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婚約破棄されて自由を手に入れた女伯爵ですが、知識をいかして司書になったら王弟殿下に認められ、専属になりました  作者: 畑中希月
第2部 ライオン族の小さな王子

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第77話 友達との別れ(前半ギュスターヴ視点)

 ケルツェン王室の賓客であるギュスターヴ王子を害そうとしたとがで、バルテレミーはケルツェンの近衛兵団に捕縛された。

 その事実は速やかにシェジュの王党派に伝えられる。幽閉されていたアレクサンドラ女王は王党派によって、即座に救出された。


 ケルツェンはバルテレミーの身柄をアレクサンドラ女王に引き渡し、クーデターによる彼の支配は半年を待たずして終わった。バルテレミーは、国が以前のような平穏を取り戻し次第、裁判にかけられるという。


 それらの報は周辺諸国にも伝わっていき、外国に潜伏していたラウル王とセリーヌ王女もシェジュに戻った。


 そして、その知らせを聞いたギュスターヴは。

 カルリアナは父王と妹姫の現状、そして両親が息子である自分との面会を希望していることを、穏やかに知らせてくれた。

 不思議だった。待ちわびていた知らせのはずなのに、まるで他人事のように感じられる。

 それでも、帰らなければならない。自分はシェジュの王子だから。

 ギュスターヴはカルリアナに告げた。


「カルリアナ、僕もシェジュに帰るよ」


 覚悟していたのだろう。カルリアナの翡翠ひすい色の瞳が一瞬揺れ、すぐにいだ。


「……そうですね。これでギュスもご家族と会えるのですから。女王陛下と王陛下にはこちらからその旨を申し送っておきます。ギュスは出立の日までに、ケルツェンで何かやり残したことはないか、考えておいてください」


 ギュスターヴの脳裏に、ある人たちの顔がパッと浮かんだ。


「カルリアナ、僕、エーフィとヨゼフィーネ王女にお別れを言っておきたい」


   ***


 休日、エーフィは母親のフィロメーラ、父親になる予定のゲーアハルトとともに、シュテルンバール公爵邸に招かれた。ギュスターヴはエーフィと二人きりにしてもらう。


「エーフィ、僕、シェジュに帰ることになったよ」


 ギュスターヴが告げると、エーフィは驚いた顔をしたあとで、涙をこぼした。


「エーフィは泣き虫だなあ」


 ギュスターヴは内心では困ってしまったが、エーフィに向けてハンカチを差し出す。

 エーフィはハンカチを受け取りながらしゃくり上げた。


「――だって、せっかくギュス君と仲良くなれたのに……わたし、他に友達なんて出来ないよ……」

「エーフィなら、これからたくさん友達が出来るよ。そのうち学校に入るんだから。それに、手紙のやり取りをしよう。僕がまたケルツェンに来たら、エーフィに会いに行くから」

「本当……?」

「本当だよ」


 ギュスターヴはエーフィと約束し、夕方に彼女が帰るまで一緒に過ごした。


 ヨゼフィーネはエーフィとは正反対に、ギュスターヴが別れを告げても平然としていた。多分、両親からギュスターヴがシェジュに帰る予定であることを知らされていたのだろう。


 エーフィに別れを告げた翌日。王宮の応接間でギュスターヴが「もっと残念がってよ」とむくれると、ヨゼフィーネはからからと笑う。


「また会えばいいじゃない。だって、わたしはこの国の女王になるのだもの。シェジュとはこれからも、いい関係を保っていかなければならないでしょう? シェジュがケルツェンに使節を送ることになったら、ギュス殿下がいらっしゃればいいじゃないの」


 ギュスターヴもつられて笑ってしまった。


「ヨゼフィーネ殿下は強いなあ。きっと、すごい女王陛下になるね」

「そうよ。わたし、近々立太子されることが決まっているの。そうしたら王女殿下ではなく、『王太子殿下』と呼ばれることになるのよ。来年は太陽学院への入学も決まっているしね」


