第二話
彼の屋敷は出会った丘をくだってすぐのところにあった。レンガ造の可愛らしい雰囲気のお屋敷だった。
室内に通された私はふかふかのソファに座って暖かい紅茶とお菓子をご馳走になっていた。
「いきなりお連れしてしまって申し訳ありませんでした。もしよろしければお名前を教えていただけませんか?」
スマートな手つきでお茶を入れてくれた紫色の髪をした人が尋ねてきた。
「森村絵里といいます。」
「モリムラ、エリさんですね。エリさんと呼ばせていただいてもいいですか?」
「はい。…お2人のお名前を教えていただいても?」
そう聞くと赤色の髪の青年が答えてくれた。
「俺はカイル。そっちのうさんくさいやつはアンリだ。俺の叔父にあたる。」
「うさんくさいヤツってなんだよ、カイル。渡り人のご令嬢だぞ?丁重におもてなしするべきだろうが。」
「あの、『渡り人』ってなんですか?」
「そうでした。なんのご説明もせずに申し訳ありません。」
紫髪の人、もといアンリさんは『渡り人』について詳しく説明してくれた。
この国では、毎年2月28日に異世界から人がやってきており、その人たちを『渡り人』と呼んでいるのだそうだ。その主な特徴は黒い髪ということらしい。また、『渡り人』は個人個人で特殊なスキルをもっているそうだ。
スキルを正確に特定するには教会に行く必要があるみたいだが、人によっては自分で自覚があるから行かなくてもいいらしい。
「私、自分のスキルがなんだかわからないです。」
「こちらに来る前に何か願い事をされなかったですか?それが影響される方が多いと伝えられています。」
願いか。もっと賢くなりたかったなあと思ったけどまさかそれなのかな。こんなことになるならもっといい願い事あったんじゃないかなあ。
しかし、話を聞けば聞くほど友達のやっていたゲームに似ている。あのゲームは確か『夢渡りのハピネス』というタイトルで、ストーリーの世界の設定もほぼ一致している。ただ、カイルとアイリという人はいなかったと思うし、何よりメインのヒーローは金髪だったはずだから、そっくりなだけでゲームみたいな世界ではないのかもしれない。
「ずいぶんと考え込んでいらっしゃる様子ですが、何か手がかりはありましたか?」
「あ、すみません。ちょっと関係ないことまで思い出しちゃってて。」
「別に無理して考えなくてもいいぞ。ここにいたっていいんだし。」
「こらカイル。それはエリさんが決めることだろ。」
「私お邪魔じゃないんですか?」
「ああ、全然かまわない。むしろ大歓迎だね。」
カイルさんの発言に対してアンリさんは悩んでいる様子だった。
「エリさん、今はまだ判断しにくいかもしれませんが、この国では『渡り人』は大変貴重な存在とされており、王宮で暮らしていらっしゃる方も数多くいます。ですので、エリさんさえ望めば、そのように取り計らうことも可能です。もちろん、私もエリさんがこの屋敷に滞在されることは大歓迎です。ただ、あなたは自由に選ぶ権利があります。」
王宮か。乙女ゲームのストーリー的に考えると厄介な場所であることは間違いない。幸いアンリさんもカイルさんもいい人っぽいし、自由にできるなら2人といる方がいいな。
「私、2人と一緒に、このお屋敷にいたいです。」
「よし、じゃあ決まりだな!改めてよろしくな、エリ。」
(カイルさん今さらっと私のことエリって呼んだな。)
エリは2人と一緒に暮らすことになりました。