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第九十五話

「・・・・・・何かあったのかしら?」

 王都のギルドに入り、開口一番アリアが言った。ヴァンたちも首をかしげながら室内の様子を見回す。

 倒した魔獣から証明部位を取り終えたヴァンたちは今、王都のギルドへ来ている。

 ギルド内は窓口の受付嬢、筋骨隆々の上半身裸の男たちといったギルドの仕事に従事しているだろう人々が忙しなく走り回り、時には怒声が飛び交ってもいた。

 そんな中一人の受付嬢がヴァンたちの姿を捉え、声をあげる。

「ヴァン様! アリア様!」

「あ、受付嬢さん」

 ヴァンたちの元へ小走りに向かってくるのは、以前、ギルドに登録したときお世話になったあの受付嬢だ。

「なんか騒がしいけど、何かあったの?」

 目の前まで来た黒髪の受付嬢に、早速尋ねるアリア。

 受付嬢は不安と困惑が混ざった表情で口を開く。

「実は・・・・・・あら? お仲間の方々ですか?」

 と、そこでヴァンとアリア、二人の後ろに立つ他五名へ視線を移し、ラルウァを最後に見ると目を見開いて驚きの顔になった。

「あっ!? も、もしや、あなたはラルウァ・レギストン・パテール様ではありませんか!?」

 いきなりフルネームで名前を叫ばれたラルウァは、少し面食らいながらも頷く。

「あぁ。そうだが?」

 期待通りの返答に、受付嬢は喜色満面な笑顔で飛び上がった。

「きゃーっ、すごいですすごいですっ。まさかラルウァ様にお会いできるなんて! 私、ラルウァ様の大ファンなんです! あ、握手してください!!」

 今度はヴァンたちが別の意味で面食らい、ラルウァは戸惑いながらも一応右手を差し出す。

 受付嬢はその手を瞬時に取ると、両手で握り締めてぶんぶん上下に振った。

「ありがとうございますっ」

 礼を言いつつもラルウァの右手を握り締めたまま離さない受付嬢。さすがに上下に振り回すのを継続させることはしないようだが。

 手を握り合ったままの二人に、セレーネが目を細めてラルウァを見上げた。

「・・・・・・ずいぶんとおモテになられるようですね? ラルウァは誠実な方だと思っていましたが・・・・・・」

「・・・・・・何を怒っているんだ?」

 次は違い種類の戸惑いを覚えたラルウァが、右手を握られながらセレーネを見下ろす。

 が、セレーネはふんっと鼻を鳴らして顔を背けてしまった。

 ヴァンたちの視線は受付嬢に固定されたままで、二人のやり取りは誰も気づいていない。

「ね、ねぇ、受付嬢さん? 師匠さんのファンって、どういうこと?」

 全員の疑問を解消すべく代表してアリアが聞くが、受付嬢は師匠という単語に食いつく。

「えぇ!? アリア様は、ラルウァ様のお弟子様なのですかっ?」

「あ、いえ、私じゃなくて。ヴァンの師匠さんなんだけど」

 アリアの返事を聞いて、ラルウァの手を握ったままの受付嬢がぐりんとヴァンの方を向く。

 思わず小さい悲鳴を上げて肩を震わせてしまうヴァン。

「そうなんですかっ?」

「え、あ、うん、まぁ」

「どうして教えてくれなかったのですか!?」

「えぇ!?」

 そんなことを言われても、受付嬢がラルウァのことを知っているとはこれっぽっちも思ってなかったわけなのだが。

