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七日前




一日が終わって家に帰る。誰もいない暖かみのない家に明かりを点して入った。

誰もいない室内に、もう慣れてしまったな、とくるみは苦笑する。



「さ、ご飯」



冷蔵庫にある食材で明日の分含めご飯を作る。お金は両親が残してくれたものがあるが、はっきり言って学費でギリギリだ。

くるみはバイトを入れながら、ほそぼそとした生活を続けている。



「……できた」



煮物と味噌汁とご飯。一人分をちゃんと作り、座った。



「わあぁあ!」


がこんっ

ごきんっ



お箸を持った所でベランダから聞こえもしない声と音が聞こえた。くるみは瞬きをして、泥棒などと考えずに閉めっ放しのカーテンを開ける。

そこには赤いジャンパーを着た男の子が頭を押さえながら蹲っていた。



「貴方………どっから来たの?」



躊躇いなくそう言えば彼は顔を上げた。黒い髪に黒い瞳をした普通の人。丸い瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。



「あ、わり。驚いたろ? 俺さおっこっちまって」


「ど、何処から?」


「? 空から」



あぁ、見た目は普通でも、性格がおかしい。くるみはあまり関わらない方がいいと直感で思い、窓を閉めようとした。



ぐるるるりゅぅう



盛大な腹の音が耳に届いた。思わず一度動きを止めて苦笑いする彼を見た。

おかしい人とは思う。本来なら怪しいとも思わなければいけない。だけど、妙に安心する空気が彼にはあった。



「貴方………名前何て言うの?」


「え?」


「知らないと家には上げられないから」



無表情で言う。それが面白かったのか、爽やかに微笑んで彼は立ち上がった。



「俺ルイってんだ。よろしく」



差し出された手をゆっくり握るとこの寒さの中にいたのに何故か暖かかった。



「私は宮本くるみ。少ないけど、ご飯……出すから」


「ありがとな。助かるよ!」



遠慮なく上がり込むルイに何故だかやっぱり嫌だと思わない。くるみは自分のと同じご飯を彼にも出す。



「うわぁ、うまそう!」


「まだ温かいから」


「いただきます!」



勢いよく口に運ぶ姿は何だか微笑ましかった。くるみも一緒に食べると、いつも味のわからないご飯が、今日は美味しく感じた。



「ところでさ、何してたの? 空で」



空にいたこと自身は信じていないが、否定した所で何にもならないため、そのまま話を振ってみる。ルイは少し思案した後ニカっと笑う。



「一宿一飯の恩だ。教える!」


「いや、泊める気はないけど」


「俺実はさサンタ見習いなんだ」



突っ込みを普通にスルーして言われた内容はまた素直に受け止められない内容だった。理解できずに眉を寄せて固まっていれば、ルイは気付かず話を進めた。



「でさ、俺がサンタになるには一人でもいいからその子の願いを叶えなきゃいけねぇんだ。で、その叶える人を探してたら油断して落ちた」



ケラケラと一人で笑う。そしてやっと話についてきていない彼女に気付いてルイは首を傾げた。



「俺変なこと言ったか? あ、信じらんねぇのか?」


「普通なら、ね。たとえそうでも、どうでもいい」



急に冷たい声になったくるみにルイは箸を止めた。彼女はそのままもう言葉を発さずにご飯を食べる。ルイもとりあえず今は食べることに専念した。






「なぁ、くるみ」


「…」


「俺何か気に障ることしたか?」



聞けばくるみは最後の食器を片付けて振り返った。向けられる目は暗い。



「私は…サンタが嫌いなだけ」


「何でだ?」


「サンタは…私の願いを叶えてくれなかったから」



何とも子供染みてる。それでも思わずにはいられなかった。

ルイは少し彼女を見つめてから立ち上がる。そして窓から外に出た。

いずらくなって帰るのかと茫然と見ていた。だけど、振り返ったルイは何故か顔を輝かせている。



「よし、じゃぁお前の望み、俺が叶えてやる!」


「はぁ!? て、ちょ」


「待ってろよ!」



そのままベランダから飛び降りた彼に慌てて走る。だけど、もう姿は見えなかった。



「………変な人」



くるみは忘れようと心に決めるが、忘れることは出来なかった。






クリスマスまで後七日






 

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