえず、少し助けてやるとしよう。
「そちらのヨルムをブロッサム家で養う時に、養育費として受け取ったものとなります。本来は当主が受け取る予定でしたが、首席合格のお祝いとしてリディス様に渡った物となります」
「成程。銀髪だから何があると思ったが、そう言う事か」
「あの、ヨルムさんですが、メイドをしているんですよね?」
養育費を貰っているので、何故働かせているのか?
そうステファンは思ったのだろう。
至極真っ当な考えだ。
「ヨルムを預けた方から、教育としてメイドをさせるように指示がありましたので。口調の方はどうしようも無いですが、所作やマナーについては見て頂いた通りです」
「確かに口は悪いけど、それ以外は完璧と言って良いわね。私と初めて会った時も、口調以外全く問題なかったわ」
「そうですね。今も全く違和感を感じませんね。容姿も整っていますし、姓も有ったりするのですか?」
姓があるかは知らないが、中々愉快な種族名を持ってはいる。
……そう言えば、一応クシナヘナスの娘になるので、性はあるのかもしれないな。
人の国での性のあるなしは、貴族かそうではないかだが、それも国によって変わってくる。
詳しい所までは知らないが、平民でも姓のある国もある。
国の形は違うが、東方にある日本に似た国。それと南の方にある、オーストラリア大陸に似た大陸にある国には基本誰もが姓を名乗っている。
姓ってのは有るか無しなら、有った方が良いものだ。
名前だけだと被ることがあり、姓があればどちらで呼ぶか色々と使い分けが出来る。
他にも情報のやり取り等でも活用できるが、ともかく有った方が良いのは確実だろう。
「あるにはあるが、今の我はただのヨルムだ。それ以外の何者でもない」
「俺がいると言うのに、不敬な物言いだな。だが、訳ありの人間を追求する程、俺は小さくない」
寛大な対応をしてくれたマフティーには悪いが、身分的に言えばこの中でヨルムが一番上になるんだよな……。
こんなのだが、ヨルムは神の使徒だし。
「何が寛大よ。あんたが不敬罪を訴えたところで、誰もまともに扱うわけないでしょ」
「まあな。俺の立場では誰もまともに取り扱ってはくれんからな」
気障ったらしく笑うマフティーに、侯爵組が苦笑いを浮かべる。
第四王子ってだけならば問題ないが、色々とあってマフティーは王族の落ちこぼれと言われている。
何故なのかは興味がないので、ゼアーの情報を聞くまで分からないが、第三王子とは違い性格は悪くないようだ。
少々うざいが、矛先が向くのはどうせリディスなので問題ない。
「しかし、噂では名を聞いていたが、あのブロッサム家のアインリディスか……無魔だったと言うのは本当か?」
「正確には魔力はありますが、既存の魔法が一切使えなかったのです。固有となるので詳細は伏せさせてもらいますが、今は基本属性を全て使うことが出来ます」
「それは素晴らしいが……嘘ではないのだな?」
今のところリディスの固有魔法がどんなのかを知っているのは、俺とアクマ達だけである。
リディスには全ての属性を、詠唱することで使えるようになると説明したが、正確には異なるのだ。
とは言ってもそれは些細なことであり、詠唱すれば魔法を使えるのは本当の事だ。
ついでにリディスの場合は、俺と違いデメリットがない。
リディスは魔法少女ではないので当たり前と言えば当たり前だが、そのせいで決して強いとは言えない。
そらでも、この世界の同年齢で見れば上位だろうけどな。
「はい」
「そうか。それが本当ならば、あまり言い触らさない方が良いだろう」
リディスは何故と言いたいのか、少しだけ首を傾げる。
アーシェリアは理由が分かっているようだが、ステファンとジゼルは分かっていなさそうだな。
全員の様子を窺ったマフティーは紅茶を飲んで、一度咳払いをする。
「ふむ。一応理由を話してやろう。現状この国は大国であり、食料や資源に恵まれている。更に魔物やダンジョンによる被害も少なく、住みやすい国と言えるだろう。そのせいか、兵力は低下しており、一部の者等は武力を手に入れようと躍起になっている。特に固有魔法とは遺伝により現れるものが多く、子や孫の代程度ならばそのまま発現する可能性が高い。ここまで言えば分かるだろうが、全ての属性が使えるというのは希少性がある。侯爵とはいえ、何があるか分からんだろう」
マフティーが長々と話してくれたおかげで、リディスが念話で煩くなる。
マフティーが話した内の一部はゼアーから聞いていたものであり、気にする程のものではない。
物語の勇者や英雄の最後が暗殺で終わるように、力を持つ者が狙われるのは仕方のないことだ。
無論ハッピーエンドで終わることもあるだろうが、命を狙われる程度で騒いでいては、ストレスで禿げてしまう。
リディスの文句は全て無視するとして、こいつがこんな状態でも澄まし顔をしていられるのは、もしかして念話に集中しているからなのだろうか?