 ギュスターヴは少し不安になった。

 初対面のときは、元気すぎるヨゼフィーネに圧倒されてしまったが、今では彼女もエーフィと同じく大切な友達だ。ヨゼフィーネが王太子になってしまったら、いずれ臣籍降下する自分と友達でい続けてくれるのか、心配だった。


「……王太子になったあとも、僕と友達でいてくれる?」

「もちろんよ」


 胸を張って答えるヨゼフィーネを見て、ギュスターヴは安心した。

 ヨゼフィーネは偉い。もうすぐ誕生日を迎える彼女は、来年の初めまでは自分より二歳年上なだけなのに、もう王位継承者として将来を見据えている。


 自分が王族としてできることとはなんだろう。

 やりたいことならある。

 自分のような形で国を追われる王族が二度と出ないよう、王室のしきたりを変えたい。

 幼いときのバルテレミーや大伯父のような、不幸な子どもが現れないためにも。


 大仕事だ。もしかしたら、自分の人生を使い切っても、途上で終わるかもしれない。

 たとえそうであっても。


(僕も王子としての役目を果たそう)


 そうすれば、カルリアナとディートシウスとも、どこかでつながっていられるから。


   ***


 雪月せつげつ(十二月)の二十八日には、シュテルンバール公爵邸でカルリアナの二十一歳を祝う誕生日会が開かれた。

 ギュスターヴのお別れ会も兼ねているので、カルリアナ、ディートシウス、ギュスターヴにとって気の置けない人たちだけを招いた、小規模なお茶会(カフェトリンケン)だ。ギュスターヴはエーフィやヨゼフィーネと最後の別れを惜しんでいた。


 カルリアナにとってとりわけうれしかったのは、ギュスターヴが自分で選んだ誕生日プレゼントを贈ってくれたことだ。

 花をかたどった上品なデザインのイヤリングで、ギュスターヴがディートシウスから渡された冒険者ギルドからの報酬で買ったものだそうだ。


 ディートシウスはペンダントトップが本の形をしている、特注のペンダントを贈ってくれた。その場で、贈られたイヤリングとペンダントを着けてみせると、二人とも「とても似合う」と言って喜んでいた。


 そして、ギュスターヴが帰国する前日。

 カルリアナはディートシウスとギュスターヴとともに、王都の外れにある風光明媚(めいび)な湖に赴いていた。ディートシウスの提案だ。


 今まで、ディートシウス、ギュスターヴと連れ立っていろいろな場所に出掛けたけれど、おそらく、これが三人で過ごす最後の思い出となるだろう。

 クラウスをはじめとした護衛隊員たち、それにメラニーやマルクたちも少し離れた場所から見守ってくれている。


「見て! 白鳥の群れがいるよ!」


 外套コートとマフラーに身を包んだギュスターヴが、はしゃぎながら湖のほとりまで走っていく。カルリアナとディートシウスは顔を見合わせてほほえみながら、その後をついていく。


「越冬するために、ケルツェンに渡ってきているのですよ」


 追いついたカルリアナが説明すると、ギュスターヴは白鳥を眺めながら不思議そうな顔をする。


「へえー。ここも十分寒いのにね。普段過ごしているところが、そんなに寒いのかなあ」


 三人はメラニーたち付き添いの者が敷いてくれた絨毯じゅうたんの上に座る。魔道技術で作られた保温効果のある水筒から、温かいお茶をコップに注いで飲みながら、取りとめのない話をした。


