クラレンスの謝罪
クリフトン卿はこのまま騒ぎを続けていては次の曲の開始が遅れるかもしれないと、考えたのか、ダンスフロアにエスコートしてくれた。ダンスフロアの端のほうにいたお姉様たちの横を通り過ぎ、中央付近まで進む。
ダンスフロアにいても、曲が始まっていない上にお姉様たちがいたのは観客に声を大きくしなくても聞こえるすぐ傍だった。ここまで離れれば、叫ばない限り話すことはできない。つまり、曲が奏でられていなくても、フェルナンドと話すことが完全にマナー違反の距離にあたる。
曲が奏でられ始められ、ステップを踏み始めてからクリフトン卿が言いにくそうに口を開いた。
「さっきは悪かった。淑女に対する態度ではなかった」
「え? こちらこそ、助けてもらったので、気にしないでください」
淑女向けに美辞麗句並べられなくても、濡れ衣着せてきたフェルナンドに謝らないですんだだけで、充分、助かりました。しばらくはクリフトン卿の健康を祈るくらい感謝してます。今日から寝る前と起床時に祈ります。
「初対面の相手だというのに、あれは酷い。八つ当たりしてしまったんだ。フェルナンド卿はいつも婚約者の我儘で呼び出されていた、と聞いていたから」
「いえ、いいんですよ。いつもフェルナンドは我が家に来てたから」
あ。初対面での態度のことか。
まあ、普通? 不機嫌そうなだけで、八つ当たりらしいことも言われていないし。さっきのフェルナンドに比べれば非常に普通だ。
それに間違いではないのだ。我が家に来ていたことは。
やけに頻繁に会いに来ると思っていたのだ。
まさか、クリフトン卿から逃げる口実に使われていたとは思わなかったけど・・・。
クリフトン卿から逃げてお姉様と会うなんて、別の意味で効率の良いやり方だとさえ思ってしまう。
ただし、わたしの我儘を理由にするのは別だ。
お茶二杯で居なくなるくせに、どうしてわたしの我儘で会いに行っていたと言えるのか、問い質したい。
お姉様が何と言おうと、問い質したい。
大切なことだから二度言いました。
「そんなことを言わなくていい。私にまで気を遣わなくて構わないんだ」
「気を遣ってるわけじゃないんだけど・・・」
「充分、気を遣っている。ブライアンからの話を話半分に聞いていた私が悪いんだ」
ブライアンからの話?
何を言われていたのか、気になる。ブライアンはいい人だけど、親しいというほどでもない。
話しやすいからすぐ忘れてしまうけど、フェルナンドの弟で、社交の場で顔を合わせた時ぐらいしか接点がない。婚約者の弟だから、もっと接点があってもいいはずなんだけど、ミラー家の屋敷にもほとんど行ったことがないので、詳しい人物像を知らない。
「ブライアンから何て聞いていたの?」
「可哀想な奴だから虐めないでやってくれ、と」
「・・・」
ブライアン。あなた、わたしのことをどういうふうに見ているのよ。
「忠告を受けていたにもかかわらず、あんな態度をとってしまって、すまなかった」
クリフトン卿は誠心誠意謝ってくれたけど、ブライアンがわたしのことをどうして可哀想な奴だと思っているのか、とても気になった。
ブライとクリフトのコンビは仲が良いです。




