第九十六話
オンリー・ザ・シリアス(←おかしい
「とりあえず、村の中を調べよう。生存者がいるかもしれん」
あまりの光景に固まっていたヴァンとアリア、フランの後ろでラルウァが告げる。
ヴァンたちが振り返り、セレーネたちもラルウァを見て頷いた。
「かなり広いが・・・・・・何があるか分からないな。二人一組で手分けして探そう。ヴァンはアリアと、フランはウラカーンと。セレーネはヘリオスと回ってくれ。私は一人で良い」
「分かりました、師匠。行こう、アリア」
「え、えぇ」
ヴァンがラルウァへ即座に返すとアリアを促して村の中へ駆けていく。アリアも一瞬だけ逡巡したもののすぐに瞳に力を宿してあとをついていった。
それを合図に、それぞれ別方向へとセレーネとヘリオスが走り出し、同じく別のほうへ駆けるウラカーンにフランが並走する。
残ったラルウァは全員が村の中へ急ぐのを確認したあと、一人、村の周囲にあるはずの魔獣除けへと急行した。
木造の家屋はわずかに燃えて崩れ落ち、地面には所々血の跡がある。
それらを見回すヴァンの視界には、血溜まりの中にある黒ずんだ塊も否応無く入ってきた。
「・・・・・・うっ・・・・・・」
周囲に満ちる血の匂いと木が焼ける臭いに当てられ、アリアが右手でうめき声がもれる口を押さえる。
「・・・・・・平気か?」
ヴァンがアリアの背中を撫で顔を覗き込む。
「えぇ・・・・・・平気よ・・・・・・」
小さな声でそう返すアリアの顔色は悪く青ざめていた。
無理も無い。今まで冒険者として人の死などを目の当たりにしてきたヴァンでさえ、この光景は目を背けたくなるものなのだから。
しかし、そんなヴァンだからこそ顔をしかめる程度で済んでいる。今まで一度しか人の死を見ていない――しかも実際に直視していない――アリアには、目の前に広がる悲劇はかなり堪えるものがあるだろう。
それを肯定するかのように、アリアは一度も血溜まりやそこに転がる肉塊に視線を落としていない。
ずっと、所々燃え崩れる家屋やヴァン、または遠くのほうへと目を動かしている。
だけれど、ヴァンはそれでもいいと思った。この状況を直に見ないのは甘えではない。生きるために動物を殺した、あの時とは違う。
生存者を探すのなら、アリアの分は自分が補えば良いのだ。それでアリアが傷つかないなら、人の死を見続ける痛みも薄れる。
崩れ落ちる家屋に近寄り、木片をどかす。アリアもおずおずと戸惑いながら手伝うが、瓦礫の下から出てきたのは炭化した何かだけ。
「・・・・・・ぐっ」
不幸にも、それが燃やされて煤になった人間だと、先に気づいたのはアリアだった。
アリアはその場から足をもつれさせながら離れ、少し駆けた所で膝を突く。
「うっ」
そして、一度うめくと胃の中の物を口から逆流させた。血と木が燃える臭いに酸っぱいものが追加され、びしゃびしゃと水音が響く。
「・・・・・・アリア・・・・・・」
ヴァンがアリアの側にしゃがみ、また背中を撫でた。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・ご、ごめんなさい」
それはどれに対する謝罪だったのか。ヴァンは悲しげに眉を歪ませ、撫でる力を少し強める。
「良い。無理はするな・・・・・・それは『悪いこと』じゃないから」
「う、ん・・・・・・」
少し咳き込みながらアリアは二、三度深呼吸を繰り返して立ち上がった。同じくヴァンも足を伸ばす。
「・・・・・・誰か、生きてて欲しいわ」
「あぁ・・・・・・そうだな」
ヴァンがアリアの背に手を当てたまま歩き出し、アリアも背中の後押しを感じつつ歩く。
どれだけ時間が経っただろうか。何軒見回っただろうか。今だヴァンとアリアは生きた人に出会わない。
