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いちご白書をもう一度

作者: 沢木 翔

大学の後輩からメールが来て、その文末に追記のような形で大学時代に少し交流のあった2年後輩の女性のKさんが癌で先月亡くなった旨が記されていた。


年齢的には還暦を少し越えたぐらいなので、今の時代では早すぎる逝去である。


彼女は大学祭の実行委員会の後輩にあたる。

私の通った学校は当時小平と国立の2つのキャンパスに分かれていたので大学祭も2つあり、私たちは1~2年生が通う小平キャンパスの大学祭の実行委員会のメンバーであった。


1~2年生のための大学祭だから、当然実行委員も1~2年生だけで構成されていた。

実行委員会が主催する講演会やコンサートは1年を通して開催されていたが、本祭が6月なので2年生委員は夏休み以降は代替わりとなって実行委員会を卒業していた。

ただ、毎年本祭の3日間だけは人手が足りないので、3~4年生のOB・OG達が助っ人として手伝う慣習があった。


Kさんとは彼女が2年生、私が4年生になった春先ごろから、他の現役委員会メンバーやOB連中との喫茶店での雑談や飲み会で時折一緒になることがあった。

彼女は、スラリとしたキュートな感じで茶目っ気のある女性だけど、結構芯が強いしっかりした人という印象があった。


その年の5月上旬の昼下がり、授業を終えた私が国立のキャンパスを歩いていると背後から彼女に声をかけられた。

彼女は実行委員会の関係で国立に来る用があって、その用が済んだとのこと。


「観たい映画が近くの名画座(国立スカラ座)でやっているので、これから一人で行くつもりだったけれど一緒に観に行きましょ~よ~。」とかなり強引に連れていかれた。


映画は「いちご白書」だった。

この数年前にバンバンの「いちご白書をもう一度」が大ヒットしたので、どんな映画なのか観てみたかったそうだ。


映画のあと、近くの手ごろな店で一緒に夕食を済ませ国立駅まで歩いているとき、急に彼女が腕を組んできたのでビックリした。

「えへへ、こうしているとデートしているみたい。」といたずらっぽく笑っていた。


私は4年生の夏休み明けから卒論を書いたり、就職活動をしたりで結構忙しくしていたこともあって、彼女とはその後も偶然大学で会ってお茶を飲むぐらいの関係のままで推移した。



冒頭に「交流があった」と書いたが、いわゆる恋愛関係ではなかったと思う。


彼女は感じが良く、また、ほんの少し銀色が乗っているような瞳が印象的でルックスも良いので、男子からよく声を掛けられるのではないかなと思って尋ねたことがあるけど、「全然。中学・高校と女子校だったし、大学に入ってからも授業と大学祭で忙しくて。」と言っていたが、本当は違うんじゃないかと思っていた。


私については「いとこのお兄さん」のような安心感があるので、話しやすいとのことだった。

私は「なんだよ、いとこのお兄さんかよ。」と一応抗議をしたものの、内心では「確かに年下の親戚の女の子という感じだなあ。」と妙に納得しいていた。



そんな関係なので、卒業してからは彼女と再会することもなかった。


彼女は卒業後外資系の会社に勤務したのち、結婚して家庭に入ったそうだ。

それ以上のことは承知していない。



佳人薄命。

だけど人は誰でもいつかは人生を卒業する。

彼女の人生が実り多いものであったことを心から祈る。



「いちご白書」は社会人になってしばらくしてTVで再び観た記憶がある。

彼女ももう一度観たのだろうか?

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