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婚約破棄されて自由を手に入れた女伯爵ですが、知識をいかして司書になったら王弟殿下に認められ、専属になりました  作者: 畑中希月
第1部 司書と王弟

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第25話 イングベルトの目的(オイゲーン視点)

 オイゲーンはカルリアナに出した手紙の返事を待っていた。しかし、待てど暮らせど返事は来ない。


(なぜだ? ここは王都だぞ!? カルリアナも王都にいると聞いているのに!)


 もしや、王弟ディートシウスに気を遣うあまり、返事を出せないでいるのだろうか。ディートシウスは一言で言えば、カルリアナにとっては高嶺たかねの花だ。だからこそ、寵愛ちょうあいを受けて、いい気になっているのかもしれない。


(君にはわたしくらいの相手がちょうどいいのに……!)


 嫉妬に駆られ、オイゲーンは頭を抱えた。

 部屋の扉が叩かれた。オイゲーンが返事をすると、屋敷の従僕が現れる。


「オイゲーンさま、殿下がお呼びです」

「わかった」


 従僕に案内され、オイゲーンは廊下を歩いていく。ただでさえ広いこの屋敷の構造に、オイゲーンはいまだに不慣れだった。

 従僕は両開きの扉の前で立ち止まるとノックをし、「オイゲーンさまをお連れいたしました」と呼びかけた。そして返事を待ってから、扉を開ける。


 オイゲーンは部屋の中に入った。

 そこには、第一の王弟イングベルトが丸テーブルの前で椅子に座っていた。彼はこちらに視線を向け、笑顔になる。


「よく来てくれた、オイゲーン。何か不自由していることはないか?」

「殿下のおかげさまをもちまして、快適に過ごしております。修道院から出していただいただけでなく、お屋敷に部屋までご用意いただき、感謝の念に堪えません」

「そうか、それは何よりだ。ワインを飲むかね?」


 見れば、イングベルトの向かいの席に空のグラスが置かれている。〝話があるということだな〟と察したオイゲーンは答えた。


「いただきます」

「かけたまえ」


 オイゲーンは席に着いた。執事がオイゲーンのグラスに白ワインを注ぐ。イングベルトは彼を下がらせた。

 イングベルトに勧められるまま、オイゲーンはワインに口をつける。修道院で造っていたワインもうまかったが、これはものが違った。王弟ともなると、このようなワインが飲めるのだ。


(今頃カルリアナもいい思いをしているのだろうか。ディートシウスめ、財力に物を言わせて彼女を惑わせやがって……!)


 そう思うと、いっそう焦りを感じてしまう。


「オイゲーン、君はこの国の現状についてどう思う?」


 突然そう聞かれ、オイゲーンは我に返った。将来はカルリアナと結婚することが決まっていたこともあり、学生時代を遊び暮らしたオイゲーンには、いまいちピンとこない質問だった。


 だが、とんちんかんな返答をしてイングベルトを失望させるわけにはいかない。彼に見限られたら最後、自分は行き場を失ってしまうのだ。

 オイゲーンは慎重に言葉を選んだ。


「……わたしの目には、良くも悪くもないように見えます」

「ふむ、そうか。以前、君の許嫁いいなずけに同じ質問をしたとき、彼女は兄王を褒めちぎっていたが、君は別の見識を持っているようだね」


 カルリアナがなんと答えたのか、オイゲーンは少し気になったものの、聞くのはやめておいた。どうせ彼女は小賢しいことをまくし立てたのだろう。イングベルトがカルリアナのことを「君の許嫁」と言ったので気をよくした、という理由もある。


「わたしが思うに、兄は民に甘すぎるうえ、諸外国からなめられている。もっと税を上げ、軍備を固めるべきだ。だが、王弟といってもわたしの立場では思うようにならないことが多くてね。歯がゆい思いをしているのだよ」


 オイゲーンは驚いた。学生時代、同じようなことを言う連中もいたが、まさか王弟がそちら側の人間だとは思ってもみなかった。

 どう反応すべきか悩んでいると、イングベルトがワインをあおった。グラスをテーブルに置き、声を低める。


「わたしにつかないか? うまくいけば――君は新王の側近だ」


 それはつまり、現状に不満のある王弟がクーデターを起こし、兄王に代わり王位にく、ということだろうか。

 カルリアナとディートシウスを別れさせてほしい、という要請に応じたはずが、ずいぶんと話が大きくなってしまった。

 オイゲーンが呆然としていると、イングベルトは笑った。


「すぐに返事をしろとは言わない。考えておいてくれ」


 どうしても気になることがあるので、オイゲーンは勇気を出して尋ねる。


「殿下、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」

「なんだね?」

「アルテンブルク伯とディートシウス殿下を別れさせることと、そのお話には何か関係があるのでしょうか」

「のちのちわかるよ。今、ひとつだけ言えることがあるとすれば、そうだな――君が邪魔すれば、二人の仲がより燃え上がるだろう? それがわたしの狙いなんだ。そうすれば、一歩目的に近づくのでね。もちろん、最終的には別れてもらうことになるだろうが」

「さようでございますか。ご深慮、感服いたしました」


 飲み干したワインの味も思い出せないまま、オイゲーンはイングベルトの部屋を出た。


「……新王の側近、か」


 口に出して反芻はんすうしてみると、なかなか甘美な言葉だった。

 国の英雄であるディートシウスは、おそらく国王側の人間だろう。カルリアナを取り戻すためには、ディートシウスを徹底的に叩きのめさなければならないのだとしたら、イングベルト側につくのも悪い話ではないのかもしれない。


(危険な話だし、一時的にしろ二人の仲が深まるのは腹が立つが……わたしがそこまでしたと知れば、きっとカルリアナは感動するに違いない)


 オイゲーンは口角を上げると、話を承諾する際の口上を考えながら自室に戻った。

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