本当に全滅しているのか。最悪の言葉が頭に浮かぶヴァン。
そこで、アリアが声をあげた。
「あっ! ヴァンっ、見て!」
叫ぶような声には少しの期待と嬉しさが交じっている。
アリアが指差す先に目をやると、微妙に崩れた家屋の入り口・・・・・・だったと思われる場所に、一人の幼い子供がうつ伏せに倒れていた。ここからは遠すぎて女の子か男の子かも分からない。
入り口の扉が壊れ、子供は下半身が瓦礫に埋まっている状態だ。しかし、微妙な隙間が見えるので、完全に潰されてはいないのだろう。
「はやく助けなきゃ!!」
再度叫び、アリアが走る。揺れる波打つ金髪も、少しだけ小柄な背中も、アリアの焦りという感情に押されていた。
倒れる子供を遠目で見て、妙な感覚を覚えたヴァンは慌ててアリアを呼び止める。
「あっ、待て、アリア!」
しかし、その声を振り切ってアリアは走り続けた。ヴァンも声だけでは無意味だと、自身も駆け出す。
ヴァンたちより速いのではないかと思える速さで、倒れる子供にたどり着いたアリア。
そのまま転ぶように前へとしゃがみ込んで子供の腕を掴む。
「待ってて! 今助けてあげるから!」
子供の体に触れる・・・・・・そこでアリアは気づくべきだった。だが、『生きているかもしれない』人間を見つけて、ただ助けたいという衝動だけが胸のうちにあったアリアは、冷静に考えることが出来なかったのだ。
「よせっ! アリア!!」
遅れてアリアのすぐ後ろまで来たヴァンの制止も意味をなさず、アリアは子供を思い切り引っ張った。
「え?」
結果を言えば。
子供はあっさりと引っ張り出すことが出来た。あまりに軽すぎるその重さに、アリアは後方へ尻餅をついたほどだ。
そして、人形のように力なく転がる子供を見て、アリアは瞳に恐怖を宿した。
子供の形をしているのは、上半身だけ。
小さな死体は、半分なかった。
「い、いや・・・・・・嫌ぁ!! 嫌ああああああ!!」
少女の慟哭が村中に響く。悲しみの悲鳴がヴァンの体に突き刺さる。
「アリア!!!」
壊れそうになる金髪の少女を、人の死を嘆く少女を、ヴァンは後ろから引っ張り胸に顔を埋めさせた。
「いやぁ! いやぁぁぁ!!」
きつく抱きしめられても叫び暴れるアリア。ヴァンは爪を体に食い込まされても、包む両腕を緩ませない。
「アリアッ、アリアッ! 落ち着け、落ち着くんだっ!」
抱きしめる力を強めてヴァンも叫ぶ。
それが耳に届いたのか、アリアの暴れる力が弱まっていく。
「大丈夫・・・・・・大丈夫だから・・・・・・」
アリアの耳元に唇を近づけて、優しい声音で落とす。
「うっ、ううっ、うあぁ・・・・・・」
アリアはヴァンの胸に顔をうずめたまま、黒のフリルドレスを涙でぬらした。
「ヴァン! アリア!! 大丈夫かえ!?」
「アリス!!」
アリアを抱きしめたまま声のするほうに首を動かすと、フランとウラカーンが視界に入る。
別方向からはセレーネとヘリオスも走ってこちらに向かっていた。
「・・・・・・ヴァン」
そして、いつの間に近くまで来ていたのか、抱き合う二人の後ろにはラルウァが佇んでいる。
「師匠・・・・・・」
アリアの背を撫で続けながらラルウァを見上げるヴァン。目に映るラルウァの顔は、子供のほうへ向けられていた。
「一体何があ・・・・・・その、子は・・・・・・」
ヴァンたちの側まで来た四人の中、セレーネが口を開こうとするが、近くに倒れている子供の遺体を見て言葉を切る。
その悲劇の産物と、アリアの様子で何があったのかを理解した仲間たち。
「・・・・・・グラウクス、手伝ってくれ・・・・・・この子を、大地に還す・・・・・・」
「・・・・・・分かった」
ヘリオスが遺体を抱き上げて森のほうへ歩き、ウラカーンも鉤爪を両手から伸ばしながら後を追う。
