婚約者との共通の話題
テーブルの向こうには、わたしの話に耳を傾けてくれる婚約者のフェルナンド。何の興味もないのに、楽しそうな表情で相槌を打っている。
婚約者だと、お父様に紹介された時には仲良くできるだろうと思っていた。ダヴェンフィールド家の次期当主であるお姉様ばかり見るお父様やお母様と違って、わたしを見てくれる人。そう思っていた。
でも、それは幻想にすぎない。
婚約者との交流だから、興味のない話でも紳士的に聞いてくれているだけ。
時折、口を付けるお茶は冷めたから取り換えられた二杯目。これも冷めれば、婚約者との交流という拷問は終わり。
「あら、お茶が冷めてしまったわ。温かいものに取り換えましょうか?」
冷めてなくても、こう言えばフェルナンドは喜んでこう言う。
「いや、いいよ。この後、ダヴェンフィールド卿と打ち合わせがあるから、あまり飲むわけにはいかない」
湯気さえなければ、こう言うのだ。
お茶二杯分のお茶会。これが婚約者との交流。
ダヴェンフィールド卿と打ち合わせというのも、お父様だけでなく、お姉様も一緒の打ち合わせ。時にはお父様のいない打ち合わせ。
伯爵家同士の経営に関する打ち合わせに、次期当主でもないわたしは参加させてもらえない。
それどころか、領地の経営に関する知識すら与えてもらえない。
だって、わたしは次女。次期当主であるお姉様ではないから。
お姉様は次期当主だからお父様やフェルナンドと話ができる。わたしも話に加わりたいと言ったら、お父様に「知識がない」からと一蹴され、「嫁に行くお前には必要ない」と、勉強の機会も与えられなかった。
淑女は家の差配や社交ができればいい。各領の名産品や目利き、一定の教養さえあれば、領地の経営の知識など不要なのだ。
「そう。これ以上、お引き留めしたら、お父様をお待たせするわね。ごきげんよう、フェルナンド」
「会えて嬉しかったよ、アリス」
話の合うお姉様の元に行くフェルナンドの足取りは軽い。
そんなに話が合うなら、お姉様と婚約すればいいのに。
でも、我が家の次期当主はお姉様だから、家を継ぐフェルナンドとは結婚できない。
かといって、家を継ぐ必要のない次男三男から適当に選ぶこともできない。
お姉様の足を引っ張らず、お姉様を盛り立てていける優秀な入り婿でなければいけない。
幼いうちに血筋で選ぶのではなく、成人後まで待ってから決めようと、お姉様の縁談は凍結されている。
だから、フェルナンドの好意は無駄でしかない。
それでも、彼は嬉しいのだろう。お姉様と話せるのだから。
今日のお茶に使った香草を誰が摘もうが、誰がブレンドしようが、飲まなかったフェルナンドには関係ない。




