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第七十三話


シッショさんがきてからちょっと足踏みしてますね

「準備は良いか?」

「はいっ、師匠!」

 村の入り口近くの広い場所で弟子と師匠が対峙している。

 先ほど食事が終わった後、ラルウァが久しぶりに稽古をつけるかとヴァンに聞き、ヴァンはそれを嬉々として受け取り師匠を引っ張ってここまで来たのだ。

 アリアたちも稽古という単語に興味を惹かれ、今は遠巻きにヴァンを見守っている。

「お前がどれほど強くなったか、みてやろう。かかってこい」

「はい! お願いしますっ!」

 ヴァンが両腕を胸の前辺りで曲げ、腰を低くして構えを取った。対するラルウァは構えず、手をだらりとたらした状態で佇んでいる。

 だが、ヴァンは知っている。あれが師匠の構えなのだと。自然体であるにも関わらず、隙がまったくみえない。しかし、こうして睨みあってるだけでは稽古にならない。

「・・・・・・行きますっ」

 両足を屈め、地を蹴る。足に込めた魔力を放出し、一気に加速した。

「ほぉ」

 あっという間に距離を詰めたヴァンに、ラルウァが感心したように声を落とす。ラルウァの目の前で急停止したヴァンは即座に左へ跳ぶ。それをラルウァは視線を外さずに追った。さらに左へ右へと跳び、ラルウァの周りを不規則に跳び続けるヴァン。

 そして、一瞬だけ師匠の視界から消え、ラルウァの背後から頭目掛けて右足で跳び回し蹴りを放つ。

「はぁぁっ!」

 気合と共にラルウァの頭部へ蹴撃が迫るが、それはあっさりと右腕で止められた。ラルウァはヴァンを見ていない。

「しっ」

 大きな背中を左足で軽く蹴り、地面に降り立つとまた奔る。今度は一直線にラルウァへと向かい、拳を突き出した。

「今の速さは中々だったぞ」

 ラルウァは振り向き、突き出されてきたヴァンの拳を左手で受け流す。

「やっ、はっ、せいっ」

 次々と拳打を繰り出すが、全て左手一本でいなされる。昔の感覚に、ヴァンの顔は次第に楽しげなものへと変わっていった。やはり、強い。

 今まで攻撃をいなすだけだったラルウァが、ヴァンの右の拳打を捕まえる。

 ヴァンが逃れようと左回し蹴りを放つが、それより速くヴァンの腕が思い切り引っ張り上げられた。

「っ!」

 空中に放り投げた瞬間、ラルウァが体を回転させ、宙でバランスを崩すヴァン目掛けて後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

「く、あっ」

 咄嗟に両腕を交差させたが、激しい鈍痛と強い衝撃がヴァンを襲う。そのままヴァンの小柄な体は吹き飛び、地面に叩きつけられ、何度も転がり、やっと止まることが出来たのは村の門に激突してからだった。

「ヴァン!?」

「貴様!」

「なんてことを!」

 目の前の出来事に、アリアが悲鳴をあげ、セレーネとヘリオスが激昂する。それを慌ててフランとウラカーンが止めた。

「落ち着かんかっ、これは稽古じゃろ!」

「そうだよー、死ぬわけじゃないんだからー」

 ラルウァはそんなアリアたちに視線を向けず、ヴァンの元へ歩く。

「それで終わりか、ヴァン?」

 ふらつきながらも立ち上がる弟子を見下ろして、師匠が冷たく言い放つ。

「まだ、に決まって、ます・・・・・・」

 両腕がしびれているのか小刻みに震えている。

「そうか。ならばよし。・・・・・・今度はこちらから行くぞ」

 言い終わるや否や、まだ体勢を整えていないヴァンにラルウァが奔った。

 大気を巻き込む音を響かせ、拳を振るう。ヴァンはそれを紙一重で避けた。さらにヴァンへ拳がせまる。時たま蹴りも加わり、危うく当たりそうにもなった。これらは全て、ヴァンがギリギリ避けられる速度だ。これも昔と変わっていない。

 この師匠の稽古では、避けてばかりだと速度が段々速くなり、逆にそれをかいくぐって攻撃をしかければ速度が維持されるという修行法を取っている。つまり、避けてばかりいてはいずれ確実に殴られる。小さいときはそれが痛くて、必死になってこちらからも攻撃を仕掛けたものだ。