「アリア・・・・・・大丈夫ですか?」
長いドレススカートを地面に広がらせてしゃがむセレーネが、ヴァンと同じようにアリアの背を撫でて小さく尋ねた。
「・・・・・・・・・・・・」
声こそ出さなかったものの、アリアはヴァンの胸の中でこくんと頷く。
「・・・・・・どう、だった?」
セレーネとフランを交互に見て、ヴァンが聞く。その言葉が指すのは、無論、他の生存者に関してだ。
淡い希望を持つヴァンだったが、二人から返された返答は、首を横に振るというものだった。
「・・・・・・村の四方に設置されていた大型の魔獣除けが破壊されていた。恐らく、それが原因で力の弱い魔獣や小型の魔獣が群れを作って村を襲ったのだろう。・・・・・・大量に、な」
それが意味することはつまり、この村が『最悪の言葉』を体現しているということ。
全滅。
生存者は、無し。
その後、ヘリオスとウラカーンが戻ってくるまで、ヴァンたちはただ悲しみに打ちひしがれていた。
「・・・・・・ヴァン、ありがとう・・・・・・もう、大丈夫だから」
そう言ってアリアが立ち上がったのは、ヘリオスたちが戻ってすぐだ。
ヴァンは離れたアリアを心配そうな顔で見上げていたが、自身も立ち上がるとラルウァたちの顔を見回した。
「・・・・・・王都に、戻ろう。この事を報告しないと・・・・・・」
話すヴァンの表情はまたも悲しみの色へとかわる。ここの状況をギルドで待つミリナに話した時のことを考えているのだろう。
「そうだな。ここを襲った魔獣どもがまだ近くにいるかもしれんし、魔獣除けを壊すほどの奴が」
その言葉にウラカーンが怪訝な表情を浮かべる。
「魔獣除けがー? それってさー、なーんかおかしくないー?」
「何がだ? 魔獣除けが無ければ、小型の魔獣を村に入れることが出来るだろう。ならば、破壊するのは当然だとお」
そこまで言い、はっと気づいたように言葉を切った。
フランたちもウラカーンの言いたいことに気づき、目を少し見開かせる。
「つまり、最初から村を攻撃するつもりで強力な魔獣が人里まで下り、力の弱い連中のために『わざわざ』魔獣除けを破壊した、ということかの?」
皆がたどり着いた考えをフランが言葉にし、ヴァンたちの表情が険しくなった。
ぽつり、と空から一滴。それは次第に仲間を増やし、滝のような雨と化す。
家屋を燃やすわずかな炎は雨によって鎮められ、煤で黒ずんでいた木片の瓦礫は水を吸収しまた黒くされていく。
地面に溜まった血は雨で薄くなり、泥の中へと沈んでいった。
「・・・・・・降ってきたな。一先ず戻るか。ここではゆっくり話せん」
促しつつ足を動かすラルウァに、ヴァンたちも首肯して歩く。しかし、その中でアリアはその場で立ち尽くしたまま微動だにしない。
「アリア・・・・・・?」
気づいたヴァンが振り返りアリアに声をかけ、他の五人も合わせて振り返った。
「ねぇ・・・・・・それって・・・・・・人を襲うつもりの魔獣たちと、その群れがこの近くにいるって、こと?」
雨に打たれるままのアリアが、不安を顔中に塗りたくって呟く。波打つ金髪は水に濡れて真っ直ぐになり、白いシャツは肌にピッタリと引っ付いている。
「・・・・・・確証は無いがな」
呟きに答えるラルウァも、雨で腰まで伸びる黒髪が大きな背にへばりつかせていた。
アリアは一度口を開くがすぐに閉じて俯く。
しかしそれは一瞬で、ここに来たときに見せた力のある瞳をヴァンたちに向け、しっかりとした声を出した。
「・・・・・・みんなに、お願いがあるの」
読んで頂きありがとうございます。
ごめん、ごめんね、アリアっ!かわいそうなことしちゃいましたよ・・・。
本当にもう、カテゴリ(?)からコメディ消しちゃおうかな・・・なんかこのお話書いててコヅツミも暗くなりました・・・。