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第八十四話


今回はちょっとした修行話です。

「おおおっ!!」

「はああっ!!」

 気合の怒声が森に響き、ウラカーンの鉤爪とヘリオスの一振りの巨剣が交差し、甲高い音を鳴らす。そのまま止まらず、二人はさらに得物を振り回した。

 体全体を使って両爪で空気を裂くウラカーンに、ヘリオスは大剣を細かに動かしてそれらを弾いていく。

「・・・・・・燃えておるのぅ」

「ふふ、そうですね。ヘリオスもウラカーンも、やっぱり男の方ですから」

 少し離れたところでセレーネとフランが、剣戟の舞いを繰り広げる男二人を眺めている。

「・・・・・・」

 その隣でヴァンがうずうずと体を揺らして、二人の戦いを羨ましそうに見ていた。

「ヴァン、右足折れてるんだから、駄目よ?」

 ヴァンの様子に気づいたアリアがたしなめる様に言い、ヴァンの前に両手を腰に当てて立つと視界を阻んだ。

「わ、分かってる・・・・・・」

 口ではそういいつつもちょっと唇を尖らせるヴァン。不満げな妹を見てセレーネが苦笑した。

「まぁまぁ。怪我している状態でも出来る修行はあるんですから。アリスはそれをゆっくり考えましょう?」

 子供に言い聞かせるような口調のセレーネに、ヴァンはますます頬を膨らませるが、すぐに諦めの溜息をもらすとゆっくり頷く。


 そもそも、何故ヘリオスとウラカーンが戦い、セレーネの口から修行の二文字が出てきたのか。

 それはヴァンが秘宝を吸収し終わったそのあと、ウラカーンの言葉から始まった。



「ねー、ちょっと良いかなー?」

 町に戻ろうとしたヴァンたちから少し後ろで、ウラカーンが声をあげる。

 何事かと振り返る面々を見て、鉤爪手甲は言葉を続けた。

「あのさー、香水は無力化できたんだよねー? それってつまり、いつ襲われてもいいように身構えてなくてもいいってことだよねー?」

 両手の鉤爪を微妙に動かしながら聞くウラカーンに、セレーネが頷き返す。

「そうなりますね。問答無用で居場所を伝える『フォカーテの香水』が効かなければ、魔術で相手側の探索を妨害することも出来ますし」

「それがどうかしたのか?」

 聞き返すヘリオスに、ウラカーンはヘラヘラとした笑みを消して間延びしていない口調で言葉を落とした。

「ヴァンが常に狙われる危険が去ったなら、その時間を使って、強くならないか? ヘリオス。オレの相手をしてくれ」

 真剣な声ウラカーンの声に、ヘリオスの瞳が鋭いものへと変わる。ヴァンやアリアが目を見開いているが、ラルウァとフラン、セレーネは何かを考えるようにそれぞれ押し黙った。

「・・・・・・さっき戦った、オートマータ。あのまま戦ってたら、オレは負けてたかもしれない。あの化け物にいたっては、正直、勝てる気がしない」

 実際一撃で気を失っちゃったしな。と続けるウラカーンに、誰も言葉を投げない。

「・・・・・・オレはもっと強くなりたい。ヘリオス、オレと戦ってくれ!」

「・・・・・・あぁ、もちろんだ。グラウクス。だが、僕も強くなりたいと思っててね。手加減はしないから、覚悟しろ?」

 一瞬の迷いも無く、ヘリオスは友にそう返した。元のヘラヘラ顔に戻ったウラカーンへ、今度はヘリオスが聞く。

「その前に、一つ聞いていいか? 何故お前はここまで僕たちに協力するんだ? 死ぬかもしれないぞ?」

 尋ねられた鉤爪手甲は、一度だけヴァンに視線を移し、すぐに友へ戻すとヘラヘラの笑みを深くして口を開いた。

「うーん、強い奴と戦いたいからそこまでのぼりたいってのもあるけどー・・・・・・どっかの誰かさんが、自分の身を省みず助けてくれてさー、借りは返さないとっておもってねー」

