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第46話 実戦

「エイブは何もしないのか」


「右手が本調子でないのでな」


そういえば、あの時の戦いでエイブの右手はぐちゃぐちゃになっていた。

しかし、その手を注視すると元の形を取り戻し、視線に気付いた彼は右手を軽く動かしてみせる。

一朝一夕で治る様な傷ではなかったはずだが。


「ぼさっとしていていいのか?始まっているぞ」


「は?」


途端に、骨が軋む音、顔面に痛みと衝撃が走る。

気付けば俺は仰向けに倒れていた。


急ぎ起き上がったところ、今度は腹に蹴りをくらい、また吹き飛ばされる。


「ユウキさん!」


「手を出すな!」


初めて耳にするエイブの怒声が響く。


「お前の決意はそんなものか?立て!」


痛み、内臓がひっくり返った様な不快感。

あまりの理不尽、エイブは何を考えている?


「それとも、痛みを前に、死を前に消えてしまうほどの矮小なものだったのか?」


そんな事はない。

しかし、事態があまりにも急過ぎる。

それに、決意を固めて戦う様な状況でもない。


『相棒、あの女はここでお前を殺す気だぞ』


久々に聞いたフォルティミアの声に慌てて体を起こすと、こちらへ悠々と歩いて来ているフェイの姿が見える。


「俺を殺すつもりか」


「そうだ。お前より上等な人間などどこにでもいる。だから、安心して私に殺されろ」


カタリナに視線を向けるもエイブに制止されているのか動きはない。

フォルティミアに力を借りるべきか。


『これはお前の戦いだ。俺は何もしない』


くそ。

一体なんだっていうんだ。


「ぬるい、ぬるいぞ、ユウキ!この世界はいつだって死と隣合わせなのだ!」


なるほと、エイブは俺に処世術を教えたいのだろう。

一時も油断するな、誰も簡単に信用するなと。

しかし、今の俺に何が出来る。


そうしている間にフェイは目の前。

彼女の右腕が振り上げられた様子を見て集中し、なんとか一撃目は躱す。

だが、二撃目、ボディブローをくらった俺はその場に蹲る。


「殴り合いの仕方を教えてやろうか。腹を殴って動きを止めた後、頭をタコ殴りにするんだ」


躊躇なく拳を振るわれ、一、二、三発目で俺は倒れる。


「何をしている!愛を語ろうと愛を歌おうと、愛を叫ぼうと!力が無ければ誰一人守れはしないのだ!立ち上がれ!俺は世界一強いのだと、誰も死なせないのだと、抗え!」


視界がチカチカと点滅し、口内はドロリと血の味が広がる。

エイブの言葉が俺の全身を叩くも、動けない。


「血の滲む努力をしようと報われぬ。涙を流そうと救いは現れぬ。自分の力で勝つ、勝つのだ。それしかない、それしかないのだ!」


その時、フェイの大笑いが響く。


「無駄だ!こいつには何も出来はしない!奴隷根性が染み付いているのに一時の感情で調子に乗って人殺しさえ簡単に犯す、どうしようもないクズなんだ!」


「ユウキ、怯むな!痛みがどうした!人間の身体なぞ、連綿と続いてきた歴史の、人類の意思を繋ぐ器に過ぎん!ただ、お前の胸に宿る熱情のままに戦え!」


意識が薄れていく。

俺は、結局。


『……仕方ない。戦い方を教えてやる』


フォルティミアの声。

だが、俺の力で戦えないと、意味がない。


『心配するな。丁度、魔力を循環させる返しも出来た所、お前の身体能力を限界まで引き出すだけだ。それで、戦い方を体に覚えさせろ』


初めてフォルティミアを装着させられた時と同じ様に、全身に熱が巡り始める。

次第に俺の意識は鮮明になる。

すかさず、右拳を握りしめ、起き上がると同時にフェイ目掛けて振り上げる。

だが、空振り。

フェイは距離を置いてこちらを警戒している。


ああ、体が熱い。


先程とは打って変わり、真剣な様子で一気に距離を詰めるフェイ。

俺はかろうじて彼女の攻撃を避け、受け流し応戦する。

しかし、その度に筋繊維が引き伸ばされ、関節にも痛みが走る。


『相棒、限界は近いぞ。反撃しろ』


その言葉を合図に隙を見て拳を繰り出す。

そのどれもが決定打にならない。

その膠着状態に苛立ちを見せ始めるフェイ。


「何故、諦めない?何もないお前が、何のために生き延びようとする!」


そんなものは、決まっている。


「俺が、アイを愛しているからだ!」


そう叫ぶと、フェイは再び距離を取る。


「アイの事を想うと苦しくて、辛くて、悲しくてどうしようもなくなる!そのくらい、愛している!だから、俺がここで死ぬわけにはいかない!」


「馬鹿が!たった少しの期間、共に過ごしたぐらいで何を愛している、だ!」


「あの時間が俺の全てだ!今までの過去とこれからの未来を足して凝縮しても及ばない、それだけの時間だった!」


「私だって、そうだった!お母さんを愛していた!それなのに、お前のせいで死んだ、お前が殺した!」


「悪かったな!俺は何も知らなかった、無力だったんだ!でも、取り返しもつかないけど、それでも、俺は絶対に終点に向かう!ついでにシンの事だって助けてみせるさ!」


「黙れぇ!」


飛びかかってくるフェイにタイミングを合わせ右拳を動かす。

しかし、それより圧倒的に速いフェイの拳が俺の顔面を捉える。


──痛いなんてもんじゃない。

だが、渾身の拳をフェイの左頬に叩き込んだ。


俺たち二人は地面に倒れた。


「そこまで!」


ようやく、エイブから終戦の合図が上がる。

そして、彼の巨体が俺の視界を覆う。


「いい顔になったじゃないか」


「……これで、満足か」


「全く足りぬ。お前にはもっと強くなってもらわねば困る。これからも付き合ってもらうぞ」


「それは、有難い事で」


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