 なかなか理不尽な責めにヴァンは絶句するしかない。

「・・・・・・あー・・・・・・その、すまんが、そろそろ手を離してくれないか?」

 ずっと握られている右手を見ながらラルウァが苦笑する。言われた受付嬢は「すみませんっ」と謝りながら慌てて手を離した。

 ラルウァとしては、謝られると申し訳ない気持ちになってくるのだが、隣で魔力の波をラルウァに『だけ』当ててくるセレーネのほうが正直怖い。

 いきなりファンと言ってきたり、いきなり怒り出したり、女性は本当によく分からないな、とラルウァは内心溜息をついた。

「・・・・・・で、騒がしい理由は一体なんなんじゃ?」

 結局脱線してしまった話を、フランが元に戻させる。

 受付嬢もそれに気づいたのか、一つ咳を落として口を開く。

「それが・・・・・・ここから西にある『レガの村』のギルドから、連絡が途絶えてしまったのです」

 その情報に、ギルドのことを少なからず知っているヴァンとラルウァの表情が鋭いものへと変わる。

「私たちギルドは、各支部から定期的に連絡、もしくは、依頼が発生、受注、達成されたときに、全ギルドへ自動的に情報更新がされるのですが・・・・・・」

 アリアとフランは思い出す。恐らく、登録したときに書いた羊皮紙のような魔道具。あれは確か登録すれば全ギルドへ登録情報が発信されるといったものだった。

 しかし、それらの情報が、一つのギルドから一切入ってこなくなっているという。

「・・・・・・ふむ、その村のギルドで何かしらトラブルがあったということか」

 呟くラルウァに、受付嬢がゆっくり首肯して俯く。

「はい・・・・・・今、『レガの村』への調査隊を編成しているのですが・・・・・・一つのギルドから情報が途絶えたために、混乱が起きてしまい・・・・・・」

 自動的に情報が更新される、といってもその瞬間にされるわけではなく時間の誤差があるのだろう。

 大きな組織だからこそ、踏まなければならない手順が多く動きが鈍くなっているようだ。

 受付嬢はすぐに顔を上げるとヴァンたちに力強い瞳を見せた。

「皆様、私、エリア・アッキソート個人の依頼をお受けしてくださいませんか?」

 受付嬢エリアが言い、ヴァンたちはすぐにその依頼の内容を悟る。

 そのままエリアは言葉を続けて、願いを述べた。

「『レガの村』へ行って、何があったのかを調べて欲しいのです。・・・・・・もし、何か問題があればそれの排除、解決も」

 一人ずつ視線を交じ合わせて、最後にヴァンと視線を合わせる。

 ヴァンはエリアの目を少し見つめた後、隣のアリア、後ろの仲間たちを視界に入れた。全員が頷くのを見ると、再度エリアのほうへ首を向ける。

「その依頼、受けた。エリアさんには世話になってるからな、安くしとくぞ」

 冗談も添えて了承の声を出すヴァンに、エリアも肩の力を抜いて安堵の溜息をつく。

「はい、よろしくお願いします」

 エリアの笑顔をあとにして、ヴァンたちは来たばかりのギルドから出て行った。




 王都の西門から街道を歩き、『レガの村』へ向かう一行。

「・・・・・・それにしても、ファン、のぅ。意外じゃなぁ」

 フランがにやにやと笑みを浮かべつつラルウァの顔を覗き込む。同じ身長ではないが、長身のフランはラルウァを見上げるとき、ヴァンやセレーネ、アリアの三人より首が痛くならない。

