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第九十七話


今回ちょっと短いです。

 森に囲まれた街道を、四つの人影が休む間もなく走り続けている。先ほどまで降っていた雨は西に進むごとに弱くなり、今ではすっかり晴れていた。

「アリアッ、少し落ち着かんか!」

 一つの人影が一番前を走る影に声を投げる。フランだ。額に汗の粒を浮かばせ、呼吸も少しだけ乱れていた。

 雨の雫が滴る木々、その間から差し込む太陽の光が先頭の影に当たって、その姿を現させていく。

「はぁっ、はぁっ」

 一番前を走っているのはアリアだった。

 苦しげな表情を浮かべながら走る少女の呼吸の乱れと額の汗は、一番後ろを走るフランと比べ物にならない。

「アリア、フランさんの言うとおりです。そのままではすぐに体力が尽きてしまいますよ」

 同じ速さと同じ距離を走っているにもかかわらず、涼しげな顔をしているセレーネがアリアに並び、フランの言葉に同調した。

「わかっ、はぁっ、てるわっ、よっ! だけっ、どっ、はぁっ」

 息も絶え絶えに反論するアリア。その時、左を並走するセレーネに顔を向けたのがまずかった。

「あっ!?」

 一箇所だけ石床が砕けていて、アリアはそこに足を引っ掛けてしまう。

 全速力で走っていたアリアの体が前のめりに倒れ、地面と激突・・・・・・となる瞬間に、少し後ろを追走していたヴァンが両足から魔力を放出。一瞬でアリアの前まで走り抜けると、倒れそうになっている肢体を抱きとめる。

