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二日前




朝の八時にルイは家を飛び出す。畑仕事をするサンタ仲間に挨拶を交わしながらそのまま見下ろし雲の場所へ向かった。

誰もいない場所に降り立つと、片手にチェックした地図を持って下界を見下ろす。



「んー、ないなぁ」



中々目的の場所が見当たらないのか、チェックしていた場所にいくつもバツをしながら見比べていく。

その姿を見つけたある少年はにんやりと笑って静かに歩み寄った。



「わっ!!」


「うわっ!」



思い切り耳元で大声を上げれば彼は驚いてバランスを崩す。そしてそのまま見下ろし雲から落ちてしまった。下界へと向かって小さくなるルイに脅かした彼は顔を青くして固まってしまった。






ばきゃばきゃ、

どすん



「いっつー」



勢いよく木々に引っかかりながら落下したルイは体中に広がる痛みに耐えながら立ち上がる。そこは山奥なのか周りには木々しか見当たらなかった。



「くっそー。チコの奴覚えてろ」



ちゃっかりと脅かした相手を確認しているルイはそうぼやきながら、ついでにその場所を回ってみることにした。

鳥の声が響き渡る場所は人の気配が感じない。そのためかとても心が落ち着いた。

坂を上っていけば途中に川も見つけた。さらさらと澄んだ水を見つめながら更に上る。



「うっわ」



そして途中にあった丘で見えた景色に思わず声を上げる。

そこから広がるのはくるみがいる町の風景だった。大自然が広がるその場所から、彼女の町が眺望できるのだ。



「こんなに近くに落ちたんだ」



川の音が耳に届く。風が身体を撫でる。そんな自然な場所で彼女の町を眺めるのは、すごく不思議な気分だった。

ルイは自然と頬が緩む。



「不思議だよなぁ」



彼女と出会った時、不器用ながらもきっちりと自分に優しくしている姿が何だか微笑ましかった。

話していけばふと見せる笑顔はとても綺麗で、もっと見たいとも思った。



「よっし、頑張ろう」



両頬を叩いて、ルイはサンタハムレットへと急いだ。






○ … ○ … ○






深夜に近い時間、くるみはベッドにダイブして、ぴくりともしない。朝から晩まで一日中バイトへ行って、疲労で食欲すらなかった。

動く元気などなくて、このまま寝てしまおうかと考えた瞬間、ベランダから物音が響く。

ゆっくりと顔を上げるとやはりそこには赤いジャンパーを着たルイが無邪気に微笑んでいる。



「お疲れ、大丈夫か?」


「うん、明日と明後日は休みだから、しっかり休むよ」


「そっか。よかった」



はい、と渡されたものを受け取ると、それは水筒に入ったココアだった。遠慮なく一口もらえば甘い味が口の中に広がる。

暖かさと甘みに身体が痺れるように力が抜けていく。



「美味しい」


「だろ? くるみ、待ってろよ。もうすぐ願い叶えてやるから」



楽しそうに語るルイにくるみは表情を強張らせる。唾を飲みこんで、そっと彼を見つめる。

表情が暗い彼女に気付いて、首を傾げた。



「くるみ?」


「ルイ、もういいの。私の事は気にしないで」


「は?」


「言ったでしょ? 私の願いは叶わないものだって、わかってる。だから、叶えようとしてくれなくていい」



視線を逸らして淡々と紡ぐそれは、妙に冷たい。ルイは笑顔を無くして、無意味に彼女を見つめる。



「どうしたんだ?」


「別に、ただ…これ以上ルイを巻き込みたくないだけ」


「気にすんなよ! 俺がやるって言ってんだから!」



やはりどうしても引き下がらない彼にくるみは表情を歪めた。傷つけたくない。言いたくなんかない。だけど、そうしなければ彼の迷惑になる。

だから───



「もう、いいの! 私、もうサンタに関係あるもの全てに関わりたくないだけ!」



吐き捨てるように言えば、彼は初めて表情を崩した。張り付いたその顔は確かに傷ついていて、くるみまでも泣きたくなった。だけど、ここで泣けば台無しになる。

必至に彼を睨みつけて、水筒を押し返した。



「色々ありがと。嬉しかった。だけど、もうここには来ないで」


「くるみ」


「もう、来ないで!」



ベランダに押し出して鍵をかける。カーテンを勢いで締めて、その場に座り込んだ。

静かに流れる涙はもう止める必要などなくて、彼女はいつまでもその場所で身体を震わせていた。






クリスマスまで後二日






 

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