第九十三話
お話は進みませんが、少し進歩した人が居ます。
「ヴァン、師匠さん、そろそろお昼にもどらない?」
ヴァンとラルウァが魔力回復を行いつつ、魔装の形象特訓をしているところに、アリアが声をかけてきた。
声のほうへ首を向けると、アリアたち魔術組に少しボロボロのヘリオス、そしてかなりズタボロなウラカーンが視界に入る。
顔を腫らしているウラカーンを見てヴァンの動きが固まり、頬をひくつかせながら口を開いた。
「ウ、ウラカーン? どうしたんだ、その顔は。もう元の顔がどんなのか分からないくらいひどいぞ」
「・・・・・・そんなにひどいー?」
「気にするな、アリス。こいつが悪い」
悪友へ心配の声をかけている妹に、ヘリオスが憮然とした表情で遮る。
「そ、そうなのか?」
「そうだ」
確認として聞き返すヴァンだが、兄は目を閉じ腕を組んで即答した。
「まぁ、大方ウラカーンが阿呆なことをしたんじゃろ。ヴァン、気にせんほうがええぞい」
「そうよ、どうせろくでもないことなんだから」
フランとアリアが呆れ顔で続き、ウラカーンはそれを聞いて肩を落とした。
「・・・・・・オレっちって信用ないのねー・・・・・・」
「むしろ、何故信用があると思ってたんですか?」
嘆くウラカーンに対して、間髪入れず何気に一番ひどい言葉を投げるセレーネ。
そんなやり取りにヴァンはつい声を出して笑ってしまう。
「ヴァンちゃん・・・・・・そんな笑わなくてもー」
少し情けない声を出しながらウラカーンが右手で顔をさする。
それを見ていたヴァンが目を見張った。
「あれ? ウラカーン、お前、爪どうしたんだ?」
ヴァンの驚きの声で、ヘリオスとウラカーン以外も同じように気づく。
「ええ、今気づいたわけー? 遅いよー」
そう言って、挙げた両手をヒラヒラと左右に振る。
ヴァンが驚いた理由、それは発した言葉通り、ウラカーンの両手から伸びていたはずの鉤爪が無くなっていたからだ。
ヴァンたちの視線は自然とヘリオスに向かう。
爪が無い今のウラカーンを正しく説明してくれそうなのは、手甲の男本人ではなく、その爪の収納術を教えたであろう人物だけだからだ。
ヘリオスは呆れた表情で、横に立つヘラヘラ顔の友人を見ながら口を開く。
「僕が前から教えるといっていた収納術を、グラウクスは習得したんだ。これで、いつでも出せるし引っ込めさせることも出来る。・・・・・・懇切丁寧に教えてやったのに、結局頭では理解してないけどな」
「そう言うなってー。ほら、オレっちって体で覚えるタイプだからー」
なるほど、呆れの顔はそのためか。とヴァンは内心思った。
どうやらウラカーンは、魔術を昔のヴァンと同じように体で理解したらしい。
今考えれば、学問に分類される魔術を、頭では無く体で覚えてしまうというのは何とも出鱈目な話だ。
もっともそうさせたのは師匠であるラルウァで、ヴァンは魔術学校に入ってからしっかりと頭でも理解したので問題は無い。
「だけど、良かったな。これでご飯食べるとき困らないじゃないか」
ヴァンが微笑みながらウラカーンに言う。
「まぁねぇ。本当に感謝してるよ、ヘリオスには。ありがとなー」
ウラカーンはヘラヘラ笑いを浮かべたまま、ヘリオスの肩に手を回す。
いきなり素直に礼を述べてくる友に、ヘリオスは気恥ずかしさを感じて鼻を鳴らすだけでそれを返した。
町に戻り、宿屋の食堂ではなく料理屋に入ったヴァンたちは、一つのテーブルを囲んで食事を取っている。
この面子が集まって静かに食事が取れるはずもなく、皆思い思いに会話を交えながら昼食を楽しむ。
料理のほうは、パンとスープに大皿の魚料理が二つほど。
「やー、やっぱり爪がないと食べやすいなー!」
