第44話 修行
使用人が運んできた朝食を食べた後、再びノックの音が響く。
「ユウキさん、起きてますか?」
扉の向こう側からカタリナの声。
丁度、これから何をすべきか悩んでいた所だと、俺はすぐにそちらへ向かい扉を開ける。
「ああ、おはようございます」
「おはよう。こんな早くに何かあったのか?」
「ええ。その、エイブさんからユウキさんを呼んでくるように頼まれまして。……その、修行をするとか、なんとか」
何を言い出すかと思えば修行、だと。
だが、丁度いい、俺を鍛えてくれるのなら都合がいい。
「わかった。それで、何処に行けばいい?」
「え?」
素っ頓狂な顔をするカタリナ。
「どうしたんだ、変な顔をして」
「いえ、断られると思っていたので」
「時間を持て余していた所だ、暇潰しにはいいだろう」
「そ、そうですか。それでは案内しますね」
俺の気の変わり様に驚くカタリナの後に続き部屋を出る。
昨日はあまり気にする余裕もなかったが、やはりこの建物は豪華絢爛な作りをしており、廊下にも重厚な赤いカーペットが敷いてある。
しかし、気になる点が一つ。
あちこちに花瓶や絵画が飾られているが、掃除や手入れが行き届いてないのか窓から差す光で積もる埃が照らされ、花瓶には一輪の花も挿されていない。
「そういえば、ユウキさん。昨夜は体調が優れない様に見えましたが、大丈夫でしたか?」
「いや、今まで裏であんな事が起きていたんだと面食らっただけだ。もう問題ない」
「そうですか、安心しました。てっきり、また自暴自棄になられていたのかと」
少しの間、見ないうちにこうなっていれば、そう思うのも無理はないだろう。
そうだな、ついでに状況整理のために色々と話を聞いておこう。
「ところで、色々と聞きたい事があるんだが」
「はい、なんでしょう」
まずは、あいつの事か。
「……フェイ・ウー。あいつが未だにここにいる理由は何だ」
「それは、事情がありまして。ユウキさんと逸れた後も、彼女は怒りに身を任せ暴れ続けていました。ただでさえ厳しい状況だったので、それを見兼ねたのかミス・アナがこう言ったのです。希望号が終点に着くまで協力するならシン・イーを生き返らせると」
「……そんな、馬鹿な」
そういえば、そもそも希望号が終点に着けば望みが叶うという話もあったが、昨夜の会話の中にその件は何処にも無かった。
それに、死んだ人間を生き返らせるなんて可能なのか。
「彼女の死体はミス・アナが空間凍結させ、今でも希望号の一室に保管しています。……ミス・アナは人の魂を操る魔法に長けているので、適合する器があれば可能かもしれません」
「空間凍結って、どういう意味だ」
「詳しくは分かりませんが、簡単に言えば時間を止める事と似た様なものでしょうか。魔術の域を超えた魔法使いのミス・アナにしか出来ない芸当です」
日ノ国生まれの俺にはどれも理解し難い話だ。
「信じられない話だが、そもそも、魔術と魔法は違うものなのか?」
「はい。1から2を生み出すのが魔術、0から1を生み出すものが魔法です。魔法とは、謂わば奇跡とも呼べる力なのですよ」
正しいかどうかは置いておいて、カタリナは嘘をつく性格ではないんだ、ここは知識として受け入れた方が良さそうだ。
「そんな彼女が生き返らせると言ったのですから、誰も否定はできません。そうして、今はフェイさんと協力関係になったのです。とはいえ、彼女がユウキさんを恨んでいる事に変わりはありません。十分に気をつけてください」
「こちらが気をつけていても、いつ寝首を掻かれるか分からないがな」
「ユウキさんが死ねば一番困るのはフェイさんです。そこまでの事はしないでしょう」
まだまだ知らない事ばかりだと不安を抱きながらも、俺はカタリナと話しながら、そのまま歩みを進めた。




