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第九十一話


今回はアリアたち魔術組とヴァンたち師弟組です。


「じゃあ、魔族の魔術は何も無い魔力に『特性』を一つずつ追加していく形なのね?」

 一つずつ返してもらったセレーネの言葉を整理し、アリアが再度尋ねる。

 セレーネはその問いに頷きながら何度目かになる返答を声にする為、口を開いた。

「はい。私たちの魔力は無属性なので、四属性の特性をつけるのが前提ではないので」

「なるほど・・・・・・『魔力を魔力として使っている』というわけね・・・・・・」

 そう呟いたアリアは、軽く握った拳を唇に当てて何事か考え始める。

 二人の会話が終わったのを見計らい、フランがセレーネに声をかけた。

「今度はわしもいいかのぅ? ちょっと魔術の『特性』とやらがどういうものかを教えて欲しいんじゃが」

 声をかけられたセレーネはアリアから視線をフランへと移し、微笑みを浮かべたままの唇を開く。

「はい、良いですよ」

 質問攻めにされていても表情を変えず快く了承してくれるセレーネに、フランは内心感じ入っていた。

 この辺りは、なるほど、ヴァンも似ている。さすがは姉妹といったところか、ヴァンがああも他人の事ばかり考えるのは、セレーネの影響が少なからずあったのかもしれない。

 それを考えれば、記憶は失っていても心には残っていたのだろうと、フランは他人事ながら嬉しく思った。

 そんなフランの胸中を知らず、セレーネは魔術の特性について話し始める。

「特性というのは、魔術を行使する際、その魔術に付与される『個性』のようなものと思ってください。魔力はただあるだけでは何の意味もありません。『個性』という『特性』を得て、魔力は初めて魔術となります」

 そう言ってセレーネは目の前に一本、指を立ててその先に小さな光の魔弾を出現させた。

 そのまま集中を続け、ゆっくりと丸く光るだけの魔弾の形を変えていく。

「さて、フランさん、この魔弾にはどんな『特性』があると思いますか?」

 問われるフランの目に映るのは、小さく細く形を変えた魔弾。

 フランはそれをじっくり眺めた後、セレーネの発した『個性』という単語を元に思考を広げた。

 そして思い出されるのは、昨日のセレーネたちの会話と『刺突化』という単語。

「それはー昨日話しておった『刺突化』というやつかの? アリアの炎の矢の魔術と同じ形じゃが」

 返された言葉を聞いてセレーネは満足そうに頷くと、それを補足するために口を開く。

「正解です。今私はこの魔弾に『刺突化』の特性を付与させました。アリアが使うフレイムアローは、これにさらに『炎属性』を追加することにより完成する魔術です」

 見せかけですが、私にも出来ます。とセレーネが付け加えるのと同時に小さい魔矢が勢い良く燃え上がった。

 面食らうフランにセレーネは笑いを落として言葉を続ける。

「私たち魔族は魔力に属性が無いので、この炎は見せかけの炎になりますが・・・・・・『刺突化』『炎属性』という『個性』を手に入れたこの魔弾は、今初めてフレイムアローとなりました」

「で、私がいつも連発したりするのは、その炎矢にさらに『連射』の特性を追加してるからなの」

 考え事がまとまったのか、フランと一緒になってセレーネの話を聞いていたアリアが横から口を出した。

 二人から聞いた情報を頭の中で噛み砕いているとき、フランの中で一つの疑問が浮かび上がる。


「グラウクゥゥゥゥゥゥスッ!!!!」


 ヘリオスの叫び声と共に強烈な打撃音が響いたが、フランは無視して言葉を発した。

「ふむ・・・・・・『特性』とやらについては分かったわい。次が本題なんじゃが、一度に複数の魔術が使えんというのは何故じゃ? その『特性』を大量に使って出来るもんではないのかの?」

 その疑問に、顔をしかめつつ答えるアリアと、考えるような仕草をするセレーネも、ヘリオスたちのことなど全く気にしていない。

「それが出来ないのよ。特性っていうのは、一つ一つ形象イメージしなきゃいけないんだけど、普通、物事を同時にいくつも考えるなんて出来ないでしょ? それと同じで特性の形象イメージも、数が多すぎるとどれも曖昧なものになって形にならなくなるの」