嬉しそうに言うウラカーンが次々と料理を口に運んでいく。
「あんまり急いで食うと、喉につまらせてしまうぞい」
食べるウラカーンをフランが窘め、アリアは呆れ顔でウラカーンを見ていた。
「良く食べるわね、あんた。ちゃんと皆の分残しなさいよ?」
「良いさ、アリア。今までこんなに食えたことなかったんだろ。料理はまた注文しよう」
ヴァンが苦笑して言い、アリアが「甘いわねー」と溜息をつく。
そんな談笑と食事の中、口の中の物を飲み下したラルウァが全員に向けて声を発した。
「・・・・・・さて、今後の修行方針について、だが」
その一言でヴァンたちは料理を食べつつも会話をやめ、ラルウァに視線を集中させる。
「やはり、一番効果があるのは実戦だ。よって、ギルドで魔獣討伐依頼を探し、修行もかねて魔獣を退治していきたいと思うのだが・・・・・・何かあるか?」
聞くラルウァが六人を見渡す。そして、手を上げるセレーネが目に入った。
発言を促すと、セレーネが口を開く。
「何も魔獣討伐じゃなくとも、私たちの中で模擬戦をやれば問題ないのでは?」
確かに、それには一理ある。魔獣といっても、そうそう強大な力を持っている獣は居ないだろうし、何より仲間内での模擬戦なら命を落とす危険も無いだろう。
しかし、ラルウァはその『安全な実戦』を推奨する声に、首を横へ振ることで答えた。
「あぁ。確かに、模擬戦や稽古を続ければ着実に力をつけることが出来るだろう。が、時間がかかりすぎる。テリオスという敵対する者が居る以上、私たちはゆっくりしている暇はない。早急に強くなる必要がある。・・・・・・それには、生死をかけた実戦が結果として効率が良い」
「死ななければ、だけどねー。でも、オレっちは賛成だなー」
ラルウァの回答に、ウラカーンがヘラヘラとした表情で付け加える。
「おぬしは戦闘狂じゃからな。じゃが、わしも反対ではないぞい。緊張感はあればあるほど、集中できるというしのぅ」
「そうね。それに、魔獣と戦うのだってこれまで何度もあったし、ギルドにある依頼なら困ってる人も助けられるしね」
「あ、そういえば、ギルドはそういうところだったんでしたね。なら、私も賛成です」
アリアの言葉を聞き、意見を正反対に持っていくセレーネ。
「アリスはどうだ?」
それぞれが賛成を口にする中、ヘリオスがヴァンに尋ねた。
ヴァンはヘリオスに頷きを返した後、視線をラルウァへ移して口を開く。
「俺も賛成です。戦いの中で問題なく使えるようにならないといけないし・・・・・・それに、修行を続けるにしてもお金は必要ですからね」
ふんーっ、と一つ荒い鼻呼吸をするヴァン。
相変わらずお金のこととなると微妙に厳しくなるヴァンを見て、仲間たちは皆苦笑を浮かべた。
「・・・・・・多い、ですね」
昼食を終えてギルドに来た一行。
声を出したのは、掲示板に張られている依頼書を眺めているヴァンだ。その言葉はラルウァに向けられている。
「ふむ・・・・・・確かに多いな」
ラルウァがヴァンの言葉を肯定し、同じ単語を口にした。
そんなヴァンとラルウァに、二人の近くで同じく掲示板を見ていたアリアたちが首をかしげる。
「何が多いのですか?」
五人を代表してセレーネがラルウァを見上げて聞く。
ラルウァは掲示板の依頼書の群れから目を離さず、それに答える。
「討伐依頼が、だ」
「・・・・・・多いの?」
今度はアリアが、自分の頭をヴァンのそれと並ばせるよう前かがみになりながら尋ねた。
「あぁ。討伐依頼が無くなる事は無いにしても、これだけの数が依頼されるのは珍しい。その分、魔獣から被害を受けてることになるしな」
