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第八十話


新キャラとか出て、それぞれの戦闘書くと長くなっちゃいます。

 森の中を走るヴァンたちの耳に、後方から木々が激しく折れる音が聞こえてきた。おそらく、否、間違いなくラルウァとライカニクスが死闘を繰り広げている。

 駆ける足を止め、振り返るヴァン。並走していたアリアとヘリオスも同じように速度を落とし、ヴァンに声をかけた。

「・・・・・・ヴァン」

「アリス、ラルウァの言うとおり今は姉さんたちを」

「あぁ・・・・・・分かってる」

 二人の言葉に、ヴァンは後ろ髪を引かれる思いのまま、ヴァンはまた奔り出す。

 師匠の強さを信じ、一人だけに任せてしまった。もっとも、あの場でヴァンかアリア、もしくはヘリオスを置いていけば、ラルウァ一人に任せられない、つまり、信頼していないといっているようなものなので、弟子として、子として、そんなことは絶対に出来ない。

 しかし、心配なことは心配だ。それに、あのオートマータ二体以外にも敵がいるかもしれないので、セレーネたちとは早目に合流したい。無論、増援の危険性があるのはラルウァに対しても言える事なのだが、敵の目的が遺跡の秘宝である以上、ラルウァへ増援を差し向ける意味は無いだろう。

 ならば、今のヴァンに出来ることは、一刻も早くセレーネたちの助太刀に入り、秘宝を回収し師匠の元へ急ぐことだけ。

 やることを整理すれば、何の躊躇も不安も無い。体が動いてくれる。

 ヴァンは両足に魔力を込めると、一気に放出させた。



「い、いい加減、変な声出すのやめて欲しいんだけどー・・・・・・」

「はぁ、はぁ、んっ、あぁ、じんじんと痛みが残ってます。もっと・・・・・・」

 対峙するエーピオスに、ウラカーンは今日何度目かの顔の引き攣りを感じる。お互い、革服やドレスが所々裂け、赤い血が流れていた。

「人形でも、血、出るんだねー?」

 自らの爪に滴る血を見ながらウラカーンが呟く。そのまま爪をゆっくり口へ動かし、舌で舐め取った。甘く痺れるような味だ。

 そんなウラカーンを見てエーピオスが体を抱いてくねらせる。

「あぁん、私の血を、血を舐めるなんて・・・・・・しかも、私から直接じゃないなんて・・・・・・ひどいです、さぁ、直接どうぞ?」

 意味不明なことを口走りつつ、右手を差し出してきた。右腕のフリルドレスは破かれ、少しずつ切られている肌からは赤い血が流れている。

 甘い匂いに、ウラカーンの喉がなり、表情が物欲しそうなものへと変わっていく。が、それも一瞬で、盛大な溜息を吐くと首を横に振った。

「はぁぁー・・・・・・あのさぁ、あまり誘惑しないでくれないかなー? オレっちとしては、人形でも意思のある娘を・・・・・・たとえものごっつい変態だとしても、殺したくないんだけどー?」

「あら、それは私に発情なさってるということですね? あなたに流れる、獣の血が」

「分かってるなら、誘うな」

 短く言葉を切って睨んでくる混ざり者に、人形はヴァンの顔で、ヴァンの声で、妖艶に笑う。

「良いんですよ、私を滅茶苦茶にしても・・・・・・。本来ならお父様以外の殿方に興味はありませんでしたが、あなたなら・・・・・・私を娘と見ている貴方なら、私を満足させてくれそうですので」

「・・・・・・ちっ、本当に犯して殺すぞ」

「あぁ、その目・・・・・・良いです・・・・・・さぁ、はやく、はやく、来て下さいまし」

 ねだる声が耳につき、血の匂いが鼻腔をくすぐった。視界が歪み、この本能のまま、目の前の人形をむさぼってしまいそうになる。

 ウラカーンは人である自分をもって、獣である自分を必死に抑えた。

 命を、消したくない。


「ウラカーン!」


 高く甘えるような声で、名前を呼ばれた。

 ウラカーンとエーピオスが声の主を視線で捉える。瞬間、ヴァンがヴァンに似た少女へ跳びかかり、少女の頭上から蹴りを仕掛けていた。

 エーピオスはウラカーンからの攻撃はわざと受けたりしていたくせに、その蹴りは素早く避けて大きく後方へ跳ぶ。

 ヴァンの蹴りが、轟音と共に地面を陥没させた。

 それを見て目を見開くウラカーン。そしてエーピオスが蹴りを避けたことに納得する。たしかに、あれを喰らっては気持ち良いなど言っていられないだろう。むしろ、当たった瞬間、木っ端微塵だ。