今度リディスが慌てるような局面になったら、わざと逃げてみるのもありかもしれないな。
「まぁ何か起きれば、私がリディスを貰ってあげるから大丈夫よ。私の後ろ盾があれば、手を出してくるような馬鹿はいないわ」
(失礼にならない程度に断って下さい)
『……分かったわ』
「心配して頂きありがとうございます。ですがブロッサム家の一員として、自身の力で解決しようと思います」
「そう。なら拐われないように頑張りなさい」
一度でも拐われれば、間違いなくアーシェリアは助けに動き、それを貸しにしてリディスを手駒にする気だろう。
何なら今マフティーが言った勢力を唆して、マッチポンプを企てるかもしれない。
「あの、因みにその勢力はどれ程のモノなのですか?」
「存在していることが分かっているだけで、どれだけの勢力なのかは俺でも分からん。分かっていれば、とっくに滅んでいよう」
ステファンの質問だが、当たり前の事としか言えないな。
マフティーは武力を手に入れようとしていると言ったが、要は叛乱するための戦力を集めているということだ。
そんな奴らを王族が野放しにするわけがなく、分かり次第全員殺すだろう。
問題としては分かっていても、証拠を掴まなければなにも出来ないことだろう。
証拠があれば間違いなく、第三王子と…………。
『ペテルギウス家ね』
……ペテルギウス公爵家の一部は、とっくに捕まっているか死んでいるだろう。
しかし、全く気にしていなかったせいか、完全に名前を忘れていたな。
まあ俺が忘れた時のためのアクマなので、問題無い。
それなりに記憶力がある方だとは思うが、たまに忘れてしまうのは仕方ない。
用意しておいた紅茶を、中身の無くなっているカップに注ぎ、食べ終わっている食器をカートに戻す。
「まあ学園を卒業するまでは、気にしなくても良いと思うわ。生徒に手を出せば、間違いなく証拠が残るし、メリットよりもデメリットの方が大きいもの」
「アーシェリアの言うことも最もだが…………いや、王子としてはこれ以上何も言わないでおこう。話は変わるが、ハルナのお菓子を学園でも食べることは出来るのか?」
「相応の対価と時間を頂き、リディス様の許可があれば可能です」
どうもこの第四王子はリディスよりも、俺に話し掛けてきているように感じる。
少々面倒だが、流石に今は何もすることは出来ない。
「成る程。例えばだが、お茶会を開催した際に料理をお願いするのは?」
「王家の方と関わりがあると周囲に知られると、私の立場が悪くなりますので、出来れば遠慮したく思います。リディス様を招待され、手土産程度でしたらまだ可能かと」
「仮にも王族に対してずけずけと……アーシェリアの様な女が気に入るのも頷けるな」
「喧嘩なら買うから言いなさい」
堪える様に笑うマフティーを、アーシェリアが睨み付ける。
ジゼルも女なのだから、不良物件とはいえ王族であるマフティーに粉を掛ければ良いのに、何を躊躇っているのか……。
『ハルナさんや。ジゼル達は二人一緒に来たって辺りで、何か思わないの?』
(何かと言われても………………ああ、もしかしてだが、一緒の馬車なのか?)
『それは勿論』
今会話して間、ジゼルは落ち着いた様子だが、反面ステファンは常に緊張している。
ステファンの緊張はマフティーに向けられてのものだが、たまに視線がジゼルに向くことがある。
つまり、二人はそういう仲なのだろう。
流石にまだ、行為までは至っていないだろうが、若いというか、青いというか……。
これが青春……。