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第八十八話


少しだけ動きがあるやも?


 人が魔獣と呼ぶ人に害成す生物たちは、社会を持たない。

 魔葉の王、ギガンリーフ・バシレウスはそれを十分理解していた。

 王と呼ばれ、人が住む場所を囲む森のヌシであるギガンリーフ・バシレウスだが、他の魔獣たちを統治することは無く、森に入る人を襲わせるよう命を出すことも無い。

 魔獣という言葉は、人の恐れの象徴だ。

 それも、ギガンリーフは分かっている。しかし、それならば、魔獣にとって他の魔獣というのは、人と同じように『魔獣』という意味になるだろう。

 魔獣も生きている。生きていれば腹は減るし、住処として縄張りをつくる時もある。その縄張りを巡って殺しあう事だって多い。

 それ以外でも、魔獣が魔獣を食べることも珍しくない。ただ、人が弱く脆いから、人が魔獣を襲うから、魔獣は人を襲い、食すのだ。

 とにかく、ギガンリーフにとって自分と同じ種族以外の獣たちは敵だと言える。

 その認識はこの村に住むようになってからも変わらない。ただ違うことといえば、この村に住む人々が『敵』ではなくなったことくらいだ。

 そして、魔葉の王である彼は森の木々たちと意思疎通が図れる。

 その森たちがギガンリーフに伝えていた。


 『敵が森に入り込んだ』と。


 しかし、ギガンリーフは行動を起こさない。自らの種族たちを率い、他の魔獣の種族と争おうなどとは考えていないからだ。

 事実この森の中には、ギガンリーフとは違う・・・・・・そう、あのそりの合わない魔獣の王に似た獣たちも住んでいる。

 森が伝えてくれるのは、つまり、他の種族が森に入り込んできたということ。

 全くもって問題は無い。すでに多くの魔獣がいるこの森の中で、後から入った新入りが飢えや寒さをしのげるならば、勝手に住めば良い。

 それによって他の魔獣が死のうが、自らの種族が食われようが、ギガンリーフにとってどうでもいいことなのだ。

 所詮この世は弱肉強食。強い者が生き、弱いものが死ぬ。自然の摂理だ。

 しかし。


「リーちゃん? どうしたんですか、急に黙って」

 静かになったギガンリーフにミリナが声をかける。今、ギガンリーフは村長宅での夕食に御呼ばれしている最中で、先ほどまでとめどなく喋っていたのだ。

「オー、ミリナさんのいれてくレータお水が、とってもおいしーくて、つい感動してしまったのデース」

 目の前のテーブルの上に置かれた水の入った皿に、両腕から伸びる蔓を浸してリーちゃんが言う。

「ふふ、ただのお水ですのに」

 リーちゃんからの返事に、ミリナはおかしそうに笑った。

 赤い相貌を細めて、ギガンリーフは思う。


 しかし、この愛すべき人たちはその摂理に乗ってほしくない。

 否、自分が乗せない。森に他の獣が入り込んだ? かまわない。

 いくらでも獣同士で争い、食い合い、死に行くといい。

 しかし、ここを襲うようなら容赦はしない。その時は、このギガンリーフが、この魔葉の王が、一匹残らず滅してくれる。

 それがあの人と交わした約束で、何より、この幸せにたどり着くのを手伝ってくれた彼女らへの恩返しにもなるはずだ。

 人と接してきた魔獣は、何となく、そう思った。




 リーちゃんに誓いを立てさせた彼女たちはというと。

「フラン、そこのソースちょうだい」

「ん? ・・・・・・ほれ」

「ありがと」

「アリス、これ、美味いぞ」

「・・・・・・ありがとう。だけど、俺はこんなに食べられんぞ・・・・・・」

「ふっ、相変わらず小食だな、ヴァン」

「そう言うならさり気なくアリスの皿に料理を運ばないでください、ラルウァ」

「・・・・・・むーん・・・・・・はやく爪しまえるようにならないとなぁ」

 宿屋の食堂で大きめのテーブルを囲み、早めの夕食を食べている最中であった。といっても外の景色はすでに茜色で彩られているが。

 今回、食堂で注文した料理は中々の数で、以前のようにスープとパンだけではない。工房長宅での夕食には及ばないが、それでもかなりの種類がある。

 普段なら節制を心がけるヴァンなのだが、前にアリアがパンとスープだけのことに不満を漏らしていたのを思い出し、骨折を直してもらったお礼もかねて珍しく料理を多く頼んだのだ。

 他の皆も、ヴァンの快気祝いと『香水無力化』のお祝いといい、嬉々として料理を注文した。

 祝いといっても酒の類は注文しておらず、果汁の飲み物を飲んでいる。

 これは、食事の後、夜の鍛錬をするつもりの男三人の言葉があったからだが、一番の理由はヴァンが誤って飲むかもしれない、否、絶対に間違えるから駄目だとアリアが断固拒否したことによるものだ。

