第32話 反撃の狼煙
「今から作戦会議を始める」
決意を済ませた俺はテントに戻りミハイルに、共に戦うと声をかけた。
頭部以外に紫の鎧を装備し戦闘の準備をしていた彼らは驚いた顔をし、ただ静かに笑った。
そして、ミハイルは机の上に地図を広げ、作戦内容を話し始める。
「白の列車はここだ。そして、その四方に燐国のゴーレムが陣取っている。このゴーレムらを殲滅し呑気に白の列車の発車を待ちたい所だが、私たちが仕掛けたことが判明すれば燐国は増援を送ってくるだろう。だから、私たちがやるべきことは」
一息ついたミハイルはこちらを見据える。
「一直線にお前を白の列車に送り届ける。それで、お前は何としてでも白の列車を走らせろ。そのための道は命を賭けて開けてやる」
「まかせろ」
「だ、団長、そんな杜撰な作戦でいいんですか?」
一人の団員が不安そうに声を掛けるが、それにミハイルが答える前に俺は口を開く。
「俺は今まで泣き言をあげる希望号のケツを蹴り上げ、二度、走らせてきた。勝算はある」
事実とは異なるが、今回は問題なく走ると確信があるため嘘をつく。
人の命を守るためなら、希望号は必ず走る。
「しかし、燃料が残っているか確証がないだろう。後方車両は吹き飛ばされているようだからな」
今度は別の団員が疑問をぶつける。
確かに敵の砲撃により希望号は燃料を失っている状態だ。
だが、それも問題ない。
「俺の命がある。燃料不足で動かないのなら、俺の命を喰わせる。何も問題はない」
その言葉を聞いた途端、彼らは大声で笑い出す。
「何があったか知らんが、見違えるようだ。それが無謀か勇猛かはわからないが、そうだ、それでこそだ。お前を許すつもりなど毛頭ないが、その意志がある限りは共に戦ってやる。決まりだ。私たちがゴーレムを抑える。お前はただひたすらに、白の列車に向かえ」
「ああ」
「よし。では、各員、車両と武器の用意を始めろ」
*
テントの外、団員らが用意したのは何台ものバイクと、人の身長ほどある大口径の銃身を持つ銃器だった。
「各自、あの車両に乗って分散しながら列車の元へ向かう。お前も車両に乗り私の後に続け」
「ちょっと待て。俺は運転なんてしたことがないぞ」
「問題ない。エンジンは私がかけてやろう。後は席に跨り、そのレバーを引きながら右手のアクセルを手前にひねる。そうすれば進み始める。そして、ある程度走ったらゆっくりレバーを離す、簡単だろう」
「止まる時はどうするんだ」
「止まる必要なんてないだろう。だが、まぁ、どうしても必要なら、進行方向に向けて思い切り車体を横にしろ」
バイクに乗ったことがない俺でも、それが正規の方法ではないことはわかる。
しかし、心配ばかりで今の感情を燻らせるような真似はしたくない。
もう、余計なことを考えるのはやめよう。
「わかった」
「よし。ゴーレムに関しては、魔術回路を絶つ弾丸を放つ対ゴーレム用の武器、アナヒレイターで私たちが対処する」
あの馬鹿でかい銃器のことか。
「なんだ、こんなものがあるなら、簡単な話じゃないか」
「この銃は単発式で反動もでかい。加えてゴーレムの装甲から僅かに覗く柔らかい関節部に弾を撃ち込まなければ効果はない。そう単純な話じゃないさ」
「そうか」
「余計なことは気にするな。お前はただ、その車両に乗って真っ直ぐ走ればいい。だが、生身は危険だ。鎧を貸してやるからそれを着ろ」
「必要ない。こいつとは話がついた」
驚きの顔を見せるミハイル。
「そうか、それならいい。ちなみに、あの時のようにレーヴァテインとやらは使えそうか」
あれは怒りの感情のままフォルティミアに従い現れたものだ。
そもそも、俺はこの力の原理を全く知らない。
「わからないが、やってみる」
「いや、いい。不確かなものに頼ると失敗した時が怖いからな。とりあえず、お前が自身を守れるならそれでいい」
そして、準備は着々と進み隊列を成した隊員らにミハイルが号令をかける。
「私たちは争いをなくすため、人の命を救うため、この世界の歪みの正体を暴き希望の火を灯すためにここにいる!輝ける盾よ、守護の誓いを胸に、進撃開始!」
俺たちは滾る感情のまま、走り出した。
*
──希望号の先頭から二両目の車内。
そこには運転席の座席にだらしなく背中を預けるトーコと、ラティとベルの姿があった。
「私たち、ここで終わっちゃうんですかね」
「そうだ、終わりだ終わり。あの魔女は何もしないし金髪少女も我関せず、頼みの綱のジジイも何故か沈黙。あの聖女様も部屋に引きこもり。打つ手なしだ」
「今回もまた、駄目でしたね」
諦めかけのトーコとラティが会話する中、ベルは隅で祈りを捧げている。
「ああ、神よ。どうして私にこのような仕打ちをするのですか。苦難はもう、お腹いっぱい堪能しました。どうか、どうか、私に救いを」
「やめんか!辛気臭くて敵わん!」
トーコの怒声を無視し、遂には聖歌を歌い出すベル。
「いっそのこと、残り少ない燃料で一か八かの逃避行と洒落込みます?」
「魔装鉄路を展開するだけのもんはないさ。はぁ、最後に酒でも煽るか」
『トーコ、聞こえるか』
トーコが諦め立ち上がった時、伝声管からミス・アナの声が聞こえ、彼女は慌てて伝声管に喰らい付く。
『外の映像を見ろ。反撃の狼煙が上がった』
トーコはすぐさま運転席前のモニターを注視し、ラティとベルもそれに続く。
モニターには希望号の外の風景が映し出されており、赤いゴーレムの群れの奥に土煙が上がっていることを確認できる。
「あれは」
『あの馬鹿がお人好し集団を連れて来た。諦めの時間は終わりだ』
その言葉を聞き、トーコはすぐさま放送用の伝声管に飛び付き大声を上げる。
「お前ら、ユウキが帰って来た!希望は残っていたぞ!乗務員は全員、希望号の発進準備、力のある者はユウキがここへ辿り着くよう援護しろ!」
彼女の馬鹿でかい声が全車両内に響き渡る。
「あの、私らはどうすれば」
「ラティは念の為、敵を撹乱するための式神を用意してくれ。ベルは、アレを持ってこい」
「え、えぇ、アレってアレのことですか?」
「そうだ!つべこべ言わずに行ってこい!」
トーコの号令でキビキビと動くラティとトボトボと歩くベル。
先ほどとは打って変わりサングラス越しのトーコの瞳はメラメラと燃えていた。




