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第八十七話


コヅツミは大変な間違いを犯しておりました。詳しくはあとがきにて。

 外殻のどこかにある遺跡、異形のテリオスはそこにいた。

「・・・・・・・・・・・・」

 辛うじて人の形をしていると分かる肉体を大きな椅子に預け、目を閉じ規則正しい呼吸を続けている。

「・・・・・・主殿」

 不意にかけられる声に、テリオスは目を開けた。視界に入るのは、膝を突く人狼。

「ライニクスか。何だ?」

 見下ろす異形と跪く獣人という光景は、確かな主従関係を表している。

「美しき者からの匂いが消えました」

 短く、飾りをつけずに告げるライカニクスに、テリオスは深く溜息を落とした。

「分かっている。どうやらアリスも何がしかの秘宝を取り込めたようだな」

「・・・・・・いかがいたしますか?」

「・・・・・・私はまだ完全ではない・・・・・・お前に任せる。居場所を把握するのも、こちらに連れて来るのも好きにしろ。ただし、連れて来るのならば他の者たちは殺せ」

 赤い瞳を燃やして言葉を返す主に、人狼は一度深く頭を垂れると立ち上がる。

「あぁ、待て。その前に娘たちを呼べ」

 短剣が突き出る右手を上げ、テリオスが出て行こうとするライカニクスを呼び止めた。

「そろそろあの子らにも新たな力をあげないとな。・・・・・・ライカニクス、お前にもやろう」

「わたくしめにもですか? ありがたき幸せにございます」

 人狼は主に恭しく一礼すると、今度こそ部屋を出て行く。

 その背中を眺めながらテリオスは唇をゆがめた。




 ヴァンたちが泊まっている宿屋の裏庭で風を切る音と、気合の入った声が響く。

「ふっ! はっ!」

 そこには、一つの舞いのように拳や蹴りを突き出し自らの鍛錬を行っているラルウァの姿があった。

 裏庭はベッドのシーツやタオルを干す場所になっているらしいのだが、今は何も干されていないのでかなりの広さを自由に使えている。

「せいっ!!」

 右足を地面に叩きつけ、体を半身にして右拳を思い切り前に突き出す。風を切る音が大きく響き、右足をたたきつけた地が少しえぐれた。

 流すように右手と左手を腹の前に持っていき、手のひらを下に向けると呼吸を整える。

「ふっ、ふっ、ふーっ」

 三度息を吐いて体から力を抜く。

「・・・・・・ふぅ、私もまだまだ未熟だな。弟子の危機に我を忘れるとは」

 そう言って自嘲の笑みを浮かべるラルウァ。思い出されるのは、人狼と相対していたときのこと。

 ヴァンの側にあの恐ろしい気配があると気づいたとき、ラルウァは完全に我を忘れていた。

 戦いにおいて冷静さを欠くというのは死に直結しかねないというのに。

 怒りに任せて戦う者もいるし、そちらの道でも武を極めたものはいるだろう。が、ラルウァとしては弟子が憧れてくれる自分でありたい。

 それはつまり、冷静に戦い、冷静に対処し、冷静に倒すという、静の者。

「・・・・・・ふっ、親馬鹿もここまで来るとただの阿呆か」

 今度は苦笑し、昔の、動の者であった自分を思い出しながら左肩に視線を向ける。

 人狼に裂かれた傷は綺麗に消えていた。ヴァンの足を治癒したアリアが、あの後、全員の傷を癒してくれたのだ。

「良い娘だ、本当に。・・・・・・しかし、うぅむ・・・・・・孫をこの手に抱くのは諦めねばならんか・・・・・・非常に残念だな」

 そこで、ヴァンのことになると独り言が多くなっている自分に気づき、二度目の苦笑を浮かべながら、宿屋の裏口へ向かった。



 部屋に戻って汗でも流すかと廊下を歩いていると、通りかかった弟子の部屋から何やら声が聞こえる。

「いたっ、あ、アリア、痛いっ、もっとゆっくり、うぁっ」

「あっ、ごめんなさい・・・・・・私も初めてで・・・・・・。ゆっくりがいいのね?」

「う、ん・・・・・・あ、今のいい、かも。あったかい・・・・・・」

「そう・・・・・・これはどう? 痛くない?」

「ん、変な感じ・・・・・・中で動いてる・・・・・・」

「ちょっと慣れてきたわ。もっと強くして良いかしら?」

「・・・・・・うん・・・・・・激しくはするなよ・・・・・・」


 部屋からもれてくる声に、ラルウァは一瞬頭の中に色々な映像が流れた。

 言いようの無い恐怖・・・・・・否、不安だろうか。怒りにも似ているが胸を焦がすような訳の分からない強迫観念に駆られたラルウァは、とりあえず目の前の扉を思い切り開き叫ぶことを選ぶ。