 何はともあれ、ヴァンたちは楽しく夕食をとっている最中だった。


 そこで、ヴァンの目の前にある料理から何か色が沸き上がった。

「ん?」

 首をかしげて料理を見る。鳥の肉を炒めて汁だくにした肉料理で、美味しそうだ。実際、少ししか食べてないが、美味しかった。

「じっと見てるだけじゃなくて、食べたら?」

 料理を真剣な顔で凝視しているヴァンに、アリアが笑いながら声をかける。

「あ、あぁ。いや、なんか変なのが視えて・・・・・・」

 集中すると、目の前の鳥料理だけじゃなく、全ての料理に色が視えた。色はそれぞれ違っていて、煙のように沸き上がっては空気中の白や黒の色にとけていく。

「・・・・・・マナだ」

 ぽつりと呟いたヴァンへ、全員の視線が集まった。

「料理からマナが出てる」

 今度はしっかりとした声量で言うヴァンに、アリアたちが首をかしげる。

「料理から、ですか?」

「あぁ。・・・・・・あ」

 頷いてセレーネに視線を向けたヴァンの動きが止まった。不思議そうな表情をするセレーネに何も言わず、ヴァンは順にヘリオス、ウラカーン、ラルウァ、フランへと目を動かしていく。

「アリス?」

「皆の魔力が視える・・・・・・」

「魔力? それなら今までも視えてたんじゃないのか?」

 呆然と言う妹に、ヘリオスも不思議そうな顔をして尋ねる。

「いや、そうじゃなくて・・・・・・色が視えるんだ」

 その言葉で全員が少し目を見開いた。

 以前、魔術を使うものは魔力を視る事ができると言ったが、それは色や形といった具体的なものではなく、感覚的に、魔力がそこにあると感じ、概念的に、そこで流れているのだと分かる程度のものだ。

 その魔力を、ヴァンは色が視えると言っている。見えないものが見える、と言っているのだ。

「へぇー、それってどんな感じなのー?」

 あまり深く物事を考えないウラカーンがヴァンに聞く。

 ヴァンは少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。

「何と言うか・・・・・・空気中のマナは、白だったり黒だったり、虹色だったりするが・・・・・・人は違うみたいだな。ウラカーンは、なんか黄色に近いけど、少し黒い部分がある」

