第33話 魔禍軀
広い荒野、フォルティミアを纏いアクセル全開で希望号の元へ向かう。
ミハイルらは運転手と狙撃手のペアでバイクに乗り分散しながら俺の援護にあたる。
俺の前方、遠く離れた場所にはバイクが二台、道を開けるために走り、その片方にはミハイルが乗っている。
あれだけの戦力で突破できるか一抹の不安はあるが、彼曰く、あの巨体が仇となり難しいことはなく、数機、動きを止めれば道はできるらしい。
そして、遂に、地平線から赤い塊が現れ始める。
この距離で目視できるとは、やはり相当に大きいゴーレムのようだ。
『準備はできてるか?』
バイクに設置されたスピーカーからミハイルの声が流れる。
『おそらく、燐国の連中は私たちの存在を既に認識している。いいか、絶対にスピードを緩めるなよ。私たちが失敗しようと何があろうと白の列車に向かえ』
そうだ、あそこに俺が生きる意味があるのなら、止まらない、命を賭けて辿り着く。
この世界のことなんて何も知らない、この力が与えられた理由もわからない、それでも、俺が行動することによって救える命があるのなら、もう迷いはしない。
刻一刻と戦いが迫ってくる。
既にゴーレムの姿形はハッキリと見て取れ、それらが砦のように行く手を塞いでいる。
あの向こう側に希望号がいる。
レーヴァテインを発現できれば、楽に越えられるだろうか。
『やめておけ。あれは世界を焼き尽くすものだ。下手に扱えば味方諸共、焼き尽くしてしまうだろう』
諭すようなフォルティミアの声。
まさか、ここまで協力的になってくれるとは思ってもいなかった。
そうでなければ、今頃、俺は生身のまま戦地に赴くことになっていただろう。
『……お前が、古い友人に似ていただけの話だ』
友人?
『人間の醜さに苦しみながら、それでも希望の存在を信じた馬鹿野郎のことさ。それより、そろそろだぞ』
その言葉で再び前方へと意識を集中させた途端、火薬の炸裂音が響く。
──始まった。
各方面から銃撃の残響が不定期に空に響く。
あのデカブツを倒すにしては随分と静かで頼りない戦場の音。
だか、あそこで今、俺のようなどうしようもない人間のために命を賭けている戦士がいる。
その熱を持った事実が、俺の恐怖心を打ち消していく。
『聞こえるか!お前から見て一時の方向、ゴーレムを一機、機能停止させた!そこからどうにか突破してくれ!』
再び、スピーカーから聞こえるミハイルの声。
前方の状況は混戦状態、希望号へにじり寄っていたゴーレムらは周りを這う皆へと標的を変えている。
しかし、確かに右手の方のゴーレム一機が動きを止めていた。
あの巨体のおかげで、足元に隙間ができている。
俺はそちらは向け、ただひたすらに走る。
そして。
視界を覆ってしまうほど、赤いゴーレムに接近する。
脇見をせずに、ただ前だけを見て集中すると、あの時と同じように時間の流れが遅くなり、全てのものの動きが遅くなる。
無我夢中でハンドルを動かし、気づけば。
開けた視界に、希望号が映っていた。
距離は数百メートル。
このまま突っ切って行け!
『相棒!止まれ!』
順調に進んでいたその時、フォルティミアの叫び声が頭に響く。
そして、俺が反応する前に。
『身体を借りるぞ!』
考える間もなく身体が動き、ミハイルに言われた通りに車体を進行方向に対し思い切り横に向け急ブレーキをかける。
『上だ!避けろ!』
今度はスピーカーからミハイルの叫び声が聞こえる。
何事か理解する間もなく再び身体が勝手に動き、大きく跳ねバイクから距離を置く。
──空から何かが落ちてくる。
その物体を認識する前に、バイクの上に落ちたそれは激しい音を立てながら土煙を上げる。
その衝撃はバイクをぶち壊し大地を揺るがし地面にクレーターを作る程。
嫌な予感がする。
動物的本能が全力で警戒している。
これは、なんだ。
『ユウキ、ボサッとせず早くこっちに来い!そいつは燐国最強の兵、魔禍軀だ!』
希望号からスピーカー越しにトーコの声が聞こえる。
目の前、土煙が晴れ現れたのは、二メートルを優に超える巨躯の人間だった。
赤い長髪にスーツを着た男。
首元から下顎にかけて、うねった黒い模様が表れている。
あの魔女とは違う、ただひたすらに強力な殺気を放つ生き物。
逃げなければ、そう思う前に、魔禍軀と呼ばれた男は一瞬で俺の懐へ距離を詰める。
その男の右拳が俺の頭を吹き飛ばすために振るわれる。
死を覚悟した瞬間、頭が動きかろうじて拳を避ける。
そして、男から距離を取る。
何故か、拳が掠った左頬の部分の鎧が崩れていた。
『馬鹿野郎!死ぬ覚悟なんてしてどうする!とにかく今は生き延びることを考えろ!』
フォルティミアの激励に意思を取り戻した俺は状況を整理する。
背を向け逃げれば殺される、誰かの助けも期待できない。
それなら、戦うしかない。
どうする、レーヴァテインに賭けるか。
『駄目だ、あの化け物には有効じゃない』
諦めるな、考えることを放棄するな。
こんな所で終われない。
だが、目の前の絶望は例外なく粛々と俺を殺しに来る。
考えるつもりはないのに、一つの思いがジワジワとシミのように広がっていく。
ああ、これで終わってしまうのか。