「そこまでは許していないぞ!!」

「え?」

「あ、師匠」

 開け放った扉の向こう側、部屋の中には、ベッドの端に座って右足の添え木と包帯を取ったヴァンと、ヴァンの右足をしゃがみながらさすっているアリア。

 そして、周りを囲みながらその様子を見守っているハーフペアと魔族姉弟がいた。

「どうしたんですか、ラルウァ。何かありましたか?」

 目を丸くしているラルウァにセレーネが不思議そうに尋ねる。他の面々もきょとんとした表情でラルウァを見ていた。

「・・・・・・あー・・・・・・いや、その、なんだ。何をしているんだ?」

 ばつが悪そうに頬をかきながら聞き返すラルウァに、フランが答える。

「うむ。アリアがそこの本で、骨折に効く治癒術を見つけたらしくてのぅ。今それをやってもらっとるところじゃ」

 そう言ってテーブルを指差すフラン。その先には確かに、分厚い本が置かれていた。

「そう、か・・・・・・」

「それでー、何を許してないわけー?」

 今度はウラカーンが首をかしげて聞く。ラルウァは一つ咳払いをし、目を泳がせて口を開いた。

「あぁ、いや、なんでもない。気にするな。ちょっとした勘違いだった。アリア、ありがとう。ヴァンのことを頼んだぞ。私は部屋に戻っているから」

 一つ一つ区切って喋り、くるりと振り返ってラルウァは部屋から出る。

 閉められる扉を見て、中の六人は首を傾げるばかり。

「・・・・・・私は本当に阿呆になったのか・・・・・・?」

 ラルウァは、向こう側との壁になった扉に背を預け、額を手で押さえて呟いた。



「これで・・・・・・良し、と。どうかしら、痛くない?」

 ラルウァが出て行ってしばらく、治癒行為を終えたアリアがヴァンの右足から手を離す。

 治療するために触れていた箇所の温かみが消えて、自らの右足が少々寒く感じる。

「ん、痛くは無い。ちょっと立ってみるか」

 しかし、そのちょっとした寂しさを悟られぬようにヴァンは言う。

 ベッドに両手を突いてゆっくり両足で立ち上がる。

「おー」

 しっかり立てたことに思わず声をあげて、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。

「おおーっ、全然痛くない。ありがとう、アリア!」

 嬉しそうに破顔し、アリアを見上げるヴァン。

「どういたしまして。上手くいってよかったわ」

 そう返してアリアも微笑む。と、そこでヴァンがぴたっと動きを止めて真顔でアリアの顔をまじまじと見つめた。

「・・・・・・」

「ヴァ、ヴァン? なに? 私の顔に何かついてる?」

「あ、いや、なんでもない・・・・・・」

 言われて初めて顔を見つめていたことに気づいたのか、ヴァンは我に返ったように俯く。

 なんでもない、とは言ったが、実のところヴァンは少し不満があった。

「(・・・・・・なんでアリアは普通なんだろう。俺と・・・・・・したのに。さっきも俺はあんなに慌てたのに、アリアは涼しい顔で『骨折に応用できる魔術があるからー』とかいって、あっさり触ってきて・・・・・・そりゃ確かに触れてもらえるのは嬉しいが、でも、だけど、もうちょっと、恥ずかしがるとか・・・・・・)」

 ぶつぶつと口の中で不満を転がすヴァン。

 そんなヴァンを見下ろしていたアリアが、何を勘違いしたのか悲しげな表情で腰を屈めてヴァンの顔を覗き込んだ。

「ヴァン? 何ブツブツ言ってるの? 私、何か失敗した?」

 至近距離に顔を近づけられたヴァンが目を見張る。

 そしてその視線が行き着く先は、アリアの柔らかそうな桃色の唇。

「・・・・・・っ!!」

 重ねたときのことを思い出し、ヴァンの顔が、いや、全身が一瞬で真っ赤になった。

 赤くなったヴァンに反応したのか、アリアもつられて赤くなり慌てて顔を離す。

 お互い向き合った状態で俯き、自らの指を絡ませたり髪を直す振りをしたりと挙動不審になる。

「・・・・・・」

 二人の世界を構築したヴァンとアリアを見て、ウラカーンがフランを手招きし、ヘリオスは姉の手をとって引っ張り、ヴァンたちから少し離れた場所で顔を近づけあい、ひそひそと話し始めた。

