第一話 あの男が殴りたかった理由
ドグラマグラ太郎
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女学生らしき一団とすれちがった瞬間に会話を小耳にはさんだ。
「あの人やばくない?」
ああついにモテ期が来た。
そのモテ期のために私はいまこんなに走っているのだ。
急げドグラマグラ太郎。
おくれてはならぬ。
モテたい気持ちの力をいまこそ知らせてやるがよい。
外見なんかはどうでもいい。
ドグラマグラ太郎は安定の全裸体でした。
呼吸も出来ず二度三度口から血が噴き出ました。
見える。
はるか向うに小さく市の塔楼が見える。
塔楼は夕陽を受けてきらきら光っている。
「ああドグラマグラ太郎。」
うめくような声が風と共に聞えました。
「誰だ。」
ドグラマグラ太郎は走りながら尋ねました。
「大阪猫や。
お前のバナナ畑の安定の狩人。
大阪猫様やんか」
大阪猫はドグラマグラ太郎のぴったり後ろについてささやきました。
「もう駄目や。
むだや。
走るのやめろや。
もう俺らは大阪鳥食えんで。」
「いやまだ陽は沈まない。」
「ちょうど今、大阪鳥が晩御飯になる頃やで。
ドグラマグラ太郎遅すぎたなあ。
ほんの少しもうちょっとでも早かったなら大阪鳥一口くらい食えたのに!」
「いやまだ陽は沈まない。」
ドグラマグラ太郎は胸の張り裂ける思いで赤く大きい夕陽を見つめていました。
走るより他はありません。
「刑場についたら俺らのみな殺しショーのはじまりやで。」
大阪猫はいいました。
「王様はマジモンの殺人鬼やで。」
大阪猫は続けました。
「最初は王様の妹婿を。
それから自分の子供を。
それから妹を。
それから妹の子供を。
それから嫁はんを。
それから賢い大臣たちも。」
大阪猫は震えながらいいました。
「行ったら間違いなくお前死ぬで。
お前の妹絶対泣くで。
お前いつも妹泣かすやつボコボコにしとったやないか。」