第47話 選択
ふざけた修行を終えた後、俺たちは再び食堂に集合していた。
他の連中も一緒だ。
テーブルの上には相変わらず豪勢な昼食が並んでいる。
さて、重要な話があるという事だが、どのような内容だろうか。
「お待たせしました」
遅れて現れたラヴィニア。
昨日の柔和な笑顔は消え、神妙な顔をしている。
あの歓待からの落差、嫌な空気だ。
「お集まりいただき、ありがとうございます。さて、これから話す事は、私たちから希望号に乗る皆様へのお願いになります」
そこで、ラヴィニアは言葉を詰まらせる。
「何を言いたいのかは大体わかっている。本題に入ってくれ」
トーコが口を開く。
「わかりました。他の皆様はご存知でしょうか、現在
我が国は隣国のグランディアとの戦時中だと」
周りの皆は、その言葉を当たり前の事実のように受け入れている。
戦争。
ミス・アナの話を聞いてはいるが、馴染みがない。
「幸いダラサールは戦線から離れた場所にある為、長い間、戦火から逃れていました。しかし、五年前、遂に魔術協会より通達が来たのです。血を流せと」
魔術教会、確か、名前は。
「……エヴァンジェルム」
「そうです。この街も彼らに目をつけられたのです。そして、私の父は兵を率い進軍し、帰らぬ人となりました。それで得たものは束の間の平和。再び、同様の通達がありました」
釈然としない。
なぜ、当たり前のように従っているのだろう。
「待てよ。なんで、言いなりになっているんだ。魔術教会が諸悪の根源なら、そいつらを倒せば済む話だ」
俺の発言に皆、一様に呆れた様子を見せる中、ラヴィニアは丁寧に説明を始める。
「教会に所属している魔法使いについて、ご存知ですか?」
「いや、詳しくは知らないが」
「彼らは人間には到達できない場所に届いた者たち。時代が違えば、いえ、現代でも神とすら呼べる存在なのです。逆らうことは出来ません。武力でも魔術でも、私たち人類が勝る要素など一つもありません」
ああ、何処もかしこも同じような話ばかりだ。
巨大な力に抑え込まれ、その中でせめてもの自由、平和を求めるために疲弊し偽の笑みを浮かべる。
「……だったら、俺がそいつらを殺す」
「無理だ。魔禍軀程度に苦戦したお前にはな」
エイブが口を挟む。
「なんだよ。そうやって言いなりのままでいるつもりか?」
「そうは言っていない。だが、今のままでは勝てぬ。力を身につけ対策を立てなければ足元にも及ばない」
「なんだ、勝てる見込みはあるのか」
肯定とも否定とも取れない微妙な顔をするエイブ。
脱線し始めた会話に、ラヴィニアが咳払いをする。
「話を戻しましょう。今回、指定された戦地はグランディアとの国境にある山岳地帯です。魔術教会に戦闘機の運航は禁止されており、険しい山道では騎馬隊も機能しない。そこで、皆様にお願いです。走れぬ道はない、希望号で、私たちと共に進軍してほしいのです」
その発言に面食らったのは俺だけのようで、皆は初めから依頼内容がわかっているようだ。
「先の戦いで勇猛な父、果敢な兵士を失い、残されたのは女性と子供のみ。このままでは、蹂躙されるためだけに戦地に赴く事になってしまう。どうか、お願いします。私たちの命を、救ってください」
立ち上がり頭を下げるラヴィニアに続き、後ろに控える使用人らも一斉に頭を下げる。
迷う必要はない、俺たちの力で救える命があるのなら、そうするべきだ。
しかし、それは同時に敵を殺す事になる。
他に案はないか、俺は助けを求め皆を見回す。
「……ユウキ、これはお前が決めないといけない。希望号の運転手である、お前が」
しかし、トーコの突き放すような言葉。
以前の様に、なぜ俺なんだとは、もう言えない。
だが、そう簡単に答えられそうにない。
そう悩んでいると、頭を上げたラヴィニアが沈黙を破る。
「申し訳ありません。唐突過ぎましたね。あまり猶予はありませんが、考える時間はあります。どうぞ、答えが出るまで引き続き、ここでお過ごしください」
俺の答えを待たずに立ち上がり去って行くラヴィニア。
その姿が見えなくなった途端、今まで黙っていたアリスが嬉々として口を開く。
「やっぱり、救いようがないね。お兄ちゃん、どうする?誰かを守るには、誰かを殺さないといけないけど、それじゃあお兄ちゃんの意志に反するよね?ね、考え直せばいいんだよ。皆を殺せば悩む事もないんだから」
アリスのふざけた言葉に反論できない事が歯痒い。
だが、この世界に抗うためには悩み続けなければならない。
「ユウキさん。あなたは独りじゃない」
カタリナが口を挟み、アリスは不貞腐れる。
「罪を背負わず生きる事は不可能かもしれない。それでも、共に背負う事は出来ます。一人で抱え込まないでください。私がそばにいます」
「カタリナ……」
「いつでも相談してください。共に戦いましょう」
あれだけ鬱陶しく思っていたカタリナの存在、言葉が、今では何故か暖かく頼もしい。
頼ってもいいのだろうか。
「もう少し考えるよ。何があったら、その時は、頼む」
「はい」
聖女の微笑みは、いつの間にか俺の心を軽くしていた。