「・・・・・・あれ、なにー? 二人ともどうしちゃったわけー?」

「・・・・・・なんか様子が変なんだが、姉さん、何か知らないか?」

「いえ、私はアリアからアリスを怒らせたかもっていう相談・・・・・・ってわけじゃないですけど、話を聞きましたけど」

「んん? なんじゃ、セレーネ、聞いておらんのか?」

「何をです?」

「・・・・・・あぁ、いや、これはー、話していいものかどうか・・・・・・」

「そこまで言ったら最後まで言っちゃおうぜー、フーちん〜」

「・・・・・・ぜひ聞きたいな。隠し事をされると心配になる」

「・・・・・・仕方がないのぅ。驚くでないぞい。実はな・・・・・・かくかくしかじか」

「・・・・・・それ、マジー?」

「大マジじゃ」

「・・・・・・そうだったんですか・・・・・・ううーん、姉として複雑ですが・・・・・・でも、うーん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「なんじゃヘリオス。真っ赤になりおって。意外と初心じゃな、おぬし」

「う、うるさいぞっ。そんなことは今関係ないだろう!」

「・・・・・・みんな? 何してるんだ?」

 少し離れたところで固まっているフランたちに、ヴァンの声が投げられる。

 四人は慌てて即席秘密会議的陣形フォーメーションを解くと、ヴァンとアリアの方を向いて愛想笑いを浮かべた。

「いやいや、なんでもないぞい。ヴァンの足が治って良かったという話をしておったんじゃ」

「そうそうー、いやー良かったねヴァンちゃんー」

「もう完全に治ってるみたいじゃないか。これで安心だよ。なぁ、姉さん」

「そうですね、ヘリオス。アリア、ありがとうございました」

「・・・・・・」

「なんか心配かけてたみたいだな。アリアのおかげでもう大丈夫だ」

 白々しさ全開のフランたちにアリアはジト目を送るが、良く言って純粋、悪く言えば単純なヴァンは嬉しそうな顔をしたまま返事を返す。

 微妙な空気の流れる中、部屋の扉が開かれる。

「ん? ヴァン、足はもう良いのか?」

 扉を開けて入ってきたラルウァが、松葉杖無しで立つ弟子を見て声をかけた。

「はい、アリアのおかげでもう全然平気です。ほら」

 大丈夫だというところを見せたいのか、ヴァンがその場でぴょんぴょんと跳ねる。

 はしゃぐ弟子に近寄り、苦笑しながら頭に手を乗せた。

「こらこら、一応安静にしておけ。・・・・・・アリア、君のおかげみたいだな。ありがとう」

「え、あ、いえ、私もヴァンが怪我をしているのは嫌だったから」

 両手を胸の前で振りながら、ぎこちない笑みをラルウァに返すアリア。

 その様子にラルウァは少し苦笑を深める。

 この金髪の少女は、弟子の幼少時の話などをするときは砕けた感じで話しかけてくれるのだが、それ以外の会話ではどこか固くなってしまう。

 ヴァンから話を聞く限り、この少女は男嫌いらしい。

 それから察するに、恐らく、失礼な口調にならないよう気を張ってるのだと思う。何せ自分は『ヴァンの』父で師匠なのだから。

 しかし、それは『将を射んとするならばまず馬から』といった打算的なものではなく、純粋にヴァンへの想いがあるからこそ、そうなってしまうのだろう。

 多くの人に触れてきたラルウァにはそれが分かっていた。

 となると、やはり・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・孫が出来んのは、本当に残念だな」

 心底残念そうに溜息をつくラルウァ。

 ヴァンとアリアは、言っている意味がさっぱり分からず、「孫?」と首を傾げた。


読んで頂きありがとうございます。

早速ですが、前書きに言った間違いについて・・・。

魔獣の王であり人狼となったラウカニクス君ですが、本当の名前は、

『ライカニクス・バシレウス』つまり『ライカニクス』であることが、この度判明いたしました。あちゃー。

ちょっと自分のを読み返していて気づいたのですが・・・。これにより、今までの話に書かれていた『ラウカニクス』という名称を『ライカニクス』に修正いたしました。てへ(←おい


そして、二つ目の間違い。えー、第七十八話が二つあり、直ってませんでした。

こちらのほうも、一話ずつサブタイトルを変更し、正しいサブタイトルにいたしました。あは(←バカ


・・・とまぁ、間違いが多いコヅツミではありますが、これからもお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。

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