六日前
止むことを知らない雪が積もるある村。そこで数人の男が雪かきをして、屋根に積もる雪を払い落としている。
「よっと!」
その村にひょっこりと顔を出したのは、ルイ。まるで地面から這い出たようにだ。
「よぉ、ルイ! 見つけたか? 叶えたい奴は」
「よぉ、ライト。おぅ! やぁっと見つけたんだ。辛気くせーの一匹」
ニカッと楽しそうに語りながらルイは一軒の家に入った。
ここは雲の上にあるサンタハムレット。春夏秋冬関係なく雪が降り続ける。雲の上なのに何処から降ってるのとかは適度にスルーして、彼等はクリスマスじゃない時は細々と栽培をして暮らしている。
「ただいまぁ」
「ルイ、おめぇ約束の時間どれくらい過ぎてんだと思うんだよ」
「わりぃ、わりぃ、一回落ちちまって。それよりさ、見つけたんだ!」
出て来た老人に爽やかに返して、ルイは椅子に座る。暖炉の火に当たりながら身体を温めた。
「落ちたって……、まさか人と話したのか?」
「食事までもらっちゃったぜ。いい奴だったよ。名前は宮本くるみだってさ。俺、そいつに決めたんだ」
ケラケラと陽気に語る彼に老人は持っていた杖を頭に投げ付けた。見事に食らったルイは涙目になりながら老人を睨んだ。
「な、何すんだよシェーク! いてぇじゃんか」
「馬鹿者が! 見下ろし雲から落ちた上人と会うなんて」
「仕方ないだろ! 事故だ事故」
「まさかサンタとか言ってないだろうな」
一瞬言葉を詰まらせたが、ルイはしてねーよ、と顔を反らした。何とも分かりやすい反応にシェークは溜め息をつく。
だが、彼はまだ見習い。規制の罰を与えることもない。仕方なく目をつぶることにする。
「まぁ、決まったならよかった。ちゃんと叶えられそうなのか」
「いやぁ、難しいかもな。俺そういう奴選んだし」
呆れたとばかりにルイを見やる。だけど、やらなければならない本人は何故か楽しそうだ。
全く、こいつは。
いつも何をするにも冗談のように笑いながらこなす。だからこそ誰よりも成長は早かった。
「これで落ちてもわしゃ知らんからな」
「大丈夫。叶えてやりたいんだ。あいつの願い」
「………そんなに、心が動くような純粋な願いだったのか」
そう問い掛ければルイは口を閉ざした。そして少し暗い声音で秘密、と呟いた。
叶えにくい、ということは少なからず物ではないのだろう。
まぁ、わしゃ見守るしかないか。
○ … ○ … ○
白い息を無駄に眺めながら彼女は帰路を歩く。もう、辺りは暗い。バイトをやりきった身体は疲労でふらふらだった。
早く帰りたいと心で思えば空を見やる。すると思い出すのは昨日の男。
嫌味のない笑顔に、言葉。妙に落ち着いた存在は、中々頭から離れてくれない。
まぁ、でももう来ないだろうし。
「あ、いた! おぉい、くるみぃ!」
そう思った矢先に聞こえた声に顔を引きつらせた。振り返ればもう目の前にルイがいる。
「な、何!」
「ごめん、ごめん、肝心なこと聞くの忘れててさぁ」
昨日と同じく陽気に笑う。くるみは毒気を抜かれながらとりあえず話を聞いた。
「お前の願いって何なんだ? 実は昨日聞かれて知らなかったこと思い出してさぁ」
「―――、本気で叶える気なの?」
「? 当たり前だろ、そう言ったじゃん」
嫌味ない純粋な言葉。だけど、だからこそ今度はイラっとした。どうせ軽い気持ち。どうせ叶わない。そういう気持ちが強くなり、投げやりに言葉を発した。
「死んだ両親に会いたいことが、私の望み」
死んだ人になんて会えない。
生き返りもしない。
わかりながらも願わずにはいられない。だから、ルイにも出来るとは思わない。
言えば諦めてくれると思ってきっぱりと紡いだ。
だけど、
「わかった! それが願いな。じゃぁ、クリスマス楽しみにしてろよ!」
彼はまた曇りない笑顔を向けて走っていく。瞬きの瞬間に姿を消して、そこには彼女だけが残った。
「…嘘つき」
震える声は寒さからか、それとも…。
クリスマスまで後六日