優しさの理由
クリフトン卿はわたしを見ながら、まるで心を読んだかのように頷いた。
「何にせよ、ミラー家に来られて良かった。ブライアンはそのことを気にしていたからな」
「ブライアンが何で?」
「君のことを心配していた。婚約者の弟とはいえ、屋敷に訪問するには理由が必要だ。他の催しには参加していても、ミラー家には来ない。招待しても一度も参加しないことが気にかかっていたらしい」
「・・・」
マーゴやユージェニーにもよく心配される。わたしが参加させてもらえる催しが少ないから、顔を合わせる機会が少ないのだ。
数少ない機会は、欠席が非礼に当たる催しと友たちが招いてくれた三人だけのお茶会だけ。
「でも、何で・・・?」
「ブライアンはダヴェンフィールド家のすぐ近くにいる。気付いて無視できるほど人でなしじゃない」
「・・・!」
ブライアンが気付いていたのは、婚約者に蔑ろにされていたことだけじゃなかったんだ。
もしかして、ミラー夫人も気付いていた?
気付いていたから、あんなに優しかったの?
ブライアンだけが特別にわたしを見ていたわけじゃなかったのなら、じゃあ、フェルナンドは?
フェルナンドはお姉様ばかり見ていて気付かなかった?
ブライアンは気付いたのに?
気付いていても気付かないふりをして、助けようともしなかった?
――それなら、人でなしだ。
わかっていたことだけど、つらい。胸が苦しくなる。
わたしは目を伏せた。
とてもじゃないけど、わたしを真っ直ぐに見るクリフトン卿の視線に耐えられない。まともにわたしのことを見てくれているクリフトン卿の目に自分の弱さを責められているような気がした。
弱いわたしは、フェルナンドの行為がおかしいとわかっていても、強く言い出せない。
お姉様が正しくて、そんな正しいお姉様がフェルナンドを窘めないから、正しいことなんだと諦めて受け入れてしまっている。
どうして、フェルナンドが婚約者なんだろう?
どうして、ブライアンが婚約者じゃなかったんだろう?
お姉様を好きなフェルナンドが、どうして、わたしの婚約者なんだろう?
どうして、わたしの婚約者がお姉様を好きになってしまったんだろう?
ブライアンがわたしの婚約者だったら、お姉様を好きになっただろうか?
それとも、お姉様を好きにならなかっただろうか?
目が熱くなってくる。
「君を責めているわけではない。そのことだけは間違えないでくれ。ブライアンは君の置かれている状態がおかしいことに気付いている。ミラー夫人もそうだ。私だとて、あの短時間でわかっている。わからないはずがない。――ああ、うまく言えないな」
ミラー夫人も気付いていたんだ。
ぼんやりと聞いていたら、クリフトン卿がもどかし気に頭を振る。
「君は一人ではない。私たちは君を助けたいと思っているんだ」
わたしを助ける?
助けたいと言われてわたしは驚いた。
顔を上げたらブルーグレーの目と遭う。面白がる色などない真剣な目付きで、冗談じゃないらしい。
込み上げてきたものが波が引いたように消えた。
クリフトン卿が何を言っているのか、よくわからなかった。
対象も、方法もまったく思いつかない。対象が思いつかないんだから、方法なんかもっと思いつかない。
「助けると言っても、何から? どうやって?」
フェルナンドから?
お母様から?
お姉様から?
全部?




