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第七十七話

 人の形をとった魔獣の側に佇むヴァンにそっくりな二人の少女。

 赤色と水色、フリルドレスの違いはあるが、その顔も、瞳も、髪の色も、長さも、全てヴァンに酷似している。

 世界には自分に似ている人が三人はいるというが、あれはあくまで例えであって、寸分違わぬ容姿の人間がいるという意味ではない。

 驚きで声が出ないヴァンたちに向けて薄い微笑みを浮かべるエーピオスと名乗った少女。隣でドラステーリオスと呼ばれたヴァンそっくりの人物も唇を歪ませている。

「まさか・・・・・・」

 セレーネが呟くと、それに応える様に森から、上から、地面から、木偶人形が何体も飛び出してきた。

 敵の増援にヴァンたちの表情が鋭いものになり、その中でヘリオスが口を開く。

「オートマータか」

「あら、良くお分かりになりましたね」

 感心したような声で静かに返すエーピオス。ヴァンが一瞬だけ視線をセレーネに向け、オートマータの説明を求めた。

 姉は訴えに気づくと目の前の敵を見据えたまま話す。

「オートマータは秘宝の一つで、自動駆動型魔術人形のことです。核となる秘宝に魔力を注ぐと、その魔力で人型を成し、そのときの容姿は使用者が思い浮かべた姿になります」

「ほぅ。そんな秘宝もあるのかえ。自我も芽生えとるようじゃし、秘法はなんでもありじゃのぅ」

 弓を構えたままフランが感心した声で言うが、ヘリオスが否定の言葉を挟む。

「いや、オートマータは普通、意思は持たずにただ命令に従うだけの人形だ。それに、核一つにつき一体であるはず・・・・・・地表にこれだけの数のオートマータがあるのは考えられない」

 ヘリオスの言葉に、エーピオスが微笑みを崩さず、ただこちらを見るだけ。先ほどのように返答を返してこないところをみると、答える気はないようだ。

 そこで、ドラステーリオスが苛立ちが爆発したかのように叫ぶ。

「んなどうでもいいことくっちゃっべねぇで、るならさっさとしようぜぇ!」

「そうですね・・・・・・どうします? おじ様」

 地団駄を踏む激情の少女に、冷たい少女がライカニクスを見上げた。人狼はふんっと鼻を鳴らし、開いた口を大きく左右に裂く。

「お前たちは本来の目的を果たせ。我が相手をしておいてやろう」

「は? ちょっとまてよ、ライのおっちゃん。オレもやりてぇよ! あの年増、オレに魔弾ぶつけたんだぜ? やり返さないと気がすまねぇんだよ!」

 魔獣の指示にドラステーリオスが再度声を荒げた。しかし、ライカニクスは一瞥するだけで変更の声は出さない。

「駄目だ。主殿からまだお前たちに激しい戦闘をさせるなと申し付けられている。お前たちは秘宝を回収して主殿の下へ転移しろ。見つからなければ我に念話を送れ。良いな?」

「・・・・・・ちっ、分かったよ」

「では・・・・・・」

 エーピオスが短く言い、激情の少女と共に森の、南方向へ歩き出す。その後を負わさないようにか、木偶たちがかたかたと動き出した。

「待て!」

 追いかけようとするヴァンに、近くの木偶が跳びかかる。それを合図に、他の木偶たちもヘリオスとウラカーンに駆け出す。

 いきなりの戦闘の始まりだが、ヴァンは四肢に炎をともらせ、蹴りと拳打を木偶に叩き込む。ヘリオスが一つの大剣を出現させて多数の木偶を破砕し、ウラカーンも爪で切り裂いていった。

 ヴァンの近くにいた商人はラルウァに引っ張られて木偶の居ない場所まで下がらせられている。それをアリアとセレーネが魔弾を周囲に放つことで援護し、フランはラルウァと商人を後ろ跳びで追いかけながら魔矢を射ていた。

 木偶たちと戦っているヴァンたちをライカニクスが腕を組んで眺めている。


 巨剣を振り回し人形を砕きつつ、後ろで暴れる友にヘリオスが言葉を投げた。

「グラウクス、オートマータを追ってくれ」

「りょーかーい」 

 ウラカーンはそれに即答し、高く跳ぶと木偶たちの後方、少女たちが消えていった方向に降り立つ。人形たちはウラカーンを無い目で追うが、すぐにヘリオスによって薙ぎ壊される。

 森に奔るウラカーンに気づいたフランがセレーネに叫んだ。

「セレーネ! あの阿呆が一人で行きおった!」

「分かりましたっ」

 フランの言外の意味を受け取ったセレーネがウラカーンを追い、森の中へ消えていく。セレーネに援護を頼んだ理由は二つ。一つは、中遠距離型であるから。二つ目は、地形を問わず放出魔術を発揮できるのがセレーネしか居ないからである。