「だが、獣は人を敵視しているだろう? 依頼が多いのを気にすることもないと思うが」
「・・・・・・人の住むところには魔獣除けがある。それでも依頼が・・・・・・つまり被害が増えるということは、その魔獣除けを無視できるレベルのやつが増えているということだ」
ヘリオスの浅慮をラルウァが指摘するように話す。もちろん、ヘリオスたちが住んでいた所には魔獣除けの類がないようなので、そこまで考えが行かないのは仕方の無いことだが。
ラルウァもヴァンたちと同じようにそれを知っているので、簡単に浅はかだとは思わない。
その内意はヘリオスに十分伝わっているらしく、なるほど、と頷くだけだった。
「とにかく、これだけ困った方たちがいらっしゃるなら、出来るだけ依頼を片付けませんか?」
「そうだねー。オレっちとしては、どうせ戦るなら強いやつがいいけどー」
「・・・・・・だ、そうじゃが、どれにするんじゃ?」
セレーネとヘリオスの微妙に違う所望の言葉を右から左へとヴァンに流すフラン。
「え? うーん・・・・・・そうだな・・・・・・」
そこで声を途切らせて再度掲示板を眺める。
セレーネの要望はつまり、困ってる人を助けたい。ウラカーンは強い魔獣。
ならば、ランクが高く、なおかつ人里近くを一度でも襲撃した魔獣にすればいいだろう。
それなら魔獣から被った害によって困っている人も多いはずだろうし、ウラカーンの求めている強さもあるはずだ。
欲張って言うなら、同じような依頼がもう一つあればいい。七人で討伐にいくこともないだろうから、また以前のように人数を分けたいところだ。
しかし、この依頼が多い中でも、そうそうこちらの条件に合うものは見つからない。
「・・・・・・仕方ない、これにしようか」
妥協の声音を出しながら、ヴァンが張られてある依頼書を二枚破り取った。
「これ、どうですか。師匠」
そのままラルウァに手渡す。
渡されたラルウァが二枚の依頼書を見比べつつ、内容を吟味していく。
「ふむ・・・・・・両方ともAランク。報酬は金貨二枚と金貨一枚か。・・・・・・ん? 目撃位置が王都に近いな」
ラルウァが落とす言葉をヴァンが拾って首肯した。
「はい。それならここで受けて、王都のギルドで報告できますし」
「そうだな。報酬も場所もランクも申し分ない。これにするか」
ベテラン冒険者二人の会話に、駆け出しのアリアが口を挟む。
「ねぇ、ここで受けて別のギルドで報告とか出来るの?」
「ん? あぁ、出来るぞ。全てのギルドは魔道具を通じて繋がってるからな。依頼を受けた冒険者が手間を取らないよう、最寄のギルドでの報告でも報酬がもらえるようになってるんだ」
「・・・・・・へぇ、相変わらずギルドって便利ねぇ」
感心を通り越して疲れた溜息を漏らすアリアに、ヴァンは苦笑を向けた。
「王都に行くのかえ? それなら、ついでとはいわんが、わしが見つけた秘宝のある遺跡へも行ってみんかのぅ?」
ヴァンたちの話が終わったのを見計らい、フランが提案する。
「遺跡ねー。もうあいつに奪られてあるかもしれないけどー、あったらあったでめっけもんだねー」
それにウラカーンが続いて、ヘリオスとセレーネも首肯した。
「よし、それじゃあ、この依頼を受けて討伐後、王都へ行こう」
言いつつヴァンが皆を見渡しそれぞれ頷くのを確認すると、ラルウァから依頼書をもらう。
ヴァンは、決定した今後の予定の第一歩として、まず依頼書を窓口へ持っていくことにした。
読んで頂きありがとうございます。
ウラカーン、良かったね!
さて、少しの予定を計画した一行。今後どうなっていくのか?ヴァンはちゃんと強くなれるのか?
次回!『目覚めよ、愛☆天使!』お楽しみに!(嘘