 魔力の流れが分からなくなるのもあるけどね、と続けるアリア。

 答えをもらったフランだが、まだ納得の言ってない表情でセレーネを見る。

「じゃが、セレーネたち魔族は同時に二つ以上使えるんじゃろう?」

 セレーネは苦笑しつつ、分かりやすいよう噛み砕いた言葉を選んで声にした。

「そうですけど、私たち魔族も、好きなだけ『特性』をつけていくことが出来るわけじゃありませんよ。ただ、私たちの魔力が『無属性』で、自由に『組み合わせる』ことができるので、自分が使える『特性』を振り分けて複数の魔術に小分けしてるだけなんです」

 セレーネが言葉を切ると、次はアリアが続ける。

「で、私たち人が使う魔術の場合、最初から『完成』している魔術に使う『特性』を選んではめ込んでいって、その魔術の『条件特性』を満たすことで発動できるの。例えば、フレイムアローの場合『炎属性』『刺突化』を入れるのが条件。あとは技量があれば他の特性を追加していくって感じ」

 簡単に説明してもらっているとは思うのだが、それでもやはり専門的な印象を受けて、良く分からない。

 そんなフランを見かねてセレーネが例えを口にする。

「つまり・・・・・・そうですね、魔族の魔術は、何も描いてない真っ白な紙に好きな絵を書き込んでいけるのですが、人の魔術は元々ある絵に色をつけていくしか出来ないというか・・・・・・」

 しかし、良い例えが見つからない。

 セレーネがうんうんうなっていると、またもアリアがフランに声を投げる。

「とにかく、『特性』の形象イメージを創るのも、魔力の巡りに集中するのも大変だから、『特性』を一杯使っても意味が無いし、魔術が出来ないの! フランだって、右手で円描いて左手で四角、しかもそれを踊ってご飯食べながら料理しつつ、さらに五人の話を聞けって言われてもできないでしょ?」

