そして…
去年のクリスマス。
大嫌いになったサンタ。
「おはよ、くるみ!」
「おはよう」
それと同時にクリスマス自体も嫌いになった。
サンタを恨んでも、クリスマスを嫌っても、それでもやりきれない思いをどうにかしたくて、誰かに必至に叫んだのを覚えてる。
だけど、それが誰なのかは思い出せない。ただ、いつも側にいてくれた、大切な人だった気がする。
「あれ…」
それなのに、何で私は忘れてるんだろうか。
思い出さなきゃ。思い出して、あの時八つ当たりしたことを謝らないと。
『サンタなんか大っ嫌い!』
そう彼に向かって叫んだ。だけど、確かその後すぐ予想外な言葉を聞いた気がする。
思い出せなくて、頭を抱えると教室に先生が入ってくる。自然と顔を上げればこの学校の制服を着た一人の男子生徒が隣りに立つ。
瞬間、目が合った。
「あ…」
甦るのは記憶。
流れて来た映像に唖然とした。
『私、サンタなんか嫌い! サンタなんか大っ嫌い!』
『よし、じゃぁ俺がサンタになってお前の願い叶えてやるよ!』
『───っ、バカじゃないの! 出来るわけないじゃない!』
『いや、出来る! 俺、決めたら絶対やる男なんだぜ!』
『ばっかじゃないの! 本当、類のバカ!』
「う、そ」
そうだ、ずっと前から知ってた。
彼のこと、彼の名前、彼の姿、彼の笑顔。
そして、その時から私は、彼に恋心を抱いていたのに…。
「なぁ、くるみ。お前の願い、全部叶ったか?」
まるでずっと側にいたかのように類は言う。
本当、何て呑気な奴なんだ…。
「バカ、待ちくたびれたわよ」
「でも、やっぱり俺は出来る奴だろ?」
「何がよ、忘れてたくせに」
込み上げる涙を必至に我慢して言葉を紡ぐ。類は困ったように笑って私の頬に手を添えた。
「もう忘れない。もう、離れない。それが、俺の願いだ」
そして、私の唇に甘いキスをくれた。
○ … ○ … ○
さわさわと風に揺られて清々しい音を木々が奏でる。大きな木を眺めて、くるみは微笑んだ。
「ほんと、変わらず綺麗」
「そうだな」
「そういえばさぁ、類はどうして人に戻ったの?」
「うっわ、今更そんなこと聞かれるなんて思ってなかった」
予想外の質問に何故だか慌てる類。くるみは不思議に思って瞬きを繰り返した。
観念したのか、少し視線を彷徨わせて濁した言葉で呟いた。
「サンタに昇進する時に、お祝いに何でも願いを叶えてくれるんだよ。その時に、戻してくれってお願いした」
「何で! あの時は私のこと覚えてなかったんでしょ?」
「…それでも、いいと思った。ただ、くるみの側にいたいって」
真剣な眼差しに心が跳ねる。くるみは頬が熱くなる感覚を覚えて俯いた。
考えてみれば色んなことが不思議だった。
彼はくるみの事を何も知らないはずなのに、事故の日、事故の現場や、くるみの両親が向かった先など大体の見当をつけて調べていた。もちろん、無意識にだ。
でも、それでもきっかけは偶然なもの。
「運命って、本当にあるのかもね」
「まぁ、サンタもいたしな」
「ふふ、そうだね」
二人は視線を合わせずに流れるまま手を繋ぐ。見上げる空はどこまでも澄んだ青色で、まるで神が微笑んでいるかのように優しい。
「ねぇ、類。私ね、今見習いサンタさんから欲しいものがあるな」
「な、何だよいきなり!」
「あのね、」
にっこりと笑って彼女は耳元で呟く。
欲しいものはひとつ。
貴方からの、甘いキスを、私にちょうだい。
この日数人のサンタが、二人を見守る夫婦の幸せそうな姿を空で見かけたとか…。
おわり
はい、ここまでお付き合いしていただきまして、ありがとうございました。
今回、ギフト企画ということで、かなり前からお声を掛けてくださったのですが、実質この小説を書いたのは、三日か四日です…(汗)
最後の五話くらいは一日で書き上げました。。。
本当、申し訳ないです。
それでも、考えていた話にはほぼ仕上がったとは思います。
とても楽しかったです。
この企画に誘っていただいた李仁古さんに、深くお礼申し上げます。