第三話 あの鳥が起きたかった寝床
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「大阪鳥をシメるな。
ドグラマグラ太郎が帰って来た。
約束のとおりいま帰ってきたぞ。」
ドグラマグラ太郎は大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりでした。
しかし群衆はひとりとして彼の声に気がつきません。
磔の柱が高々と立てられ縄を打たれた大阪鳥は釣り上げられてゆきます。
それを目撃した大阪猫は群衆を次々とはねました。
「衛兵!
ドグラマグラ太郎や。
ドグラマグラ太郎がきたぞ。」
大阪猫はせいいっぱいに叫びました。
ついにドグラマグラ太郎は磔台に昇りました。
釣り上げられてゆく大阪鳥の両足をちからいっぱい掴みました。
「くるしい。
ワイを殺す気か」
大阪鳥の喉はどんどんしまります。
群衆はどよめきました。
あっぱれ。
彼等をゆるせと口々にわめきました。
大阪鳥の縄はほどかれました。
「大阪鳥。」
ドグラマグラ太郎は眼に涙を浮べて云いました。
大阪鳥はドグラマグラ太郎を殴りました。
「朝起きたら磔台にいたワイの気持ちがわかるか。」
大阪鳥はドグラマグラ太郎を殴りました。
「狩人と獲物の間柄にも。」
大阪鳥はドグラマグラ太郎を殴りました。
「ルール。」
ゴッ。
「マナー。」
ゴッ。
「エチケット。」
ゴッ。
「デッド。」
ゴッ。
「死ね。」
ゴッ。
大阪鳥はドグラマグラ太郎の頭を掴み空中に持ち上げました。
「俺を殴れ。
ちからいっぱいに殴れ。
俺は途中で一度君を食うことを諦めた。
君がもし俺を殴ってくれなかったら俺は君を食う資。」
「辞世の句がくどい。」
大阪鳥はドグラマグラ太郎の顔を掴みました。
そして前歯が何本か折れるイメージで刑場の石畳に叩きつけました。
刑場一ぱいに鈍い音が鳴り響きました。
そドグラマグラ太郎の眼がまだ生きていました。
大阪鳥残念そうに優しく微笑みながら恐怖と少し距離をとりました。
「ドグラマグラ太郎。
ワイを殴るな。
ワイのくちばしの一番硬いところをデコピンで殴るな。
ワイはこの三日の間たった一度だけちらと君を信じた。
生れてはじめて君を信じた。
ワイの信じる心には確かな信実がある。
だからフレンズ。
ドントパンチミー。」
ドグラマグラ太郎はふらふらと立ち上がりました。
左手を優しく大阪鳥の肩をぽんっと置きました。
ぎゅっと掴み腰を落とし右拳にひねりをくわえた刹那。
柔らかい腹から背骨を突き破るイメージで殴りました。