表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/55

第21話 アリス

走る、走る。

幇会の連中か、この国の警察かはわからないが、邪魔するものは悉く蹴り潰し、二人を抱え灰色の街を当てもなく駆けていく。

狭い路地、人の群れの隙間を縫うように進み、迫りくる者が赤黒い液体を噴出させると脳内は歓喜で満ちていく。

こんなにも人間は柔らかい。

今まで俺を追い詰めていた人間を、こんなにも簡単に殺すことができるのだ。


だから、どうして俺はこの二人を抱えているのだろうと、疑問が湧いてしまう。

逃げ出すときに感じた彼女らへの同情は既に消え去り、今ではそれらに何の感情もないというのに。


『殺せ』


再び頭の中に誰かの声が響く。

思考は黒に染まり抱える腕に力が籠る。

このまま捻り潰してしまおう。


「──ぅ」


フェイの、ほんの少しの呻き声が漏れる。

鈍る、緩む。


そして、迷う内に路地を抜け視界が一気に開ける。

しかし、その大通りには武装した無数の敵がいた。

防護装備に身を固め盾を構えた集団が逃げ道を塞ぐようにこちらを取り囲んでいる。

退路も既に断たれたようだ。


「そこのお前!殺されたくなければ、今すぐ地面に伏せ投降せよ!」


どうする。

ここから抜け出し運よく希望号の元まで辿り着いたとしても、明日の朝まで平然と過ごすなんて到底不可能だ。


いや、何を考えている。

俺は全てをぶち壊すと決めたんだ。

襲い掛かる者がいるのなら全て迎え撃てばいい。


進む方向を定め、足を踏み出そうとしたその時。


『ユウキさん!聞こえていますか!』


ひりつく空気の中、耳元で聞こえる声。

そこには人の形をした掌大の紙が浮いていた。


「誰だ」


『ラティですよ!あっ、そういえば名乗ったこと、無かったかも』


この声色と口調は、あの白スーツの乗務員か。

まったく、次から次へと不思議なことが起きるものだ。


『本当に、なんてことをしでかしていたんですか、あなたは!この国をここまで怒らせるなんて命知らずの大馬鹿者にしかできませんよ!』


「お前たちには関係ない話だ」


『こんのクソガキがぁ。アンタのせいでこっちも奴らに目をつけられて危険な目にあってるんだ!そんで明日出発なんで悠長なことも言ってられなくなったのに、それでも、トーコさんがアンタが戻るまで待つって言ってるんだ!』


「俺なんて気にせず置いていけばいい」


『私だってそうしたいですよ!とにかく道案内は私がやるんで、そちらに送った援軍と共に早く戻ってきてください!』


早口で捲し立てる乗務員。

しかし、俺にはもう希望号に戻る理由はない。


「お兄ちゃん、素直に希望号に戻ったほうがいいわ。その鎧、ずっと纏えるわけじゃないから、このままここに残れば間違いなく死んじゃうわ」


再び唐突に聞こえる声の方を向くと、いつの間にか、すぐ傍にアリスがいた。


「どこから湧いたんだ」


「そんなことより、まずはこの状況をどうにかしないとね」


既に敵はジリジリとこちらへ距離を詰めている。

少しもしない間に奴らは俺の元へと辿り着くだろう。


「本当に、無粋な役者だこと」


余裕綽々といった様子のアリスは呟き、俺の前に一歩踏み出し片足で踵の音を二回鳴らす。

そして。


「トランプ兵隊従えて、現れたるはハートの女王。行く手を阻む馬鹿者どもに、くれてやるのはいつものセリフ」


幻覚でも見ているのか、これも魔術だと言うのか。

アリスの周りの地面が光り、どこからともなく真紅の玉座に座る女王が一人、無数のトランプ兵を従え現れる。

アリスと女王を囲む様に並んだ彼らは一様に、こう叫ぶ。


「首をはねよ、首をはねよ!」


「首と胴が繋がっているのなら、切り落とすのも訳はない。これはアリスの物語、つもりだけでは終わらせない!」


ハートの女王の叫びに呼応しトランプ兵は武器を手に迫り来る敵へ行進を始める。

そして、接敵するや否や彼らは奴らの首をはねていく、首が跳ねていく。

響く怒号と銃声は悲鳴にかき消され、あっという間に血の海が地面を覆っていく。


「それにしても、その返り血、やっぱりアリスが見込んだとおりだわ」


喧囂の中、アリスは振り返り呑気におかしなことを口にする。


「何の話だ」


「お兄ちゃんも人間を殺さずにはいられなかったってこと。それはとっても素敵なこと。だって、それは、この世界の欺瞞を殺す資格を手に入れたということだもの」


「……それより、何もしなくていいのか」


「心配いらないわ。道はもうすぐ開くから」


彼女の言う通り、俺を囲んでいた敵は見る見るうちに血に伏せていく。

その出来上がった死体の山を越えれば、もう道を塞ぐ邪魔者はいない。


『何を呑気にしているんですか!ぼさっとしてないで、早く行きますよ!』


すっかり存在を忘れていた、フワフワと浮かぶ紙が俺たちを先導するように、先へと進んでいく。


「お兄ちゃん、力を得たのなら今後の身の振り方を考え直してもいいんじゃない?だから、今は希望号に戻るべきよ」


「……ああ」


何もかもを見透かした様な彼女の発言に薄寒さを感じながらも、その言葉には同意せざるを得ない。

ステップを踏み先に進み始めたアリスに続き、赤に濡れた屍を踏みしめ走る。

俺は、その非現実的な現状を他人事の様に受け入れていた。



それから先は楽な道のりだった。

踊るように走るアリスが腕を一振りするだけで共に行進する兵士達が敵を処理していき、その後に続く俺は開いた道を進むのみ。


あちこちで巻き起こる人間の悲鳴を聞くと心は爽快になり気分も高揚する。


その素敵な感情に浸りながら案内されるまま進み、遂に俺たちは駅前の広場に到着していた。

しかし、遠目からでもわかるほど駅の入り口周辺は厳重に警備されている。


「どうするんだ」


「このまま、突き進むだけよ」


アリスは笑顔を浮かべながら先は進んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