 答えを聞いたヘリオスは鋭さが抜けた瞳を細くしたあと、不敵な笑みを浮かべて右手から魔力の巨剣を出現させる。

「そうか。ならば、行くぞ!」

 言い終わるや否や、ヘリオスは地を蹴り、半獣の友に向かって巨剣を振り下ろした。




「・・・・・・さてと、私もヘリオスたちに負けてられませんね。ラルウァさん、ちょっと私の特訓にお付き合いくださいませんか?」

 先ほどの出来事を思い出していたヴァンは、セレーネの声で我に返る。

「ん? もちろん構わないが・・・・・・私の放出魔術は並以下だぞ?」

 特訓、というものの内容を聞いてはいないが、とりあえず自分の苦手なものを伝えつつ返事をするラルウァ。セレーネは男を見上げて好都合とばかりに頷いた。

「ラルウァさんには、近接戦闘の稽古をつけてもらいたいので、大丈夫です。あのオートマータとの戦いで編み出した魔術にも慣れておきたいので」

「そうか。ならば付き合おう。・・・・・・それと、私のことは呼び捨てで良い」

「ありがとうございます、ラルウァ」

 セレーネは返された条件めいた言葉を即座に飲み、見上げたまま微笑む。

 ヴァンに似て少々幼い顔をしているが、やはりセレーネは大人の女性であった。浮かべる笑みは妖艶で何ともいえない色香を出しつつ、それでいて少女のように華やかだ。

 横から眺めて、つい見蕩れてしまっているヴァンとアリアだったが、ラルウァは逆に微笑みを返すという技を使っている。いや、技と意識はしてないだろうが。

「・・・・・・出来る男、というやつかのぅ?」

 ヴァンたちの後ろでフランが感慨深げに呟くが、小さな声はヴァンとアリアの耳で止まり、微笑みあう大人たちには届くことは無かった。


 ヘリオスとウラカーンが戦いあっている場所から少し離れたところで、セレーネとラルウァは対峙する。

 離れているといっても、ヘリオスたちの方を向けばどんな表情をしているのかが分かる程度だ。

 戻って、セレーネとラルウァが向かい合う近くにはヴァンとアリア、フランが興味深げな表情で二人を見つめている。

 特にアリアは、セレーネが戦闘中に編み出したという魔術がどういったものか、非常に気になっていた。

「では、発動させますね」

 右手を自分の胸の前で左から右へと横に振る。すると、右手が通過していく空間から順に、白く光の魔弾が五つ現れた。

「アマルガム・ペンテ」

 視線の先にある魔弾の一つを指でつつき、赤みをあまり帯びてない唇で紡ぐ。

 指でつついた魔弾が一瞬だけ強く光り、色を黄色に変える。それを最初に他の四つの魔弾も強く光って色を変えた。

「・・・・・・」

 それを見ていたアリアの眉がかすかに動く。

 ラルウァも同じように眉を動かすが、こちらは楽しげな笑みを浮かべたためだった。

「ほぅ、それが戦いの最中に創ったという魔術か」

「えぇ。ご説明しましょうか?」

 屈託の無い微笑み。しかし、言葉の中身は挑発めいているものだ。

「ふっ、それではつまらんだろう。準備が良ければ行くぞ?」

 それを受けてもラルウァは顔をしかめることなく、逆に楽しそうに返すと腰を少し落として両拳を前に突き出し、セレーネの返事を待つ。

「はい、いつでも」

 今度は言葉を返さず、ラルウァが奔った。

 ラルウァに対し、セレーネは少し後ろへ下がりつつ右腕を右へ左へ軽く振って魔弾を操る。

 二つの魔弾がラルウァへ飛ぶ。残りの三つはセレーネの周囲で飛び回っていた。

 ラルウァは自らの顔めがけて直進してくる二つの魔弾を首を二度傾けて避け、左の拳を突き出す。

 突き出された拳に向けて右手を振り下ろすセレーネ。それに呼応するように周りを飛んでいた魔弾のうち、二つが拳にぶつかった。

 セレーネが、横からの衝撃に軌道を右にずらされた左拳を、軽く右へ飛んで避ける。

 それを読んでいたかのように、ラルウァは体を右回転させて右足の踵をセレーネめがけて振り下ろす。

 しかし、セレーネはそれに焦らず、最後の魔弾をラルウァが振り下ろす足の踵へぶつけ、その間に着地を終えた自身は身をかがめることで事なきを得る。すぐさま後ろに回りこみ、回し蹴りを終わらせていないラルウァの背中めがけて、最初に放ち、今戻ってきた二つの魔弾を飛ばす。

 ラルウァはさらに体を回転。背後から迫る二つの魔弾を左拳で一気に叩き飛ばした。

 再度構えを取るラルウァと、距離を取って自らの周りに五つの魔弾を戻すセレーネ。

 攻防を終えた二人は、静かに向き合う。一瞬の攻防は、ただ二人が走って立ち位置を入れ替えただけに見えるほど速かった。

「・・・・・・すごい・・・・・・セレーネは私と同じタイプの魔術師なのに、接近戦であんなに動けるなんて」

 アリアの呆然とした声がヴァンの耳に入ってくる。正直、ヴァンも驚いていた。

 今の師匠は自分とのどの稽古より動きが良かったのに、自分の姉と名乗る女性はそれと対等の動きを見せたのだ。

「・・・・・・ふぅ」

 そこでセレーネが息を吐き、体から力を抜いた。それにあわせてラルウァも構えを解く。

「終わりか?」

「・・・・・・ラルウァが私の魔弾を素手で消滅まで追い込んだので、それを修復するために魔力を使いすぎました。それともラルウァ、あなたは私の足腰を立たなくさせるつもりですか?」