 が、体が軽いヴァンではアリアの体重に全力疾走の勢いが合わさった力を止めることはできず、そのまま倒れそうになってしまう。

 二人の両足が地面から離れ、少しだけ宙に浮いたのを見て、セレーネが慌ててアリアの左腕を引っ張った。

 なんとか倒れるのを避けることが出来たヴァンとアリア。

「はぁっ、はぁっ、あ、ありが、と、ヴァン、セレー、ネ」

 ヴァンの両肩に手を置いて体を支えるアリアを、支えにされている少女が心配そうな表情で見上げる。

「大丈夫か? 少し休もう」

 休憩を提案するヴァンだが、アリアは首を横に振ると両手をヴァンの肩から離した。

「い、え、休んでる暇は、無いわ。だって、もしかしたら、私の町が、襲われてるかも、しれない、のよ!?」

「だけど・・・・・・」

 アリアが乱れた呼吸で叫び、ヴァンはそれを受けて顔を少しゆがめる。

 そう、今ヴァンたち四人はアリアが生まれ育った故郷。滅ぼされた『レガの村』から西にある、この国の一番左の町『レライアの町』へと向かっているのだ。

 これがアリアの『お願い』。

 人里を襲う魔獣の群れがこのあたりを徘徊しているのだから、近くにある自らの故郷を心配するのは当然だとヴァンたちはそれを聞き入れ、今こうして走っていた。

 しかし、それでは王都のギルドへ報告が遅れてしまう。ゆえに、ヴァンたちは人数を分けることにした。

 ラルウァとヘリオス、ウラカーンの三人が共にいないのはそのためだ。男性陣は今頃王都への街道を逆走していることだろう。

「・・・・・・ヴァン、アリアの体も心配じゃが、やはり急いだほうが良さそうじゃぞ」

 最初に落ち着けと言っていたフランが、街道の先、森の上空を見上げて呟いた。

「え?」

 ヴァンとアリアもつられてそこに目をやり、セレーネも同じく鋭い視線でその方向を見ている。

 最後に顔を向けさせた二人が瞳を見開く。

 遠すぎてうっすらとしか見えないが、森の上空へと昇っていくのそれは、明らかな黒煙。

 大雨が通り過ぎた森で山火事があるとは到底思えない。ならば、あの黒煙の下にあるのは。

「町が・・・・・・っ!」

 アリアが苦しげにうめく。

 どうやら、ゆっくりしている時間はないようだ。

「アリア、俺の背に」

 ヴァンがアリアの前に立ち、少し膝を落とす。アリアはその小さな背中を見下ろしてすぐに頷き体を預けた。

「フランさんは私が」

 セレーネもフランのすぐ隣にたって、腰を抱く。腰に手を回されたフランは、セレーネの肩を掴んだ。

「離すなよ」

「しっかり掴まってて下さいね」

 真っ白な髪の姉妹が、自身に密着する者へ目だけを動かして言う。

「えぇ・・・・・・!」

「うむ、頼むぞい」

 それぞれ返ってきた声を耳に入れたあと、姉妹は両足に込めた魔力を一気に放出させた。




 ヴァンたち女性陣が、アリアの故郷に足を急がせている時、ラルウァとヘリオス、ウラカーンの三人は王都へ続く街道を疾走していた。

 空を見れば雨雲はラルウァたちを追うように動き、滝のような雨は今もなお降り注いでいて、走る速度が速い三人は雨粒が地面につく前に自身の体へぶつけている。

 さすがに皆近接戦闘が得意なだけあって、それだけの速さで走っていても余裕の表情だ。

「・・・・・・壊された魔獣除けだが」

 並ぶ三人のうち、真ん中で駆けるラルウァが口を開く。左右のヘリオスとウラカーンは、目だけを動かして話す人物を見た。

「鋭利な何かで裂かれたようだった。数は五本。高さで言えば私より一回り大きい程度だろう」

 静かに告げるラルウァに対し、二人の瞳は鋭いものへと変わっていく。

「・・・・・・それって、まさかー」

「奴、か?」

「断定は出来ん・・・・・・と、言いたいところだが」

 ヘリオスたちの問いに返そうとするラルウァだったが、左の森から漂う気配に気づくと溜息をついた。

 疾走の勢いを無理矢理止め、街道に溜まった雨水を弾きながら急停止。ヘリオスとウラカーンも一瞬遅れて足を止める。

 三人の視線は左の森に固定されたままだ。

「・・・・・・あいつはいませんよーに」

 祈るような声で呟くウラカーン。

 同時に、雨によって雰囲気を変えた森から、大きな影がのそりと姿を現した。

「くく、奇遇だな。ニンゲンども」

 巨躯の影から声が漏れる。徐々に三人に近づく影が街道に足を踏み入れると、くすんだ太陽の光はそれを照らす。

 人の形をとった魔性の獣。人狼、ライカニクスの姿がそこにあった。

「貴様、ここで何をしている?」

 ヘリオスがライカニクスを睨みながら、両手に魔力の巨剣を造り出す。

 それにあわせるかのように、ライカニクスの背後から四肢の魔獣が二匹、森の闇から出現した。

「ほっ、あいつじゃないか」

 大げさなほどに安堵するウラカーンだが、次の声にその表情は険しく変化する。

「グググ、アルジ、アルジ、ヤツラ、クウ?」

 ライカニクスほど流麗ではないにしろ、二匹の魔獣は人の言葉を発していた。

 ラルウァとヘリオスの顔も、ウラカーン同様に剣呑なものへとなる

「くく、驚いたか? この二匹は特別でな・・・・・・頭も良い」

 確かに、体も同種の魔獣より大きく、爪や牙もそれに合わせて巨大で鋭い。

 四肢の時のライカニクスよりは遥かに小さいが、それでも人の成人男性を凌ぐものだ。

「でー? 結局あんたここでなにしてんのー?」

 まだ答えを言っていない魔獣に、ウラカーンが再度ヘリオスと同じことを問いただす。

 ライカニクスはそれに元々横に裂けてある口をさらに広がらせて嗤った。

「かかかっ、何をしているか、だと? 向こうから来たということは、貴様らも見てきたのだろう?」

 直接的な名称は出ていないが、その言葉だけでラルウァたちは分かった。

「やはり、お前が壊したのか。魔獣除けを」

 激しい音を鳴らして四肢に炎を宿らせつつ、ラルウァが怒気を含んだ声で低く問う。

 魔獣は鷹揚おうように頷き、また嗤った。

「くく、あれがあっては、我の治める地からつれてきた雑魚どもが役に立たんからな」

「・・・・・・なるほどねー。最近増えた魔獣ってのは、あんたが連れてきた連中だったわけかー」

 両手の先から鉤爪を勢い良く飛び出させたウラカーンも、怒りを隠していない表情で目の前の三匹の魔獣を睨む。

「そうだ。混ざり者」

 三人の男は、嗤い続ける人狼とうなり声を上げる二匹の魔獣に爆発寸前の憤怒を持って、刺すような視線を送る。降りしきる雨ですら、その感情を冷やすことは出来ない。

 緊張感が高まる豪雨の街道の上で、ヘリオスが抑えた声で問うた。 

「何故・・・・・・村を滅ぼした?」

 これは愚問なのだと、ヘリオス自身にも分かっている。

 しかし、聞かずには居られなかったのだ。

 あの凄惨な地獄を作り出した理由を、聞かねばならなかったのだ。

 人狼は三度目の嗤いを発しながら、傲慢な声音で答える。

「決まっている。美しき者を探すに、その他の塵など邪魔なだけだ。貴様らニンゲンもするだろう? 掃除というやつをな!」

 その言葉は、その理由は、あっさりとラルウァたちの憤激を爆発させた。

 三人の体から湧き出る力の奔流と激しい怒りが周囲の雨粒を爆ぜ、石床に響き、大気を猛らせ、森を揺るがせる。

「・・・・・・貴様は許すことが出来ん・・・・・・」

 ラルウァが低く怒りを漏らし、両足に力を込め、

「ここで滅ぼす!」

 ヘリオスが両手に握る二振りの巨剣を掲げ、

「覚悟しろ!」

 ウラカーンが両の鉤爪を持って構えを取り、

「くかかっ、それはこちらの台詞だ! 今日! ここで! 貴様らを殺す!!」

 ライカニクスが天に向かって咆哮し、二匹の魔獣も人狼に従い地に吼え、

「行くぞっ!!」

 誰かの叫びが合図となる。

 もはやこの戦いの場で、ただ悠然と立ち止まっている者など、一人として居なかった。


読んで頂きありがとうございます。

今回は文章量少ないです・・・。でも話として区切りがいいので許してください(←

さて、次回は戦闘が続きます。お楽しみにっ。

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