 自身の魔力の色を言われて、ウラカーンは目を鋭くさせて黙る。

「あと、セレーネとヘリオスは透明に見えるが、形がはっきりしてる。ヘリオスは尖ってる感じがして、セレーネは丸っぽい。フランは真っ赤だな。熱そう」

 ヴァンが魔力を見ながら感想を述べていく。姉兄は感心の息を吐き、フランはちょっと顔をしかめている。熱そうというのがお気に召さないようだ。

 次にヴァンはラルウァをじっと見つめて、言葉を選ぶように落としていく。

「師匠は・・・・・・赤と青ではっきり分かれてます。形は炎みたいな・・・・・・」

 自身の静と動の部分を言い当てられた気分になり、ラルウァは腕を組んで何事か考えるように俯いた。

「ねぇ、ヴァン、私は?」

 隣に座るアリアが、ヴァンのフリルドレスの長袖をくいくいと引っ張りつつ問う。

「アリアは」

 そこで初めてアリアのほうを見たヴァンが目を見張って固まった。

「・・・・・・」

「え、なに? 私のってなんか変?」

 固まったヴァンを前に、アリアは何故か自分の腕をくんくんとにおう。

「あ、い、いや、そんなことはない。アリアのは・・・・・・四色が漂ってて、重なってるところも別の色になって、全部混ざってる部分が真っ白だ」

「ええ? なにそれ。なんか落ち着きが無い感じするんだけど」

 アリアは返ってきた答えに不満げな声を落とすが、ヴァンはそう思わない。

 改めてアリアの魔力を凝視して、息を漏らす。


 綺麗だ。


 まるで沢山の花が咲き乱れるようでいて、重なりあう花は新たな花を生んでいる。全てが集まる場所では純白が輝き、全ての色がアリアを守っているようにも見えた。

「やっぱり人によって違うんじゃのぅ。まぁ当然といえば当然かの」

 料理を口に運びながらフランが言う。言葉に反応してフランのほうを向いたとき、ヴァンはつい声をあげてしまった。

「あっ!」

「んぐ・・・・・・!? んー! んー!」

 突然の大声に、フランは食べた料理を喉に詰まらせてしまう。起伏があまり無い胸をどんどんと拳で叩いた。

「はい、どうぞ」

 セレーネが慌てず騒がず、水の入ったコップをフランに手渡す。それを引っ手繰るように受け取り、コップの水を喉に流し込んだ。

「んく、んく・・・・・・ぷはぁー。いきなりでかい声を出すでない! 死ぬかと思うたわ!」

「す、すまん」

「ふぅ・・・・・・して、なんじゃ?」

「いや・・・・・・今、フランが食べた料理のマナが、フランの魔力に溶け込んだから・・・・・・」

「なんじゃと?」

 ヴァンの言葉に、フランが眉をひそめる。

「・・・・・・あっ!」

「まさかっ」

 今度はアリアとセレーネが声をあげて、ヴァンに声を投げた。

「アリス、魔力の多さははっきりと分かりますか?」

「え? あ、あぁ、多分、色の濃さと形の大きさがそれだと思うんだが・・・・・・」

「セレーネのは最大に見える?」

 アリアに言われて、ヴァンはセレーネの魔力をじっと見つめ、首を横に振る。

「いや・・・・・・多分、四分の一くらいじゃないか?」

 ヴァンの返答にセレーネは微笑みながら頷き、料理をスプーンですくった。

「正解です。それじゃあ、私が今からこれを食べますので、変化を教えてください」

 そのまま料理を口に入れて咀嚼したあと、飲み込む。

 ヴァンの目には、料理から立ち上っていたマナがセレーネの口の中で溶けていき、セレーネの魔力を微量増加させるのが映った。

 それをアリアとセレーネに伝えると、ラルウァ、ヘリオスも間に入って二人と一緒に頷く。

「食事でも魔力回復をしていたのか」

「確かに、何も食べてなければ回復も遅いですし」

「体力と同じか。体も物を食わなければ何も出来ん。しかし・・・・・・」

「・・・・・・これだけはっきりと、しかも具体的に魔力を視ることができるなんて。でも、だからこそ、秘宝が吸収できるかもしれないわね」

 恐らく。とアリアの推測に三人は再度頷いた。話が良く分かっていない残りの三人は、もぐもぐと料理を食べつつアリアたちを眺めている。

「つまり、あれじゃな? 食べれば食べるほど魔力が回復していくということじゃな?」

「簡単に言うとそういうことね。でも、そうそうお腹一杯食べるなんて出来ないし・・・・・・」

「だが、私たちは奴らとの戦いでかなりの魔力を消費している。無理にでも食べるか・・・・・・もしくは、マナを大量に吸収するすべを得るかせねばな。特にセレーネとヘリオス、それにヴァンは最近底をついたことがあるのだろう?」

 ラルウァがヴァンたちの顔を見て聞き、その記憶がある三人は頷いた。

 魔力が底をついたとき。セレーネとヘリオスはヴァンたちと出会う前、テリオスとの戦いのあとで。ヴァンはもっと前のフランと出会った時だ。

 その時、三人とも魔力が底をついて気絶している。

「一度底をついてしまったら、マナの吸収率が下がり魔力回復が遅くなる。・・・・・・まぁ、ヴァンは秘宝を吸収したことで最大量が増えたみたいだが、増えた分の魔力はまだ埋まってないだろう?」

 これはラルウァの言うとおりで、一度魔力を使い切ってしまうと、自然に吸収するはずのマナの量が勝手に抑えられてしまうのだ。

 理由は諸説あるらしいのだが、一般的には体が体内に魔力をとどめておこうと、魔力を放出する『気門』を狭めてしまうのが原因と考えられている。

 つまり、『気門』が狭くなればマナの出入りが不自由になり、結果、吸収するマナが少なく、魔力回復が遅くなるのだ。

 さらに、『気門』が狭まることによる影響は、魔力回復だけじゃなく、魔力を使用する魔術にまで広がる。

 放出できる魔力が少ないのだから、その分魔術の威力は弱まるし、一度に消費する魔力が多い魔術は行使することさえ出来なくなる。

 ゆえに、今のヘリオスとセレーネは、大量に魔力を消費する『超鎧魔術』が使えない。

「修行をするにしても、奴らを迎え撃つにしても、魔力を全快にしておくにこしたことはない。腹が減っては戦は出来ぬ。まずは魔力くうふくを満たすことから始めよう」

 全員に投げかけられるラルウァの言葉に、ヴァンたちは真剣な表情で頷いた。


読んで頂きありがとうございます。

今回は魔力のことを少し明らかにしました。

でも正直、魔術関係の設定を出していくのがかなり遅い感が否めません。ていうか、遅いですね。

さて、それはさておき(さておくな

これから少しずつ修行というか、パワーアップ計画が進行していきそうです。両者ともに力をつける期間のようですね!

今後どうなるのかコヅツミにも分かりません(←え

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