第一話:イベントは突然に
おかしい、授業が始まらない。
授業が終わらなければ放課後は訪れない。放課後が訪れなければ みゆか先生は訪れない。
いや、落ち着け、時計は進んでいる。ただ放課後まで待てばいいのだ。
すでに授業開始のチャイム終了から16分と23秒が経っている。
あと34分と47秒待てばいい。ただそれだけだ。
「あん?若干計算間違ってないか?」
始まらない原因は、あのゴリマッチョな数学教師が未だに来ないからだ。
いつもなら開始と同時に席に居ない生徒へ筆箱を投げつけてくるというのに、
今日に限ってこれほど遅れてくるとは思わなかった。
最初は警戒していたクラスメイトたちも、今は各々暇つぶしツールを弄んでいる。
こんなことなら俺もずっとみゆか先生を眺めていればよかった。
「職員室前でか?さすがに目ぇつけられっぞ?」
さっきから龍騎がうるさい。
退屈な授業中の唯一の利点は、こいつが比較的大人しくなることだというのに。
特に理由もなく小馬鹿にしたような口調と、
キーキー高い声が俺の思考にノイズを入れてくる。
「声高いは言うなよ!気にするだろ!」
いや言ってないし、ずっと一言も言ってないだろ・・・・・・ん?
あれ、いや・・・あれ?
・・・・・。
・・・ファムチキください。
「だれがコンビニ店員じゃボケえ!」
!? さすがにこれは読心術とかの域を超えている!! こいつ、直接脳内を・・・!
「そのテンプレ、普通コンビニ店員側のセリフだからな?俺はコンビニ店員じゃないけど! てかやっと気づいたのか、遅えよ」
「おいどういうことだ。お前なに者だ? 話せ!」
「話してほしいです。だろ? それに本当に何者か疑わないといけないんは、下地みゆか先生の方だろ?」
・・・言っている意味がわからない。
この読心サイコ野郎は、なぜ今みゆか先生の名前を出してきた?
そりゃあ残念ながら、みゆか先生の全てを知っているわけではない。
だが、俺は少なくともこの学校で一番みゆか先生を直視し、理解している自信はある!
みゆか先生に対して疑うものなど何もない!
「ホントにそうか? じゃあ聞くけどよ、ストーカーしたりラブソング作ったり肖像画まで描いたりしているお前がなぜ、スマホで写真の一枚すらも撮ってないんだ?」
何が言いたい?
「そうしないよう下地先生に誘導されてんだよ、お前の無意識にな。記録されたら困るから。
直視限定だが、あいつは他人に都合のいい顔を貼り付けて見せる力があんだよ。
いわば、顔面テクスチャだ!」
ひとつだけわかった事がある。
こいつは今、みゆか先生を侮辱した。
そう判断した瞬間、俺の拳は龍騎の顔面へ向かっていた。
だが、既に行動がわかっていたかのように左手でいなされ、
右手でスマホの画面を俺の前に突き出した。
映ってたものを視て、俺は絶句した。
「これがお前に伝えたかったビッグニュース!」
著者: トゥルー