表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/135

第108話:ピクニックだよ

「強いとは思っていたけど、まさかこれ程とは思わなかったわ」

「恐縮です」


 気絶したリリアを叩き起こし、二人を軽く治療してからシートを敷いて昼食を食べる。


 ピクニックと言えばサンドイッチと言うわけで、それなりの種類のサンドイッチを準備した。


 ベヒモスの肉をパテにして挟んだサンドイッチや、アースドレイクの肉を煮込んでから照り焼き風にしたもの。


 ジェノベーゼソースやツナマヨモドキを使ったものとかだ。


 我ながら良い出来である。


「それと、このサンドイッチ美味しいわね。ハルナが作ったの?」

「はい。少し前に珍しい肉や香草が手に入りましたので、色々と作ってきました」

「師匠の料理はおいしいですが、味わったことがない肉ですね……」


 リリアの言葉を聞いたアンリは首を傾げ、食べている手が止まる。


 おそらく違和感を持ったのだろうが、どうせ何の肉か当てることは出来ない。


 流石のSランク冒険者も、魔界には行った事はないだろうし。


「それにしても、本当に無茶苦茶ね。見た事の無い魔法のオンパレードに、私達の魔力を回復させても余裕の魔力量……まあ他人の魔力を回復させられる事自体がおかしいんだけど、一体何者なのよ?」

「ただのメイドです。私は」


 疑いの目を通り越して呆れた目でアンリは俺を見てくるが、変身していなければただのメイドだ。


 肉体的なスペックはこの世界では下の方だし、総魔力量自体はアンリと同程度位だろう。


 首を斬られれば死ぬし、寝なければ寝不足になる。


 いたって普通の人間だ。


 まあ即死さえしなければ、死ぬ事はないだろうが。

 

「師匠。普通の人間の少女で、そこまでの強さを持っている者は存在しないかと思います」

「私以外にもヨルムが居ますよ。この後戦ってみますか?」

「我は一向に構わないぞ」


 見た目だけならば俺と同程度なので、ヨルムと戦えばリリアの評価も変わるだろう。


 中身はともかく、見た目は少女なのだし。


「リリア。乗せられちゃだめよ。その子だけど、実質Sランク冒険者と同程度の剣技と、最低でも上級魔法を無詠唱で唱えられるわ」

「……今の人の子はこれが普通なのか?」


 リリアが上手くアンリに乗せられてくれたが、アンリ以上にリリアはヨルムがヤバい奴だと知っている。


 もしもアンリがこの前の雪辱を晴らしたいと言ったならば、リリアが止めていただろう。

 

「例外よ。何かしら隠してるんでしょうけど、教えるつもりはないんでしょう?」

「私の事で隠してることはありませんよ。ブロッサム家のアインリディス様に仕えている一介のメイド。強いのはその分訓練をしたからです」


 勿論嘘であるが、あくまでも俺の身の上については隠していない。


 ここでどこから来たとか、出身を聞かれたら普通に嘘を吐くが、生きていく上で嘘を言うのはあまり宜しくない。


 だがリリアは目を逸らすな。


「そう……まあ詰問したところで私の知識欲を満たす意味はないし、恩もあるから何も聞かないわ。けど、学園ではもっぱら魔法の研究をする予定だから、暇なら手伝いなさい」

「承知しました。その代わりと言っては何ですが、調理器具を置いておく許可を下さい」


 基本的に北側にある部室を占拠しようと思っているが、流石に限度がある。


 あそこの部屋は通常クラブ活動用のものであり、最低でも部員が五人以上でなければ、使用が出来ないらしい。


 アーシェリアを巻き込めば丁度五人だが、あれが居ると騒がしくなる。


 何のクラブを設立するかの問題もあるが、逃げ場所を他にも作っておいて損はない。


「構わないわ。最低限のものは学園に用意させておくから、足りないものは私に言いなさい」

「分かりました。たまにですがリリアに食材を運ばせますので、よろしくお願いしますね」

「……ええ、分かったわ」


 アンリは何も気にしていなさそうなリリアを見てから、返事をする。


 基本的にエルフは他種族と壁を作っている。


 ニーアさんの様に理解のあるエルフは少なく、エルフの経営している店はあっても、エルフが居る店となると一気に少なくなる。

 

 変わり者のエルフがギルドで冒険者をしている事もあるが、とにかくエルフは自尊心……プライドが高く、扱いにくい種族だ。


 そのプライドがあるおかげで、割りと信用出来る利点がある。


 分かりやすく例えれば、猫みたいな奴って事だな。


 懐かせるのは大変だが、一度懐に入れば後はとんとん拍子だ。


 ……まあ正確には違うが、信用できるエルフは人間よりも使い勝手が良いのは確かだろう。


「さて、お腹も膨れたし、聞きたい事があるんだけど?」

「何でしょうか?」


 作ってあったサンドイッチを食べ終わり、食後のティータイムに入った事で、話が切り替わる。


「声が小さくてほとんど聞こえかったけど、最後のあれってセイクリッドヘブンをアレンジした魔法よね?」

「そうです。回復効果を束縛効果に変換し、自由を奪い去る魔法となります」

「なんでほいほいと禁忌魔法を使えるのかは置いといて、その前のはジャッジメントよね?」


 やはりだが、アンリは俺がどんな魔法を使っていたが簡単に言い当てる。


 完全オリジナルではなくてアレンジした魔法とはなるが、まず分からないだろうと思っていた。


 ジャッジメントは戦略級だが、アレンジした結果大体禁忌級位の魔力消費量となり、逆にセイクリッドヘブンは戦略級に堕ちている。


 回復させる行為は割りと理を侵害している行為らしく、難易度が上がる。


 なので、回復の効果を変化させたら必要な魔力が少なくなったのだ。


 俺にとっては微々たる差だが、世間的に見れば一つの発見とも言える。

 

