政略結婚の裏側
「お母様にとって、わたしは何だったの・・・? わたしとお姉様の違いは何? どうして、わたしだけが嫌われるの? ねえ、どうして? お母様?」
嫌われている理由がわかっても、わたしにはいくら考えても、その理由がわからなかった。
だから、尋ねた。嫌っているお母様本人なら答えを知っていると思って。
お母様は煩わしそうに眉を顰める。
「理由なんて一つでしょ。お前は役立たずなのよ。気の利いたこと一つできやしない。私がお膳立てしてしてあげなければ、役に立つ縁組だって結べない」
「無茶言わないで。8歳でどうやって、良い縁談を自分で見付けて来いっていうの?! 無理よ!」
わたしがフェルナンドと婚約したのは8歳の頃だ。それまでにどうやって縁談をまとめろというのか。
「気に入られなさいと、何度も言ったでしょ」
「正気?! 公爵家や侯爵家の令嬢を蹴散らして無事でいられるわけない!」
「出来ないのはお前が無能だからでしょ」
「・・・!」
言われてもできることと、できないことがある。お母様やお父様の交友関係で連れて行かれたパーティーの主催者や身分の高い子弟はわたしのように親に言われて近付いた子たちがたくさんいた。伯爵家以下の令嬢は身分の高い令嬢に蹴散らされ、少し遠巻きに見ていることしかできない。
伯爵令嬢は身分が高いようでいて、そうでもない。公爵や侯爵の孫のほうが伯爵令嬢より権力がある。父親が爵位持ちだからといって、父親が爵位を持っていない令嬢より偉いとは限らない。権力のある祖父や叔父がいれば、父親が爵位を持っていなくても泣き付けば無理が通るのだ。
片や伯爵止まりの血筋しかない令嬢。片や侯爵家以上の家の血筋として扱われる令嬢。どっちが権力を持っているかは一目瞭然だ。
それなのに、お母様はやれと言う。
出来なかったわたしが悪いと言う。
お姉様のように役に立つ存在になれず、婚約を用意しなくてはならなかった落ちこぼれ。
認めたくない現実を無視しても、それは無視しきれない。これまでの経緯がすべてを物語っていた。
お父様に調子を合わせていたのだと、都合の良い話にしたくても、あまりにも悪質すぎた。
使用人に侮られ、軽く扱われるのは、何もお父様の意向ばかりじゃない。
お母様の意思もあった。
使用人に主人一家の一員として敬意を抱かせるのもそう。
母親から娘に装飾品を贈るのもそう。
だけど、使用人の敬意は自分で得られても、装飾品は違う。
母親から娘に対する思い。幸せになってくれという願いは、自分が作る物じゃない。
お母様に気に入られるようにすれば、装飾品をくれる?
どうやって気に入られる?
疎まれているとわかった今から?
使用人から敬意を持たれる主人らしい言動を勉強する機会まで奪っていた相手に?
そんな相手に幸せを願わせたい?
そうするのは一種の復讐だろう。
でも、そんなことしてどうなるの?
気に入ってもらえたら、何かが変わるの?
次期当主はお姉様で。わたしは政略結婚が決まっていて。
社交界に出ても恥ずかしくない教養が身に付けられる?
わかっているのは、装飾品がもらえることだけ。
お姉様がわたしの代わりに結婚して、わたしに次期当主の座が転がり込んでくる。
そんなこと、あるはずがない。
「できない自分を顧みず、私を恨みがましい目で見るのは止めなさい。悪いのはお前。縁組一つ寄こされなかったできなかったお前なの」
よくある親に有望な令息に媚を売らされている側の話