 フランの秘宝は弓矢の性質を持っているため、木々という障害物が多い森の中では十分な援護ができない。一つの場所に止まり、狙い撃つならまだしも、森の中では追撃戦が繰り広げられるはずだ。その状況で魔矢をあのオートマータたちにあてるのは困難だろう。さらにウラカーンは戦闘となればあの森の中を走り回るはず。そうなってしまっては、援護も十分に出来ない。

 アリアの場合は論外だ。セレーネのように細やかな魔術を使えない広範囲放出系魔術師で、炎属性を主とするアリアは、一度の攻撃で森を焼き尽くしてしまいそうである。


 森の中へと進むウラカーンとセレーネを目で追い、ライカニクスが呟く。

「ここで木偶と踊っていればいいものを・・・・・・仕方がない」

 ぐっと両足に力を込めて魔獣が地を蹴る。高速で地面から離れると森の中へ飛び込もうとした、が、横から来た強烈な衝撃で、それは阻止された。

「がっ!?」

 ライカニクスの顔が歪み、その巨躯は街道へ叩きつけられる。油断していたわけではなかった。視界の端では木偶と戦うヘリオス、ヴァン、アリアをしっかり捉えていたのだ。

 その三人が動いた様子もないし、事実、立ち上がり視線を向ければ、今自らを蹴り飛ばしたであろう人間は三人以外の者だった。

「どうやら、足止めをされる側になったようだな、人を真似る獣よ」

 ライカニクスを蹴り飛ばし、ウラカーンたちを追うのを阻止した人物は、ヴァンの師匠でもあるラルウァその人。

 一番離れた場所に居たラルウァは、ライカニクスが跳んだその時、一瞬で距離を詰めて蹴撃をお見舞いしたのだ。

 はるか後方ではフランが呆然とした顔で商人の側に立っている。

「グルル・・・・・・」

 獣のうなり声を上げて姿勢をライカニクスが姿勢を低くした。目の前のニンゲンは強い。そう本能が告げている。

 対するラルウァも両拳を胸の前に持ち上げ、左手を少し突き出す構えを取った。それはラルウァが目の前に居る魔を強いと認めた証拠でもある。

 どちらも構えたまま動かず、ただ睨みあう。ラルウァの背後では木偶たちが砕ける音と、燃え上がる音が絶え間なく聞こえてくる。

 一つ、木偶の欠片が両者の間へ飛び込んできた。くるくると回りながら、街道へと吸い込まれるように落ちていく。

 その破片が地面に小さく抱え込まれた。

「ガアアッ」

「ふっ」

 それを合図に、魔獣と超人が奔り出す。ラルウァの四肢に真っ赤に燃え上がる獄炎が宿り、ライカニクスの両爪がメキメキと変形していった。

 魔獣が右腕を左に薙ぎ、ラルウァはそれを屈むことで避ける。避けたラルウァは下方から燃える右拳を魔獣の顔に突き出すが、魔獣はそれを首を右に傾けることでかわす。

 右に薙いだ爪を今度は左へ振るい、それをラルウァは燃え盛る左手で無理矢理止める。突き出したままの右手で魔獣の後頭部を掴み、右わき腹へ左の膝蹴りを叩き込んだ。

 くぐもった声を出す魔獣は、すぐに自らも同様の膝蹴りを放つ。自身の右わき腹に迫る膝蹴りを、ラルウァは右手で押さえ膝蹴りに使った左足で魔獣の軸足を払う。体勢を崩し、左へと倒れる魔獣に向かって、右拳を振り下ろすが、魔獣が倒れこみつつも右の爪をラルウァに突き出してきた。

 鋭い爪を首を傾けて避けるが、それに気を削いだことにより魔獣の左腕を自由にさせてしまい、魔獣は自由になった左の爪をラルウァに向けて振り回す。今度は首を傾けるだけでは避けられない。後方へ大きく跳び、魔獣と距離をとった。

 ライカニクスは左の爪を地面に突き刺し、完全に倒れこむのをさける。すぐさま体勢を整えると威嚇の音を出す。

「・・・・・・炎の意味が無いな」

 魔獣の灰毛がほとんど燃えていない事に、ラルウァが呟いた。本来であれば先ほど腕や頭を掴んだ際に勝負は決まってるようなものだが、どうやら純粋な身体能力で倒さねばならないらしい。

 そう考えた時、ラルウァの唇が小さく歪む。それは攻撃的で獰猛で、楽しげなもの。

「ふっ、二十数年ぶりだな・・・・・・血湧き肉躍るのは」

 骨がなるほど拳を握り締め、ラルウァが奔る。

 四肢の炎は、さらに燃え上がっていた。


読んでいただきありがとうございます。

次はウラカーン、セレーネ組の追撃戦開幕でございマッスル(シッショさん的な意味で)。

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