第14話 魔装鉄路
「ユウキさん、起きてください」
ふと聞こえた声に闇の中から意識が引き上げられる。
薄く目を開くとカタリナが俺の肩を揺すっていた。
素直に上半身を起こすと、どのくらい眠っていたのだろうか外はもうオレンジに染まっている。
「なんだ、用事でもあるのか」
「その通りです。今、希望号が停車しているのはお分かりですね?」
窓の外を見ると、確かに景色は流れていない。
また、周囲を注視すると建築物がほとんどなく、田園や賑やかし程度の木々が生える緑の中を貫くように海へ続くコンクリートの橋の上で希望号は停車している。
進行方向は間違いなく海だ。
「何やってんだ?」
「これから、海を渡るのですよ」
その言葉に眠気は吹き飛ばされ、不安が舞い降りてくる。
「冗談だろ?」
「降りて見学してみましょう。今朝も言った通り、それで全てがわかります」
立ち上がったカタリナに続き俺も部屋を後にする。
とにかく、この状況をこの目で見て確認しなければ。
*
車両の外、橋の上に出ると既に乗客らで人だかりができ、皆、視線を先頭車両へ向けている。
彼らに倣い俺もその先を注視するも希望号の前に続く橋は崩れ落ち途切れている。
海を越え他国に渡る巨大な橋がある、というわけでもなく、この列車が空でも飛ばなければ、そのまま沈没して終わりという状況。
まさか、こいつらの言う願いが叶うとは心中するという話ではないのだろうか。
俺はすぐさまカタリナに話しかける。
「悪いが、俺はここまでだ。こんな馬鹿げたことには付き合ってられない」
一応、現時点でもあのクソみたいな場所から抜け出すことはできているんだ、これで十分だ。
決して逃げているわけじゃない。
こんな、イかれた連中との関わりを終えるというだけだ。
「もう少しだけ、お待ちください。心配せずとも世界の果てまで進むこの列車に走れない場所はありません」
その言葉に否定を返そうと口を開いた瞬間、希望号から耳をつんざくほどの汽笛が鳴った。
そして、先頭車両が淡く輝きだす。
――夢でも見ているようだ。
希望号から水平線へ向かって伸びていく光輝く何か。
目を凝らすとそれは線路であった。
そして、そこから枝分かれしていく無数の光輝く糸が巨大な橋を作り、あっという間に走る光の先端が見えなくなった。
それを見届けた後、乗客らの歓声が響く。
「魔装鉄路。これが、希望号に走れない場所はないと謂わしめる所以です。そして、試練の始まりでもある」
「魔装鉄路?試練?」
目の前の現実を受け入れられずに間抜けな声を出してしまう。
「さぁ、乗車しましょう」
相変わらず、何も説明をせずに事を進めようとする彼女。
周囲の乗客も皆、希望に満ち溢れた顔で次々と乗車している。
俺はその中で立ち止まっていた。
「待てよ、こんなもの、信じられるか。これは幻覚か、いや、夢でも見ているんだ」
「そうやって常識ばかりを語っていては、あなたは一生、自分の人生を歩むことはできない。何も問題ありません、希望号は必ず、この橋を渡ります」
強い信念、疑念をかき消すほどの強い瞳の光。
わかっている。
日ノ国で生きてきた俺の常識は誰かの一吹きで消え去ってしまうような未熟なものだと。
それに、疑念とは裏腹に、この高揚している気持ちも無視できない。
目の前でこれほどの奇跡を見せつけられては自分の過去を清算できる未来があるのかもしれないと思ってしまう。
人間として生きずとも良い見知らぬ世界があるのかもしれないと。
それは確かに漠然とした希望となり、この旅の進む先を照らしている。
ああ、考えがまとまらない。
それでも、確かなことが一つだけ。
罪の意識があるのなら、アイの生に意味を持たせたいのなら、進まなければ。
「行きましょう。あなたの迷いを晴らすために」
背中に吹き付けた一陣の強い風が俺の身体を動かす。
そのまま俺は、カタリナの後に続き乗車する。
そして、汽笛を鳴らした希望号は紫色に染まり始めた空へ向かって走り始めた。