「・・・・・・私も驚いている」

 くつくつ笑うフランの目から逃れようと反対側へ首を向けると、

「・・・・・・・・・・・・」

 普段の丸めで柔和な瞳とは真逆の、鋭く冷たい目をしたセレーネが見上げてきている。

 好奇な視線と冷徹な視線に挟まれながらラルウァは思った。

 ・・・・・・こういう時に魔獣は出てくるべきだと、私は思う。

 しかし、そんな望みは聞き入れられるはずも無く、いたって問題なく街道を進むヴァンたち。

「ファンね・・・・・・。ヴァン、師匠さんってそんなにすごいの?」

 親馬鹿なのは分かってるけど。とは口の中だけで転がして尋ねる。

 聞かれたヴァンは目を輝かせてその問いに答えを返した。

「師匠か? それはもうすごいぞっ。師匠はギルドでの討伐依頼達成数がダントツに多くて、しかもそのほとんどがA〜Sランクの魔獣! それだけじゃなくて討伐以外での依頼も師匠にかかれば半日もいらないし、依頼達成率も百%! 王から直接依頼を受けたときだってあるんだ。どの国も師匠を欲しがって、俺と一緒に旅をしていたときも、そういう使者が一杯来てた。ギルドに登録する冒険者も師匠に憧れて入るって人が多いくらいなんだ。ギルドに登録している冒険者だって、師匠の『絶鳳(ぜつほう)』の異名を知らないやつはいないんだっ」

 興奮気味にまくし立てるヴァンに、アリアは「そ、そう」と引き攣った苦笑を浮かべて言うことしか出来なかった。

 どうもヴァンは、普段ほとんど自慢などはしないが、師匠のことに関しては言いたいことが沢山あるようだ。

 聞かれたとき、ここぞとばかりに溜め込んでいたものを一気に話す。聞いてもいないのに自慢してくる者よりは遥かにマシではあるが、しかし、こうも興奮して話されると反応に困るというのもまた事実だ。

「うん、そうなんだっ」

 だが、ヴァンはそんなアリアの「そ、そう」に嬉しそうな表情で破顔してくれる。

「ヴァン、それは周りが勝手に言ってることだ。・・・・・・アリア、私はそんな大層な人間じゃない。ヴァンの話は人から聞いたものだからな。鵜呑みにしてはいかんぞ」

 首を動かして後方のヴァンに言うラルウァ。

 ヴァンは、師匠の自慢をアリアに話しているのを聞かれていたことに気づき、少し赤面してはにかんだ。

「だって、みんな言ってましたよ。俺に」

「尾びれ背びれがついた噂だ。誇張されすぎている・・・・・・美化つきでな。全く、まるで私が過去の人間のようだ」

 どうやらラルウァにとって、ヴァンが話したそういう『武勇伝』は気に入るものではないようだ。

 憮然とした表情で言うラルウァをみて、セレーネがくすっと笑いを落とす。

「ふふっ、人の噂は七十五日といいますが、ラルウァの場合、過去の英雄っぽいかんじですからずっと続いちゃうかもしれませんね」

 楽しげな笑みを浮かべるセレーネを目だけで見やり、小さく溜息をもらうと呟く。

「・・・・・・本当に、分からないな。女心というやつは」

 先ほどまで怒ってる様子で冷たい目をしていたというのに、今はもうころころ笑っている。

「はい? 何か言いました?」

 いつもの微笑みを浮かべたセレーネがラルウァの呟きを拾う。

「いや・・・・・・なんでもない」

 ここで何か言ってはまたあの魔力の波と視線に当てられそうだ。

 あれはちょっと避けたい。

 『絶鳳』と呼ばれる男にしては、少々情けないが、何、ラルウァは気にしない。

 あれは彼らが勝手に言っているだけだ。自分がどういう人間か、本当に分かってくれる人がいれば、それでいい。




「・・・・・・ひどい・・・・・・」

 村に着いた時、最初にそう言ったのはヴァンだった。

「これは・・・・・・なんということじゃ」

「なんでこんな・・・・・・」

 続けてフランとアリアも悲痛な面持ちで村を見る。

 セレーネも悲しげな顔で目を伏せ、ヘリオスとラルウァ、ウラカーンは鋭い視線を村中へ向けていた。

 七人の視界に入るのは、凄惨な光景。惨憺さんたんたる有様。この世の地獄。


 滅ぼされた、レガの村。


 燃え上がり、崩れ落ち、肉塊が転がる悪夢の前で、ヴァンたちはしばし立ち止まってしまった。


読んで頂きありがとうございます。

最後の終わらせ方、いやらしい!なんていやらしい!

・・・はい。というわけで、二日ぶりの更新です。

い、いそがしかったですよ、ほんとですよ(←言い訳うるさい

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