 不思議と三人ともこれからの話ではなく、出会ってから今までの話に花を咲かせた。本当に、この五か月の間、いろいろなことがあった。

 ふと、ギュスターヴが言った。


「ねえ、ディートシウスが今までで一番びっくりしたことって何?」

「うーん、いろいろあるけど……一番はやっぱりあれかな。カルリアナがゴッテスフォーゲルと会話し始めたこと?」

「ゴッテスフォーゲルって、まだこの大陸にいるの!?」

「うん、そうだよ。俺たちの友達」

「嘘だあ」

「本当ですよ」

「だまされないよ。カルリアナはいつも真面目な顔で冗談を言うもん。それに、いくらカルリアナだって鳥と話せるわけないよ」


 ディートシウスは腕組みをして、考え込むそぶりを見せる。


「ふーむ、このまま嘘つきだと思われるのは、俺たちの沽券こけんに関わるな。カルリアナ、例のオルゴールボールを持ってる?」

「ええ、何があるかわかりませんから」

「さすが。ちょっとだけ貸してくれない?」


 もしかして、今この場でゴッテスフォーゲルを呼ぶつもりだろうか。ここは人里からは少し離れているし、そばにいるのもクラウスのように自分たちとゴッテスフォーゲルの関わりについて知っている人たちばかりだ。


 ゴッテスフォーゲルたちに危害が及ばないことを確信したカルリアナは、腰巻きポケットからオルゴールボールを捜し、ディートシウスに渡した。

 オルゴールボールを受け取ったディートシウスは、片手でひょいとギュスターヴの両目を覆い、空いたほうの手をカルリアナの頬に添える。


 言葉を発する前に、カルリアナの唇はディートシウスの唇によって塞がれてしまった。

 オルゴールボールのたえなる音が静かな湖畔に響き渡る。


 永遠にも思えるような時間は、十秒ほどだったに違いない。唇を解放されたカルリアナに、ディートシウスはささやいた。


「どう? 頭の中が俺でいっぱいになったでしょ? 俺もカルリアナのことしか考えられなかった」


 カルリアナは頬に熱が集まるのを感じながら、口をパクパクさせる。

 オルゴールボールの音が余韻を残して消え去ると、代わりに複数の鳥が羽ばたく大きな音が聞こえてきた。湖を優雅に泳いでいた白鳥たちが一斉に飛び立つ。

 ディートシウスがギュスターヴの両目から手を離しながら、上空を指差す。


「ほら、見てごらん」


 言われたとおりにしたギュスターヴは歓声を上げた。


「わあ、あれがゴッテスフォーゲル!? しかも三羽もいる!」


 地上に降り立ったゴッテスフォーゲルの一家が辺りを見回す。白い羽毛に覆われた彼らのヒナは、両親より一回り小さく、幼鳥と呼んでも差し支えない大きさに育っていた。そのうち、両親と同じ銀色の羽毛が生えてくるのだろう。

 ゴッテスフォーゲルの父親がカルリアナに語りかける。


〈久しぶりだな。このとおり、娘もだいぶ大きくなった〉

〈ご無沙汰しております。急にお呼び立てしてすみません。この方が明日帰国する隣国の王子殿下に、あなた方を会わせたかったようで〉


 カルリアナがディートシウスをにらみながら応じると、ゴッテスフォーゲルの母親が上品な笑いを含ませた声で言った。


〈よいのですよ。今回のあなたがたの想いは特に鮮烈で、とても美味でしたから〉


 カルリアナは穴があったら入りたくなった。


「すごい……本当にゴッテスフォーゲルと話してる」


 すぐそばで驚いているギュスターヴに、ディートシウスが得意げに言う。


「でしょ? カルリアナはすごいんだよ」

「すごいとかそういうのはいいですから! 人前で、しかもギュスもいるのに、なんてことをしてくれたのですか!? 全く、こんなことになるのなら、彼らの呼び出し方を教えなければよかったです!」


 カルリアナがすごい剣幕で怒っても、ディートシウスは全くこたえた様子がない。


「いいじゃない。ギュスの目はちゃんと手で覆っていたし。ギュス、何が起きたかわからなかったよなー?」

「え!? 他にも何かあったの?」

「……もういいです」


 カルリアナは深いため息をつきながら諦めて言った。そのあとで思わず頬を緩ませる。ギュスターヴが心からうれしそうな顔をしていたから。

次話が第2部最終話です。

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