「・・・・・・あっぐ・・・・・・」

 蹴りを放った少女が、蹴りに使った右足を両手で掴み、その場でしゃがみこむ。妖精と見間違える顔は苦痛に歪んでいた。

「ヴァン!?」

 ウラカーンがヴァンに駆け寄る。

 あの蹴りの威力。明らかにヴァンが魔族としての魔力放出を行使したことによるものだ。そして、ヴァンはそれを完全に操りきれてない。

 つまり、今の攻撃で足に何らかの代償を払ったことになる。

 駆け寄る際、ヴァンが跳んできた方向から炎の矢がいくつも放たれているのが見えた。おそらく、共に来たアリアがエーピオスに向かって撃ったものだろう。しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。

「なんてことするんだ! 全然扱いきれてないくせに!」

 珍しくウラカーンが普通の青年のように声を荒げて叱ってくる。その焦っていて間延びしてない口調に、ヴァンは呆気に取られるも、ウラカーンを見上げて口を開く。

「お前が・・・・・・辛そうにしてたから、負けてるのかと思って・・・・・・その、つい。・・・・・・邪魔、したか?」

 おずおずと申し訳なさそうに言うヴァン。

 ヴァン自身、助けられることに対する気恥ずかしさと情けなさは分かっていた。もっとも、それは男として育ってきたから当然と捉えていた感情である。つまり、生粋の男であるウラカーンも今、ヴァンが前に味わった時と同じようにそういう感情を感じているのだと勘違いしたのだ。

「いや、そうじゃなくて・・・・・・はぁ、まぁいっか・・・・・・」

 二度目の溜息を吐き、ウラカーンが立ち上がる。

 どうやら目の前で無茶をした少女は、本能と理性の間で葛藤する自分を見て不利になっていると思ったようなので、助けに入ったことを責めるのは気が引けるが、ウラカーンとしては自分のために無茶をしたというのが、なんというか、許せない気分になる。

 ちらとヴァンが両手で庇う右足に目を向けた。ぼろぼろだ。それも重傷。細く白かった足は、ヴァンの血で赤く塗られていて、筋肉は引き裂かれ不自然な膨らみもある。おそらく、骨折もしているのだろう。

「もう、助けにきたのに、これじゃ何も出来ないじゃないの」

 いつの間にか側に立っていたアリアがヴァンの隣でしゃがむ。ヴァンの傷を見て、まるで自分が負っている傷のように端正な顔を歪めると、ウラカーンを見上げた。

「ウラカーン、ちょっと私、ヴァンの治療に入るから、やっぱ一人で頑張ってね」

「・・・・・・ねぇ、きみたち、助けにきたんだよね?」

 一応、ツッコミを入れつつも、異論は全く無いし、むしろそれを自分から言うつもりでもあったウラカーンは、ずっと待っていたエーピオスに顔を向けた。

 視界に入ってきたのは、悲しげな表情を浮かべる、ヴァンそっくりな少女。フリルドレスも肌も、どこにも焦げた所が無いのを見ると、先ほどのアリアの魔術は不発に終わったらしい。

「・・・・・・」

「やー、待たせちゃったかなー? そのまま帰ってくれても良かったのにー」

 軽口を叩くウラカーンは、普段のヘラヘラ顔。

「残念、です。戻ってしまったのですね。もう一押しだったんですけれど、さすがはお姉様・・・・・・いえ、結局私は・・・・・・」

 俯くエーピオスの声は、ウラカーンたちまで届かない。

 怪訝な表情で首をかしげるウラカーンへ、全く知らない男の声が投げつけられた。

「私の娘を悲しませないでくれるか? 獣が混ざりし人の子よ」

「な? ぐっ!?」

 聞きなれない声の主を確認しようと、首を動かしたウラカーンのわき腹に衝撃が走り、同時に体が思い切り吹き飛ばされ、三本の樹木をへし折ったあと一本の大樹へめり込むことで停止した。

 突然のことに一瞬だけ呆けるヴァンとアリアだが、すぐさま魔力が放たれてきた方を見る。


 そこには、人の形すら取っていない人が居た。

 異形はヴァンを眺めて嬉しそうに目を細め、口を開いた。

「こうして顔を合わせるのは久しぶりだな・・・・・・アリス」

 そう、名を呼ぶ異形が誰か、ヴァンは瞬時に理解する。

「・・・・・・お前、が、テリオス・・・・・・?」

 ゆっくりと尋ねる愛しい少女に、テリオスは唇をゆがめた。




 近接戦闘用に編み出した魔術、まだ名も決めていない力、それを持ってしてドラステーリオスと対峙するセレーネ。

 やっぱり、名前はつけたほうが良いですよね。

 目の前の敵を睨んだまま、そんなことを胸中呟く。実はこの魔術、今の戦闘で考えたものなのだ。ゆえに名がない。

 人形には以前から使っていたように話してしまったが、そんなのはハッタリだ。もちろん、それだけではなく、用途を言葉にすることで形象イメージを強め、魔術として確立させるという意味合いもあった。

