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第38話 仲直り

ヘルヘイムを抜けた希望号は再び地上に魔装鉄路を走っていた。


『今、希望号はバラディアに入った。このまま最寄りの線路に合流するが、燃料は問題なさそうか?』


「ああ。今までにないくらい力が滾っているようだ。問題ないだろう」


『よし、それじゃあ、後は私たちに任せて休んでいいぞ。疲れただろ?』


「ああ」


肉体的、精神的にも疲労が一気に襲ってきた俺は素直に立ち上がりふらつきながら後方車両へと向かう。

この先、どうなるのだろうか、ミス・アナは本当に目的を教えてくれるのだろう、ミハイルらは無事に逃げ切っただろうか。


気になることは山のようにあるが、今はとにかく眠りにつきたい。


そして、次の車両に差し掛かると、何故かトーコが待ち構えていた。


「ユウキ!ほんとに、よくやったな!」


あろうことか、彼女は勢いよく俺に抱きつく。


「ちょ、ちょっと」


「最初はただのクソ野郎だと思ってたが、立派に成長しやがって!」


立派。

彼女の喜び、温もりのせいで、俺の感情は涙と共に堰を切って溢れる。


「俺を助けてくれた人も、優しくしてくれた人も、皆.殺してしまった。立派じゃない。一人一人に命があって未来があった。今更それに気づいた大馬鹿野郎だ」


トーコは俺を解放し真剣な顔でこちらを見つめる。


「だから、皆の命を救うと決めたんだろう?その意志を誰も馬鹿になんて出来はしない。そもそも人間なんてもんは他の命を間接的に奪うことでしか生きていけない業を背負っているんだ。大事なのはそれに向き合うと選択したこと、それができれば十分だ」


「十分なことなんて、ない。俺はそんな上等な人間じゃない」


トーコは神妙な顔をした後、何故か俺の顔を両手で挟む。


「なんちゅう顔してんだ。しょうがない、言葉で足りないなら、ここはお姉さんがほっぺにちゅーしちゃる」


「は?ま、待て!」


唇を尖らせ迫ってくるトーコの顔を必死に避ける。

しかし、万力のような力で顔を固定され想うように動けない。


「おほんっ!」


その時、隣から大きな咳払いが聞こえ、トーコの動きは止まる。

そこには不機嫌なラティが立っていた。


「トーコさん、バラディアへの連絡は済んだんですか」


「いや、まだだが……」


「だったら、さっさとしてください!不法入国だと思われて撃たれても知りませんよ!」


「いや、青年への労いも立派な仕事なんだが」


「何か言いましたか!」


「な、なにも……」


ラティの怒りによって、ようやくトーコに解放される。

ああ、これでようやく休める。


「ユウキ、後で部屋に軽食を持って行かせるから、しっかり休めよ」


「ご親切にどうも」


そういえば、今、カタリナはどうしているのだろうか。

このまま部屋に戻れば彼女と出会う確率が高いのだが、言い争いをした後、一度も話していないため多少の気まずさがある。

それでも、これからのことを考えるなら歩み寄らなければならない。


俺は後ろで騒ぐ二人を背に自分の部屋へ向かった。



部屋に戻ると、ベッドの上に膝を抱えて座るカタリナがいた。

いつもの威厳は消え失せ、何処にでもいる少女のように蹲っている。


俺は彼女の対面のベットに腰掛ける。

そして、どう声をかけたものかと考えていると先に彼女が口を開く。


「随分と、変わられましたね」


「あ、ああ」


「何が、あったんですか?あんなに捻くれていたあなたが、別人のようになっている。私が、何を言っても変わらなかったというのに」


その様子は、一体どうしたというのだろうか。

あの時は俺への失望を示していた彼女だったが、その言葉はどこか妬みを含んだようなニュアンスだった。


「変わるしかなかった。守るべき人を守れず、多くの人を殺してしまった」


「諦めていたではないですか、そう簡単に前を向けないくらい。それなのに、どうして」


明らかに様子がおかしい。

賞賛でも説教でもなく、子供のように疑問を口にするカタリナ。

それなら、素直に話すべきだろう。


「俺が希望号と別れた後、色々な人と出会った。それから、また、俺は過ちを犯した。この罪を償わなければ、死んでいった人たちに顔向けができない」


アイのことは、まだ話せない。

これだけは、そう簡単に口に出せる想いじゃない。


「それだけですか?」


「それだけ?」


「その程度のことなら、今までも起きていたじゃないですか」


「それは、まぁ、色々あったんだよ」


まるで、別人と話しているようだ。

ここは俺が先に折れないといけないようだ。


「悪かった。俺の事を理解してくれとは言わない。だから──」


「どうして!私の何処が間違っていたの!私が、間違えなければ、皆、死ぬこともなかったのに!」


そう叫び、カタリナはより一層縮こまる。

何が何だかわからない、だが、彼女は俺を責めているのではなく、自責の念に駆られているようだ。


「お前のせいじゃない。俺がやるべき事を果たせなかっただけだ。だから、俺はこれから皆を守るために生きる。例え駒だったとしても構わない。そう決めたんだ」


そして、カタリナは沈黙を保つ。

もう少し言葉を重ねるべきかもしれないが、そろそろ俺の体力も限界だ。


俺はベッドに横になる。

そして、あっという間に闇の中に意識が引き摺り込まれる。


「……よく、生き延びてくださいました。私たちを助けてくれました。私も、共に進んでもいいでしょうか」


「……ああ、頼む。俺はまだ半人前なんだ。間違える事もある。だから、その時はまた、叱ってくれ」


そのまま、俺は眠りについた。

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