 拍子抜けしたと言わんばかりのラルウァの言葉にセレーネは頬を膨らませて噛み付き、わかってるくせにそんなこというなんて、と口の中で転がす。

「はは、すまんな。妙な手ごたえがあったのは分かったんだが、魔力を消費したのは分からなかった」

 笑いながら、セレーネが声にしなかった不満に答えるラルウァ。

 考えを読まれた恥かしさのようなものがセレーネの頬をほんの少しだけ赤くさせる。が、セレーネの肌はヴァンと同じで真っ白に近いので、少しでも赤くなればすぐに分かってしまう。

「・・・・・・そういうの、好きじゃありません」

 とうとう目をそらすまでになったセレーネに、ラルウァは苦笑するだけでもう何も言わなかった。

 きょとんとした顔で交互に二人へ視線を移動させるヴァンと、何やらニヤニヤと笑みを浮かべてそのやり取りを眺めるフラン。

 そして見学者最後の一人のアリアが、真剣な表情でセレーネを見つめて歩み寄った。

「セレーネ、聞きたいことがあるんだけど」

「あ、はい、なんですか?」

 聞き返すセレーネは普段どおりの表情に戻っており、唇は淡い微笑みを浮かべている。

「その魔術なんだけど・・・・・・」

「アマルガム・ペンテですか?」

 アリアが光弾の一つを指差し、セレーネはそれに応じるように五つの光弾を周囲で躍らせた。

「それ、なんで衝撃受けても爆発しないの?」

「ええっと、物理硬化の魔術を使ってるからですよ」

「物理硬化を? でも、五つも、しかも魔弾状態で維持してるじゃない。魔族には複数の特性を持った魔術があるの?」

 怪訝な顔で問うアリアに、セレーネが首をかしげて返す。

「え? いえ、ありませんよ。この魔術は、私が『物理硬化』『複数魔弾』『誘導操作』を同時に使ってるので、魔術というよりは私自身の技っていったほうがいいですね」

 おかげでこの魔術使ってるときは他のが使えませんけど。と付け加えて眉を八の字にするセレーネに対して、アリアだけじゃなくヴァンも驚きの色を面に塗りたくった。

「え、ま、まって。それって、複数の魔術を同時に使ってるって事?」

「はい、そうですけど・・・・・・?」

 むしろ何故そんなことを聞くのかというような感情が入っている声に、アリアとヴァンは驚きの色を消すことが出来ない。

「あり得ない・・・・・・魔術を一度に二つ以上唱えるなんて・・・・・・」

「だけど、それならこの・・・・・・魔術の・・・・・・あー、説明がつく」

 どういう風に言葉にしたら分からないのか、ヴァンがつんつんと黄色の魔弾つつきながらつっかえつっかえに話す。

「え? 人の皆さんは魔術を同時発動できないのですか?」

「出来ないわよ。一度に使える魔術は一つだけ。他の魔術を使おうとしたら、今使ってる魔術が消えちゃうし」

 アリアの言うとおり、普通、魔術というのは一度に一つしか詠唱と発動を行うことが出来ない。

 今までヴァンが、四肢を燃やすサラマンダーイグニッションとフレアソードを同時に使うことは出来なかったし、アリアも一つの魔術を使用中に他の魔術を行使することはできない。

 アリアを狙っていて魔術師・・・・・・狂って死んでしまったオスマンも、それに則ってヴァンたち三人を相手にしつつも一つずつの魔術で応戦するしかなかった。

「うーん・・・・・・そんなことはないんじゃないでしょうか? 人の魔術も『特性』でやってますよね?」

 セレーネの問いにアリアが頷く。

「私のこの『アマルガム・ペンテ』は『物理硬化』『複数魔弾』『誘導操作』という三つの『特性』を使ってます。アリアが良く使っていたフレイムアローは『炎属性』『刺突化』を使ってるんじゃないんですか?」

「え? いえ、あれはああいう魔術で・・・・・・」

 アリアは反射的に答えるが、すぐに何か思い当たったように押し黙り、軽く握った拳を唇に当てた。

「・・・・・・アリア?」

 ヴァンが首をかしげながら顔を覗き込む。反応が無い。考えに没頭しているようだ。

「・・・・・・『特性』・・・・・・のぅ」

 呟きに振り返ると、フランも何事か考えるようにどこか一点を見つめて視線を動かさない。

 セレーネに顔を向けて首を傾げるが、セレーネも同じように首をひねるだけ。

 そんなヴァンたちをラルウァは、これからが楽しみだ、と呟き眺めていた。



 そのヴァンたちから少し離れた所で、ずっと手合わせをしていたヘリオスたちはといえば。

「はぁーっ、はぁーっ」

「ふへーっ、つかれたーっ」

 頭を向かい合わせて地面の上で大の字で倒れていた。

「これはっ、あしたっ、はぁっ、動けんっ、はっ、かも、しれんっ」

「オレっち、もっ、はぁ、はぁ、そう、思うっ、よー、はぁっ、はぁっ」

 息も絶え絶えに言ったあと、ヴァンたちが様子を見に来るまで木々の間から見える空を眺め続ける二人であった。



読んで頂きありがとうございます。

これからのお話は、修行とか修行とか甘甘とか修行とか書いていこうとかおもってます。

感想批評、大歓迎にございます。

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