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婚約破棄されて自由を手に入れた女伯爵ですが、知識をいかして司書になったら王弟殿下に認められ、専属になりました  作者: 畑中希月
第2部 ライオン族の小さな王子

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第42話 レファレンス完了

 カルリアナは念のため、司書たちに彼らが行ったレファレンスの結果を聞いた。予想どおり、この図書館にシェジュ王室のしきたりについて詳しく書かれた資料はなく、代々の君主について簡単に書かれた本があるくらいのようだ。


(ふむ、外国には秘密というわけではありませんが、センシティブな情報ですからね。仕方ありません)


 自分の見落としではなかったので、カルリアナは司書たちが集めた本に目を通したあとで、固有魔法【知識具現化】を使うことにした。

 魔力を集中させると、空中に本が現れる。カルリアナは両手に降りてきた本を目の動きでパラパラとめくる。

 カルリアナの固有魔法が珍しいのか、騒ぎを聞きつけていつの間にか集まっていた人々の間から、「おおー!」という嘆声が漏れる。


(図書館なのに、少しうるさいですね)


 シェジュ王室のしきたりについて書かれた文章を黙読しながら、各情報の下に記載された出典を挙げていく。


「シェジュ王室のしきたりについて詳しく書かれている資料を申し上げます。『シェジュ王室の光と影』『決闘――シェジュ王室の真実』『ライオン族とライオン』。他にもございますが、この三冊をお読みになれば間違いないでしょう。ただ、これらの参考文献は王立図書館にございます。内容を簡単にまとめた情報をお聞きになりますか?」


 二人の利用者は場の空気にまれたようにうなずいた。


「……はい」


「では申し上げます。その前に、獣人族はさまざまな動物に似た種族で構成された民族だということはご存知ですね?」


 二人の利用者は異口同音に答える。


「もちろん」

「それならば結構。シェジュの王室は代々ライオン族で、動物のライオンの群れと同じく母系制です。これもご存知のこととは思いますが、シェジュは共同君主制の国で、代々の女王が夫君を迎え、王に即位させます。女王と王は共同統治者ではありますが、政治は女王をはじめとした王室の女性の役目です。これに対して、王をはじめとした王室の男性は、軍を率い、その武力で王室や国を守る存在です。これも、群れを守り、群れの子孫を繁栄させる役目を持った動物のライオンのオスと似ていますね。ですが、最もライオンと酷似している点は、古くからのしきたりです」


 いよいよ本題だ。


「女王の近親者以外のライオン族の男性が挑戦者となり、王と戦って勝った場合、女王と婚姻して新たな王となれます。決闘に負けた先王は例外なく殺されるそうです。ライオンの群れのリーダーが群れを乗っ取りに来たオスと戦って負けると、追い出されるか命を落とすか、という状況になるのと似ていますね。ライオンと同じで、王が決闘によって交代した場合、女王と先王の間に生まれた子はすべて処刑されることになるそうです。ここ百年余りでは、決闘による王の交代はございませんが」


 壮絶なシェジュ王室のしきたりを聞いた、その場の人々が静まり返る。


(図書館とは、本来このようであるべきです)


 静けさに満足したカルリアナは、二人の利用者におまけのアドバイスをする。


「わたしが述べた情報を適当に膨らませてください。そして、先ほど挙げた資料がこの図書館にあったことにして、参考文献としてレポートに書いてしまいましょう。そうすれば、レポートを提出できます」

「……そう致します。大学図書館の資料がすべて借りられていたので助かりました」


 カルリアナは腰巻きポケットを探る。鉛筆と、ふだんメモ帳に使っている、領地の製紙工場から安く買い取った紙を取り出す。先ほどの資料名・著者名・出版社を書き、男性利用者に渡した。


「では、これを」

「ありがとうございます。ほら、君もお礼を言って」

「え!? あ、ありがとうございます」


 二人の利用者は毒気を抜かれたような表情で、エントランスの方に歩いていった。

 残された人々がカルリアナに向け、パラパラと拍手する。


(おや)


 カルリアナが驚いているうちに、拍手は次第に大きくなる。

 何か反応を返すべきか迷ったカルリアナは、舞台上の女性俳優のようにお辞儀(カーテシー)をして彼らに応えた。


 カウンターの中にいた司書たちが、こちらに駆け寄ってくる。先ほど、申し訳なさそうにレファレンスの結果を述べていた女性が口を開いた。


「なんとお礼を申し上げたらよいのかわかりませんが、ありがとうございます……! あの、ぜひお名前を教えてください。王立図書館で働かれている司書の方ですよね? 機会があれば、わたしもレファレンスを依頼させてください!」