 幸い、ドラステーリオスはこちらの魔術がどれほどのものか計りかねているようなので、今のうちに考えることにする。名を持たせるというのは、存在させるのと同義なのだ。

 一瞬の思考。閃いた。

「・・・・・・アマルガム・ペンテ」

 セレーネが静かにつむぐと、五つの光球たちは主の周りを不規則に飛び、周回を重ねる。

「聞いたことねぇ魔術だな。本当にてめぇのオリジナルか」

 忌々しげに光の魔弾たちとその主を睨むドラステーリオス。セレーネはそれに微笑みを返して頷いた。

「えぇ。意味は『五つのやわらかいもの』です」

「どこがだよ」

 人形が、光球がぶつかったときの痛みを思い出して吐き捨てる。あの威力はどう考えてもやわらかくない。

 思ったとおりの反応に、魔弾の主は微笑みを深くした。

「・・・・・・何笑ってンだよ、てめェは!」

 ついに激情の少女が奔る。魔力を両足から放出する疾走は、一瞬でセレーネとの距離を埋めた。

 一度目は反応することが出来なかったが、二度目となると目も慣れる。もっとも、二度目にしてのそれは、セレーネ自身の実力の高さゆえだが。

 ドラステーリオスが燃え盛る四肢をいくつも突き出すが、セレーネは後方に何度も跳びながら操る光球を人形の四肢にぶつけ、軌道を狂わせ受け流していく。

 先ほど形勢が有利になったと思っていた人形は、互角にまで引き上げられたことに焦る。しかし、それはセレーネも同じであった。

 光の魔弾を五つも自在に操っているにも関わらず、攻撃に転ずることが出来ないまま防戦一方だからである。

 それほどこの人形が繰り出す攻撃は疾く、そして苛烈だった。

「んのっ、くそがあぁ!」

 激情の少女が吼え、渾身の拳打を突き出す。魔力放出に加えて魔力を右拳に集中させた拳打は光球を三つも砕き、セレーネ自身に迫った。

「・・・・・・っ!」

 瞬間、巨大な魔力の大剣が、セレーネの視界右下から飛び入り、ドラステーリオスを打撃する。

「ごぐっ!?」

 人形の左側、下から上へ振り上げられる巨剣の打撃は、ドラステーリオスの腹部へ吸い込まれるように叩き込まれ、そのまま小柄な人形を吹き飛ばした。

 木々をへし折りながら森の中へ飛んでいく少女から視線をはずし、乱入者へ視線を向ける。もちろん、セレーネは、顔を見なくてもそれが誰だか分かっていた。

「・・・・・・遅いじゃないですか」

「姉さん、地表に来てからちょっと性格悪くなったんじゃないか?」

 唇を尖らせる姉に、ヘリオスが苦笑する。

 そんなことありません。と否定しながら、視界の端でヴァンとアリアの姿を捉えた。ウラカーンの援護に向かっているようだ。・・・・・・妹が無茶をしなければいいが。

「・・・・・・自信をなくしてしまうな」

 弟の呟きが耳に入り、次いで人形が吹き飛んだ森の方から、いくつもの枝が折れる音が聞こえた。

「なんて頑丈な人形なんでしょうか・・・・・・」

 セレーネも人形を見て呟く。身内贔屓ではないが、ヘリオスのあの一撃はかなり強烈なものであったはず。なのに、こちらを睨みその足で立つ人形は、ドレスこそ破けているもののかすり傷ほどしか負っていない。

「てめぇら・・・・・・舐めやがって」

 怒気をはらむ声で低くうなるドラステーリオスに、セレーネとヘリオスが構える。が、人形は何かを見つけると、ふっと怒りの気をおさめた。

 怪訝な顔を人形に向ける二人だが、次の瞬間、全身を寒気が包む。本能的に振り返るのと、鈍い音が響くのは同時だった。


 視界に入るのは、異形。しかし、その顔は、魔力は、感情は、二人が知っているもの。

「テリオス・アフトクラトル・・・・・・!」

 それは、セレーネとヘリオス、どちらが叫んだ名か。

 二人にとって、忌むべき敵が、そこにいた。


読んで頂きありがとうございます。


・・・特に言うことは無いです、はい(←

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