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第34話 グレイプニル

目の前に死が迫る。

奴の殺気のせいで俺の身体は地面に張り付いたように動かない。


その隙を狙い、再び俺の顔面を目掛けて殴りかかってくる魔禍軀。


その瞬間。


視界の左端から現れた物体が、魔禍軀を右方向へと鈍い音を出しながら吹き飛ばした。

その正体は、エイブだった。

彼が魔禍軀を殴り飛ばしたのだ。


「待たせたな」


「エイブ……」


「再会を喜びたいところだが、それも難しそうだ。ここは私が食い止める。ユウキよ、早く希望号へ向かえ」


なんと力強い援軍。

彼に任せておけば問題ない、そう見えたが。


視線を下に向けると、エイブの右拳はぐちゃぐちゃに折れていた。

そして、吹き飛ばされた魔禍軀は平然と立ち上がっている。

嫌な予感がする。

このままでは、エイブが殺されてしまうと。


「俺も戦う」


その言葉が口をついて出る。


「皆を道連れにするつもりか。お前の役割は希望号を走らせることだ」


その瞬間、俺の感情は昂る。


「もう誰も死なせない!」


俺の叫びに驚いた後、微笑みを見せた彼は、あの時と同じように俺の腹に片腕を回す。


「おい、まさか」


「誰も死なせない、私も同じ気持ちだ」


抵抗する間もなく俺は希望号の方角へと投げ飛ばされ、着地した場所は希望号のすぐ近くだった。


ああ、これではまた同じことの繰り返しだ。

俺のために誰かが犠牲になる、そんなことはもう御免だ。


遠くで戦いを繰り広げる魔禍軀と防戦一方のエイブ眺め、どうすべきか考える。

仮にエイブを見捨てたとしても、あの様子では魔禍軀はすぐに決着をつけこちらを追って来るだろう。

それに、周りを囲んでいたゴーレムも先程より近づいてきている。

やはり、ミハイルたちだけでは少しの足止めが精一杯のようで、このままでは希望号の進路を確保することも難しい。

それならば、あの化け物だけはどうにかしなければ。


『相棒、よく聞け。お前の持つ力について教えてやる』


唐突なフォルティミアの発言、何か打開策があるのかと耳を傾ける。


『レーヴァテインが発現した時、お前は神代の武器庫にアクセスする資格を得た』


だが、その言葉は到底理解できるものではなさそうだ。


『あの魔女が道を作り、別世界から武器を取り出せるようにしたんだ。今は理解しようとしなくていい、ただ、強い意志を持て。あの時の怒りに匹敵するくらいのものを』


わからない、何もわからない。

だが、俺は走り出していた。


『そう、そうだ。力が欲しいのなら、今の想いを叫べ!お前に出来ないことなどない、理想を願え!』


借り物の力だろうがなんだろうが構わない、俺はただの駒でいい。

ごちゃごちゃと考える前に、まずは目の前の命を救ってみせろ。


「運命に抗う鎖よ!絶望を縛り、希望を繋げ!」


その名は──


「顕現せよ!グレイプニル!」


更に強く地面を蹴り一気に距離を詰め右腕を前に突き出すと、そこから光る鎖が何本も現れ魔禍軀の元へと伸びていく。

だが、奴は簡単にそれを避け距離を取る。


その隙にエイブの元に駆け寄り容態を確認するも、服は破け所々から血を滲ませている。


「なぜ、戻ってきた」


「話は後だ」


再び魔禍軀は向き合い、グレイプニルを展開せる。

しかし、鎖は悉く避けられ、どれも決定打にはならない。


『もう少し頭を使え!その鎖を阻むものはないんだ、点でなく面で攻めろ!』


頭にグレイプニルの扱い方の情報が流れてくる。

俺は殆ど無意識で右手を地面につけると、地中を光の筋が枝分かれしながら走っていく。

そして、魔禍軀を取り囲むように分散させ、地中から無数の鎖を展開する。

しかし、奴はその全てを見切っている。


『クソッ、魔力感知も積んでやがるな』


このままでは埒があかない。

ここで二の足を踏んでいては、あのゴーレムらにも接近されてしまう。

それならば。


俺はグレイプニルの展開を止め、魔禍軀へ向け走り出す。


『どうするつもりだ!』


一か八か、俺みたいな弱者が勝つにはこれしかない。

遮るものがなくなった魔禍軀もこちらへと走り出し、十分に接近したところで、俺は立ち止まり両腕で頭を防御した。


間もなく、俺の腹に鈍器で叩かれたような衝撃が走る。

胃液を吐き出し、痛みがあるのかどうかすら認識できない。

だが、それでも意地で魔禍軀の腕を掴む。


「──光の円環よ、魂の牢獄を象れ」


この距離なら逃げられない。

俺の腕から現れたグレイプニルが魔禍軀の身体を一瞬で縛り上げる。

それだけでなく地面や空間からも現れた無数の鎖が足掻く魔禍軀を縛っており、千切れる様子もない。


俺はふらつきながら距離を置き、呼吸を整える。


『神が作った鎖だ、あいつの力を持ってしても切れる代物ではない』


その声を聞き、大きく息を吐き緊張が解ける。


「よくやった」


そして、背後からエイブに声をかけられ、彼はそのまま俺の体を支える。


「随分と成長したな。色々と話したいことはあるが、とにかく今は希望号へ急ぐぞ」


「ああ」


絶望的な状況に変わりはないが、俺の心の中には清々しい気持ちが溢れていた。

体に重く残る痛みさえも気にならない。

ああ、こんな簡単な事だったんだ。


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