ブライアンの仕事部屋
「じゃあ、行くか」
そう言って、ブライアンが連れて来たのは窓を背に書斎にあるような机が置かれ、その前に1人掛けのソファが二つと2人掛けのソファがローテーブルを挟んで置かれている部屋だった。本棚もあったけど、作り付けではなく、一台だけだ。ブライアンの仕事部屋だろう。
1人掛けのソファの一つには金褐色の髪の先客が座っていた。
予期せぬ先客にドキリとする。
そう言えば、ブライアンは客を待たせていると言っていたっけ。
「よお。待たせたな、クラレンス」
ブライアンに声をかけられて、クリフトン卿が立ち上がって、こちらを見る。
「・・・!」
また会うことになるなんて思ってもみなかった。
いや。優しいミラー夫人と会って、忘れていただけ。
領地経営の勉強はクリフトン卿が教えてくれるって、ブライアンが言ってたから、クリフトン卿がいて当たり前。いなくては始まらない。
「気にするな、ブライアン。こうして待っている間にうまい茶を楽しむのもいいもんだ。――ごきげんよう、アリス嬢」
「あー。そうだよなー。・・・――うん。お前が楽しめたのなら、うちの侍女も喜んでいてくれるよ」
ブライアンの歯切れが悪いのは、フェルナンドがすっぽかしたせいだろうか? 夜会でフェルナンドと言い争いになった時、クリフトン卿はタウンハウスで捕まらない、と言っていた。予定をすり合わせていたにもかかわらず、待ちぼうけを食らわされて飲んだお茶の味なんか、楽しめるはずはない。
いくらブライアンがフェルナンドの代わりにクリフトン卿と交渉して、わたしに紹介するほど仲が良くても、気まずさは残る。
二人の仲が良いから、お茶の件も嫌味や毒舌にならないんだろう。
ブライアンはわたし以外にも親しくしている人がいたようだ。
・・・――なんか、気分がもやもやする。
「アリス、座っててくれ。侍女にお前の分、頼んでくる」
「そんなことしなくていいよ」
「サロンで茶を飲んでいなかっただろ? 来客に茶の一杯も出さないなんて、うちの沽券に関わるからな。さっきの分も飲んでけよ。俺がお母さん役した茶なんか、貴重だぜ」
お道化て言うブライアンにつられて笑ってしまった。
夫人用のサロンではブライアンの母ミラーと挨拶しただけで泣いてしまって、お茶を飲むどころか、話すらできていない。
泣いて喉が渇いているから有難い申し出だけど、ブライアンの淹れたお茶が美味しいかどうかは知らない。
「ブライアンにお母さん役が務まるの?」
「俺の才能に嫉妬するなよ」
「侍女に淹れてもらっちゃ駄目?」
お茶の用意を持ってくる侍女は美味しいお茶が淹れられないと、なれないから味が保証できる。
「俺の茶が飲めないってのか?」
腹立たし気に言いながら、ブライアンの顔は笑っている。
「アリス嬢、ブライアンの茶は普通に美味しい」
自称ではなく、ブライアンが淹れたお茶は美味しいらしい。
使用人ですら男性がお茶を淹れることは珍しい、というのに、淹れたお茶まで美味しいなんて、ブライアンはかなり特殊だ。
それを披露する間柄は、ただの仕事仲間とはもう言えない。
紹介してくれたことから見ても、個人的に親しいようだ。
「ほらな」
クリフトン卿の言葉にブライアンは得意げな表情をなって、わたしを見た。
どうしてだろう? 何故か、殴ってその顔を止めさせたい、という気持ちになってくる。
「本当に?」
クリフトン卿の証言があっても、ムカついたので疑わし気に言ってみた。
「疑ったんだから、美味しかったら、俺のこと、お兄様って呼べよ」
「は? どうしてそうなるの?!」
お兄様?!!!
フェルナンドと結婚したら(そんな未来、もう想像してないけど)、ブライアンは義弟になるのに?!
それなのに、『お兄様』と呼べって?!
「お前、歳下だろ」
「・・・」
何、考えているんだろう・・・、ブライアン。
ミラー家はブライアンとフェルナンドの息子2人しかいなくて、ブライアンは逆立ちしても『お兄様』って呼んでくれる弟妹いないけど、親戚や歳下の知人からは呼んでもらえるはず。
・・・――それとも、わたし、その枠に入ってしまったの?!
わたし、歳下でも義理の姉になるから、妹枠にならないよね?!




