第ニ話 あの猫が掴みたかった尻尾
◾︎
「やめろ。
走るのはもうやめろドグラマグラ太郎。
お前死ぬで。
王は日課のように人を殺しよる。
王はもう人を殺さずにはねむれん性質や。
大阪鳥は見るからに不味そうやろ。
あの晩御飯は諦めようや。」
「それだから走るのだ。
信じる信じられていないも問題ではないのだ。
間に合う間に合わぬも問題でないのだ。
大阪鳥の味付けも塩もタレも問題でないのだ。
俺はなんだかもっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。
モテ期が来た。
ついに合コンだ。
ついて来い!
大阪猫。」
ドグラマグラ太郎はいいました。
「ああついに気が狂ったか。
もう好きなだけ走れや。」
大阪猫がドグラマグラ太郎の前に出て走りました。
大阪猫は走りながらため息をしました。
諦めたように振り向いてドグラマグラ太郎を見ました。
見慣れたおちんちんが左右にゆれています。
へそから顎のあたりまで吐いた血で真っ赤になっています。
見慣れない血でドグラマグラ太郎のからだが真っ赤になっています。
大阪猫は走りながらため息をしました。
「ドーテーにモテ期が来たならしゃーないな。
合コン途中に合図したら作戦会議やで。」
ランニングハイでしょうか。
大阪猫はだんだんテンションがおかしくなって来ました。
ドグラマグラ太郎の眼を見ていいました。
「今日が俺の命のゴミの日や。」
捨て猫だった大阪猫は声を張りました。
「大阪猫鉄道D51。
今日で廃線や。」
捨て猫だった大阪猫は最後のため息を深く長くつきました。
「俺の尻尾を掴め。
捨てられたくなかったらしっかり掴んでついてこい。」
大阪猫は大きく大きく息を吸い込みました。
その身体はバンプアップしました。
ドグラマグラ太郎は曖昧な意識で尻尾を掴みました。
温かくて静かな世界にはいりました。
まだ陽は沈みません。
先導する大阪猫は化け猫のようです。
あとに続くドグラマグラ太郎は両手で尻尾を掴んでふらふらと走っています。
ドグラマグラ太郎の頭はからっぽです。
何一つ考えていません。
ただわけのわからぬ大阪猫の気持ちにひきずられて走りました。
陽はゆらゆら地平線に没しまさに最後の一片の残光も消えようとした時です。
彼らはブレーキの壊れた銀河鉄道の如く刑場に突入しました。