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五日前




とっぷりと陽が暮れた時間にくるみはやっとバイトから解放された。

平日は学校とバイト。休日もバイト。遊ぶこともないため、休みを取ることもない。だからか、いつも疲労はピークに達している。



「………寝たい。でも…、あー、ダメだ。ご飯用意しなきゃ」



やることは沢山ある。だけど、それすらも億劫で、投げ出してやりたい。

必死にその気持ちを追い払って帰宅した。



「あ、れ?」



電気付いてる。



ちゃんと戸締まりもして、電気を消したはずなのに、何故かリビングの電気がついていた。少し不安になりながらも部屋に入れば、見たことのある赤いジャンパーが見えた。



「………………ルイ?」


「お、よ! お帰り。こんな時間までバイトなんだな。大変だなぁ、お前」



ひょっこりと顔を出したのはやはり陽気な彼。一気に脱力してくるみは座り込んだ。

それを不思議そうに首を傾げてルイは近付いた。



「何してんのよ、人ん家で」


「あぁ、悪い悪い。詫びと言っちゃあ何だけど、風呂用意してあるから入れよ」



何が詫びなのかわからないが、それは正直助かった。くるみはわかったと力なく返事して素直に浴室へ向かった。

時間が時間だけにあまり長風呂は出来ないが、身体が温まる程度に浸かって、部屋着に着替えた。



「少しは疲れ取れたか?」


「うん、気持ち良かった。ありがとう」


「そっか、じゃぁ、ご飯にするか!」



当たり前のように彼はテーブルにご飯を並べる。驚いて言葉を失うとルイは無邪気に笑って手招きした。

匂いにつられるようにくるみは座る。用意されているのは本当に美味しそうなポトフやパンやお肉。



「どうしたの? 食材そんなになかったのに」


「俺の家から持って来た。絶対旨いぞ! 前ご飯もらった礼だ。食べろ」



嬉しくて涙が溢れそうだった。何とか堪えてくるみは口に運ぶ。優しい味が身体に染み渡って、身体と共に心も温まる気分だった。



「うん、美味しい」



微かに口端を上げて微笑んだ。大きなくるみ色の瞳が微かに揺れて、ルイに向けられる。それに彼は満足そうに笑って、食べ終わるまで見守っていた。






「ご馳走さま」


「おかずは余ってるから朝も食えよ。ちなみにサンドウィッチも作ったから昼にでも持ってけば?」


「そんなに……ありがとう。本当に助かる」



既にもう寝るだけの状態になり、心が軽くなる。ルイはそんな彼女の頭を軽く撫でて、顔を覗き込むように微笑んだ。



「お安いご用だ。両親に会う時に体調悪かったら意味ないしな」



和らいでいた表情は瞬間、固まった。軽く顔を暗くしてルイを見やり、口を開いた。



「無理だよ」


「は?」


「貴方なんかに叶えられない。サンタなんかに叶えられない。だから、…もういいよ」



消え入るように呟く内容にルイは珍しく表情を無くした。少し申し訳なくて俯き、くるみは言葉を繋げる。



「だってそうでしょ? 死んだ相手に会える訳ない。たとえ、サンタでもそれは無理じゃん! 神だって…いたとしても無理。だから、私はサンタも神も信じない! 嫌い!」



わかってる。これは身勝手だと。

返してと訴えても、もう実態はない。

そんなもの返せるはずもないし、与えられるはずもない。叶わない願いだとわかる。

だけど、それでも何かを恨むことしか出来なくて、その対象がサンタなだけだ。



本当、私って最悪。



こんなにも優しくしてくれた相手に今八つ当たりをしてる。それだけで自分が嫌になった。



「………お前、偉いよな」


「―――!」



また頭に感じた彼の温もりに弾かれたように顔を上げる。そこに見えるのは慈愛に満ちた笑顔だった。



「何が」


「普通わかってても俺にそんなこと言わないだろ? こんな時にも相手を思って、素直に気持ちを伝えられるの、すげーと思う」



揺るがない。

離れない。

イラつくくらい純粋に向かってくる彼にくるみは何も言えなくなる。

ルイはぽんぽんと彼女の頭を軽く叩いて、上着を羽織る。

そしてやっぱりベランダに出て振り返った。



「安心しろ、俺は絶対にお前の願い叶えてやる! 俺、決めたら絶対やるんだぜ!」


「―――っ、」



ベランダから飛び降りて消えたその場所を無意味に凝視して、くるみは息を飲んだ。

普通なら否定したくなる言葉に、何故だか彼の言葉だと聞いてしまう。



「無理だよ、」



それでも彼女の心は、まだ冷えたままだった。






クリスマスまで後五日






 

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