 既存の魔法を使うのが主流の今ではあまり意味がないかもしれないが、アンリの研究次第ではもしかしたら効果が認められるかもしれない。

 

「禁忌魔法と言っても、私が使ったのは戦略級に落としたものになります」

「なるほどねぇ……。私が言うのもなんだけど。よくそんなに魔法を使えるわね」


 ……ああ、よくよく考えれば、アンリが使っていた三属性の魔法ってオリジナルか。


 少ない魔力で威力を高めようという工夫が見られたが、オリジナルならば頷ける。


 魔力は回復するとはいえ、基本的に有限だ。


 出来るならば節約して運用したいと考えるのが、普通だろう。


 アンリが使っていたのはどれも威力が高いが、込められている魔力は少なかった。


 奥の手としてもっと凄い魔法もあるのだろうが、そうなるとおかしな点が見えてくる。


 終焉魔法を使えば、流石のヨルムも怪我を負う。


 禁忌でも多少ダメージを受けるはずだ。


 しかし見ていた限り、あの時の戦いではそれらが見られなかった。


 使う余裕がなかったのもあるかもしれないが、結局は結果が全てだ。


「使いたい魔法を使っているだけですからね。そもそも、元を辿れば魔法は全て先駆者がいたわけです。ですから、既存に囚われる必要はないかと」

「そうね。それについては常々考えているわ。どうも今の人達は、過去に縛られ過ぎている気がするのよね」

「それはエルフも同じですね。ニーア様達の派閥は変わることを良しとしていますが、森に残っている者達は変化を禁忌としています」


 リリアのそれは、まあエルフだしとしか言えないな。


 寿命が長い分、変化するのを面倒と感じてしまうのも仕方ない事だろう。


 凝り固まった思考というのは、簡単に解れるモノではない。

  

 俺の復讐心も、結局の所消える事は無かったので、変わらない事に対してとやかく言うことは出来ない。


 発展とは、常に良い結果にはなりえないのだから。


「他の国については詳しくありませんが、この国は立ち位置的に平和が続いており、今を維持することを良しとしている風潮ですね」

「言われてみれば、他の国よりも穏やかな人が多いわね。ギルドでも高ランクの人を見なかったし」

「一部で変革を成し遂げようとしていたり、戦争の引き金を引こうとしている人達もいたりしますが、概ねその通りかと」

「……師匠。その情報は漏らしても良いものなのですか?」


 リリアが真顔になるが、この場に居るのは全員この国とは無関係で居られる奴らだ。


 知ったところで問題ないし、報告しても信じる奴は居ないだろう。


 証拠を出せるわけでもないし。


「どの国にも多かれ少なかれ存在する派閥ですから、問題ないかと。実際に事件を起こすのは稀ですからね」

「……ああ、そう言うことだったのね。納得したわ」


 何やらアンリが一人で察してしまったようだが、何かあったのだろうか?


 因みに会話に参加していないヨルムは、近くの森に果物を取りに出かけている。


 どうやら森には様々な果樹があり、野生でありながら結構美味しいらしい。


 何故こんな事を知っているかだが、知らぬ間にシルヴィーがヨルムに教えていた。


 今頃食後のデザートとして何か食べているだろう。

 

「さて、午後はどうします? また私と戦いますか?」 

「そうね。望むところよ。いつの間にか魔力も回復してくれたようだしね」

「私もお付き合いします」


 リディスみたいに泣いてくれないのは少々物足りなく感じてしまうが、戦えるのならば別に良いか。


「分かりました。折角ですので、次は少し趣向を凝らしましょう」


 ヨルムが帰ってこないので、自前で結界を展開してから立ち上がる。


 俺が独立して使える鎖の本数は……まあ大体七本程度。


 だが、この鎖は自由度がある代わりに、かなりの容量が必要となる。

 

 なので普通の魔法ならば、かなりの数の魔法を、ほぼ同時に展開出来る。


「それでは、始めましょうか」

「……まだまだ隠し玉があるってわけね」

「訓練で見た以上に、圧倒的な景色ですね」


 唱えたのは、メイド長と初めて戦った時に使った千剣舞う光の輪舞ソード・ルクス・ロンドを更に強化した魔法。


 ドーム状に展開しただけではなく、俺の背後にも追加で待機状態で展開してある。


 ついでに丸い棒状だったビームを、剣や槍だったりに形状を変化させて見映えを良くしている。


「それでは、頑張って下さい」


 顔をひきつらせた二人に向かって、魔法を発射する。


 結果は…………少し服がボロボロになったが、二人とも無傷なので問題はなかったとだけ語っておこう。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アンリは果たして何を察したのか。学園の何かかまさかのハルナの正体か。何だとしても面白いですね。 ハルナさんあなたのセーフの基準はかなり壊れているのよ… しかも自分と相手両方に適用できてしまう恐ろしさ…
……じつはですね、そのお肉、終末でそこの…(もういっぽうの少女を指さす) 冗談から始まって後になるほどこわくなる、もう納涼の季節ですね さてアンリさんが察したのはどんなおはなしだろ リディスさんの冒…
ただのメイド… ただの?(“普通の”という意味では間違っていますけど、“無料奉仕の”という意味では正しいかと。) “あくまでメイドですから”のほうが正確だけど。 実際、伯爵家から給与がでているわけでは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