 男性司書も彼女に続いた。


「わたしもぜひ! 後学のためにも学ばせてください!」


 気持ちはうれしかったが、カルリアナは困ってしまった。なんと答えたものか。


「……名乗るほどの者ではございません。それに、わたしは王立図書館に勤めているわけではない、通りすがりの司書です。もうすでに頑張っていらっしゃるでしょうが、これからもお仕事を頑張ってください」


 そう言うと、カルリアナはそそくさとエントランスに向け、早足で歩いていった。

 後ろを追いかけてきたディートシウスが、エントランスにほど近い、展示式雑誌架の前で隣に並ぶ。


「お疲れさま、カルリアナ。休暇中だっていうのに、君は本当に仕事が大好きだねー」

「休暇中といっても、半分は公務のようなものですから」


 王族とその伴侶にとって、視察は公務の一環なのだ。

 ディートシウスは整いすぎた顔いっぱいに笑みを浮かべた。


「それって、君の中ではもう俺と結婚しているってこと?」

「……あくまで『公務の()()()もの』というだけの話です。勘違いなさらないように」

「恥ずかしがらなくてもいいのにー」


 図星を突かれ、カルリアナは歩きだしながら、ぷいと顔を横に向けた。


「恥ずかしがってなんかいません」

「ほんと、カルリアナは可愛いなあ」


 ディートシウスが甘い雰囲気をまとい始めたので、カルリアナは話題を変えることにした。


「それはともかく、ディートも先ほどの事件をご覧になっていたでしょう。いろいろと改善点を見つけられたのでは?」

「あ、話を変えたね。まあ、いいや、あとでイチャイチャしよう。そうだねー、さっきみたいなマニアックな質問にも答えられるように、この図書館も王立図書館に負けないくらい、もっと蔵書を幅広く増やしてもいいね。それに、図書館同士の連携も必要だし、迷惑利用者への対処の仕方なんかも、図書館員に教育する必要がある」

「それに、レファレンスに関する教育にも力を入れるべきだと思います。わたしに憧れるようでは困りますから」

「……いや、大抵の司書は君に憧れると思うよ?」


 そうだろうか。カルリアナが小首をかしげていると、ディートシウスが肩に手を回してきた。


「そういうところも可愛い」


 カルリアナはドキッとしたが、ディートシウスの手をぴしゃりと叩く。


「イチャイチャなさるのは、あとででしょう?」


 ディートシウスは少し残念そうな顔をし、今度はカルリアナの手に長い指を絡めてきた。


「うん、楽しみにしとく」


 婚約してからというもの、ディートシウスはますます積極的になってきた。二人だけのときならまだしも、こういった人目のあるところでそういうことをされると大いに困る。

 カルリアナはディートシウスの手から自分の手を引き剥がしつつ、テルマッセ図書館の外に出た。


 カルリアナが王宮の転移魔法陣を初めて使い、シュテルンバールの州都テルマッセに来たのは他でもない。ディートシウスとの婚約をシュテルンバールの住民にお披露目するためだ。

 それに、今夜行われる婚約披露パーティーで、招待客たちに挨拶するためでもある。

 ディートシウスが懲りずに手をつないできた。


「今夜の婚約披露パーティー、楽しみだね。王都での披露パーティーも済ませたし、このパーティーで招待客たちに君を紹介すれば、俺達は実質的に結婚したようなものだから」

「……世間に認められるだけですよ」


 カルリアナは照れていることを悟られぬように応えた。

 すでに婚約式を済ませ、新聞で大々的に報じられたとはいえ、お披露目することでディートシウスとの婚約を貴族や民衆に認めてもらえることは、もちろんカルリアナだってうれしい。


 ただ、ディートシウスは王弟であり、王子だ。

 ちなみにディートシウスは先王の第三王子なので、今でも「王子」の称号を使うことがあるし、人からそう呼ばれることもある。


 カルリアナは彼と結婚すれば、王弟(王子)妃およびシュテルンバール公妃(公爵夫人)となる。今まで王室とは血縁関係になかったカルリアナにとって、妃という称号はなかなかに重かった。

 いい気なもので、ディートシウスは鼻歌を歌いだしそうな表情で言った。


「それでも、俺はうれしいよ。今回シュテルンバールにカルリアナと来られたことだって、君との同棲と婚前旅行が同時にやってきたみたいだしね」

「婚前旅行はこれからする予定なのでともかく、同棲ですか……大きなお城に滞在することのどこが?」

「えー、それでも、大好きな人と毎朝顔を合わせて、毎食ご飯を一緒に食べられるって、幸せなことじゃない?」

「全く、あなたはどうしてそういうことを外出先で……」

「なになにー?」

「なんでもありません」


 あまり塩対応ばかりしていると、ディートシウスに嫌われるかもしれないので、カルリアナは返答とは裏腹に、ディートシウスの手をそっと握り返した。

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