 それを言われてフランは頭の中でその光景を想像する。

「・・・・・・確かに、無理じゃな」

 むしろ、混沌だ。

「じゃが、うむ、特性についてはよう分かったわ。ありがとうのぅ」

 例を述べるフランに、セレーネはやはり微笑みを浮かべたまま返す。

「いえ、どういたしまして。・・・・・・ところで、魔術の特性を知って、どうするのですか?」

「あ、それは私も気になったわ。フラン、魔術使えないわよね?」

 セレーネの素朴な疑問にアリアも続き、気になった理由を言葉にした。

 そう、ハーフエルフであるフランは、魔術を使うことが出来ない。

 理由は、魔術を形象イメージするなら出来るのだが、魔力をその形にしていくという細かな魔力操作が出来ないからだ。

「あぁ、実はこれなんじゃが」

 二人の質問に首肯し、フランが背にかけている弓の秘宝『リャルトーの弓』を手に取る。

「・・・・・・それがどうかしたの?」

 答えを返されても今一要領を得ないアリアに、セレーネが何か気づいたように声を上げた。

「なるほど。そういうことでしたか」

「うむ」

「・・・・・・むー」

 アリアが、二人だけで分かり合っているフランとセレーネを見て、唇を尖らせてうなる。

「ねぇ、二人だけで分かってないで、どういうことなのか教えてよね」

 ちょっとした仲間外れな気分を味わっているアリアに、セレーネが微笑みを浮かべたまま、しかし、眉を少しだけ八の形にして謝った。

「ごめんなさい。フランさんは、この秘宝も『特性』を使ってるんじゃないかって、考えてるんですよ」

「え? その秘宝が? 特性を?」

「あぁ、そうじゃ。おぬしらの話を聞いていて思ったんじゃが、この秘宝に三つの特殊な矢があることは知っておるな?」

 いきなりの問いだったが、アリアはすぐに首を縦に振ると三つの矢を言葉にしていく。

「えぇ。『バライナ』と『スコルピオス』と『オピス』でしょう?」

「そうじゃ。それぞれ、巨大な矢、貫通する矢、追いかける矢、となっておる」

 返ってきた言葉に、アリアもはっと思いつく。

「それって、『巨大化』と『刺突化』と『誘導操作』の特性じゃない?」

 頭に並ぶそれぞれの特性を言うアリアに、フランとセレーネが頷く。

「もし、この秘宝もその魔術の法則に則っており、かつ、特性を追加できるようであれば・・・・・・じゃ」

「『リャルトーの弓』の三矢を、一度に使うことも・・・・・・」

「・・・・・・出来るって、わけね」

 セレーネが告げた言葉にアリアが続くと、フランは不敵な笑みを浮かべる。

「・・・・・・なんじゃ、わしも修行が出来るではないか」

 楽しげに笑うフランに、アリアとセレーネが肩をすくめ、同じような微笑を顔に貼り付けた。

「私も負けてられないわ」

「そうですね。こうして秘宝にすら付与できる『特性』をみると、私たちにも分からない、それこそ本当の意味で『沢山』行使することが出来るかもしれません」

 笑いあう三人の女性は傍目から見れば美しい絵画のようであるが、会話の中身は物騒なもので、アリアたちの体から湧き上がる魔力は森の大気を震えさせるほどだった。




 世にも美しく恐ろしい女性三人から少し離れたところで、ヴァンとラルウァは向き合っている

 師匠と弟子が話すのは、稽古の内容について。

「私は魔力放出がどういったものかは分からないが・・・・・・お前の肉体がそれについていっていないということは、やはり、どこかに穴があるからだろう」

「はい、師匠っ」

「セレーネが話してくれたが、魔族の魔装は、その放出の力と衝撃から肉体を守るものらしいな」

「はい、師匠っ!」

「つまり、お前の『穴』は、お前が使う魔装だということになる」

「はい、師匠!!」

「・・・・・・そうなると、今から行うべき修行は、まずお前が使う魔装を、魔族としての魔装へと『昇華』させなければならない」

「はい、師匠っ!!」

「・・・・・・・・・・・・その前に、ヴァン」

「はい、なんですかっ! 師匠っ!!」

「落ち着け」

「あ、はい・・・・・・分かりました、師匠」

 声量は極端に少なくなったが、それでもヴァンはニコニコとした顔でラルウァを見上げている。

「ずいぶんと嬉しそうだな」

 ラルウァが苦笑しながら聞くと、弟子は嬉しそうに頷く。

「はいっ、だって、こうして師匠と修行するの久しぶりですから!」

 そう言って破願するヴァンを見て、ラルウァは思った。

 もう本当に男だった頃の面影が無いな、と。

 一緒に過ごしていたときもヴァンは敬語を使っていたが、今みたいに少女が使うそれではなかった気がする。

 行動まで女の子らしくなってきて、いや、それは昔から時たまあったか。

 とにかく、もう娘として見ているラルウァだったが、やはりそこは大人の男。

 女として生きていくヴァンの――娘の考えていることが少しずつ分からなくなってくるだろう。

 もしヴァンがずっと男のままで成長すれば、男同士分かり合える部分もあっただろうが・・・・・・これからはそれは望めないと思われる。

 それは少々寂しい。が。 

「・・・・・・・・・・・・まぁ、可愛いから良しとするか」

 と、またも親馬鹿的な発言を、ヴァンに聞こえないよう小さく呟く。

「師匠?」

 何を言っているのかはわからなかったが、少しの声と唇の動きを見てヴァンが小首をかしげる。

「いや、何でもない。さて、では、修行に入るとするか」

「はいっ、師匠っ」

 やはり嬉しそうに笑っているが、しかし、真剣な表情になったヴァンは、ラルウァに言われたとおり落ち着いた声で返した。

 軽い気持ちで言った言葉を律儀に守っている弟子に、師匠は苦笑しつつも再度可愛いと思ってしまうのであった。


読んで頂きありがとうございます。

修行といいつつ、今回までは開始時点の会話まで。

次回から本格的に修行が始まる・・・かもしれません、多分。

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