「避けてばかりでは、私の拳骨をもらってしまうぞ?」

 手や足を休めずに師匠が笑う。ヴァンも楽しげに笑い、言い返した。

「師匠の拳骨、はっ、痛いです、から、ねっ」

 右足の蹴りを身を低く屈めて避け、前へ出る。ラルウァは再度体を回転させ、懐に入ろうとするヴァンに左足のかかとを向かわせた。

 そこで、ヴァンが完全にしゃがむ。左後ろ回し蹴りは空気を切るだけになり、ラルウァの体がヴァンと向き合う。ヴァンは素早く立ち上がると、両手を開いてラルウァの腹部に押し付ける。

「はぁぁっ!!」

 右足を後ろに伸ばし、左足は曲げ、両手を突き出しながら魔力を一気に放出した。

 零距離での双手の掌底。加えて魔力での衝撃。

 自分の半分ほどのヴァンに、ラルウァの体が押され、吹き飛ばされる。ラルウァは受身を取らず、音を立てて地面に倒れた。

 しばらく倒れていたラルウァが体を跳ね上げて起き上がり、弟子に微笑を見せる。稽古終了の合図だ。ヴァンがへなへなとそこに座り込む。

 そんなヴァンにアリアとセレーネ、ヘリオスが駆け寄り、後ろからウラカーンとフランが静かな足取りで来た。ラルウァもまたヴァンに歩み寄る。その姿にダメージは全く見られない。

「だいじょうぶ? ヴァン。待ってて、今治癒術使うから」

 言いながらアリアが座り込むヴァンの頭上に右手をかざし、詠唱を始めた。

「魔の力よ、我の想いを通し、聖なる力と化せ。我求むは癒しの光。ヒールライト」

 唱え終わるとアリアの手のひらから温かい光があふれ出し、ヴァンへと降りかかる。本来ならば傷の部分に手を当て行使する治癒術だが、全身を打ったヴァンにはこのほうが手っ取り早い。もっとも、アリアの魔術師としての力量が高いからこそできることだが。

 光に包まれ、体中の痛みが引いていく。どうやら両腕の骨にはひびが入っていたようで、その部分が特に癒されていくのが感じられる。

 両腕にひびが入った状態であの双掌打がよく出来たなとヴァンは自分で自分を褒めた。

「ヴァン、どうやらお前の弱点でもあった使える魔術が少ないというのは克服できているみたいだな」

 ラルウァが嬉しそうな表情で弟子を見下ろす。だが、ヴァンは師匠のことがに首をかしげていた。

 もちろん、ヴァンが魔術を二つしか使えないというのはラルウァも知っているが、今の稽古で魔術を使っていない。

「師匠、俺、魔術使ってないですよ。それに、今も使えるのは二つだけです」

 弟子の返答にラルウァも首をかしげた。治癒を済ませたアリアが口を挟む。

「え? ヴァン、風も使えるじゃない。サラマンダーイグニッションとフレアソード、あと風の速度上昇の三つでしょ?」

「え?」

 アリアの問いに、またもヴァンが首をかしげた。全然話がかみ合っていない。

「待て待て、俺は風なんか使えないぞ。イグニッションとソード、これだけだ」

「・・・・・・なら、あの速度は何だ? 明らかに身体能力で出せる速さじゃないぞ?」

「あれは、魔力を放出させてやってるんですけど・・・・・・師匠も出来るでしょう?」

 アリアと師匠の目が見開かれる。ラルウァは首を横に振り、アリアが口を開いた。

「魔力を放出するだなんて、聞いたこと無いわよ」

 言われ、戸惑うヴァン。セレーネとヘリオスが少し驚いた表情でアリアたちに問いかけた。

「人は魔力をそういう風に使わないんですか?」

 その声はただ疑問に感じただけといったものだ。

「うーん・・・・・・私は使えないかも。魔力をそんな感じで捉えたことないし」

 難しい顔をしながら考え込むアリアとラルウァ。そこでヘリオスがラルウァの腹部を見て聞く。

「それにしても、ダメージはほとんど無いみたいだな。さすがといったところか」

「ん? ダメージもなにも、衝撃しか来なかったが」

 魔力放出は物理攻撃か? と続けて尋ねるラルウァの言葉に首を振った後、ヘリオスとセレーネはヴァンへと視線を向けた。

「いや、物理攻撃ではないけど・・・・・・アリス、魔力放出はどういう使い方をしてるんだ?」

 聞かれ、戸惑いの感情が消えないまま、今までの使い方を話すヴァン。

「・・・・・・という感じで、使ってるけど」

 話を聞き終えた姉兄が、なるほど、と頷いた。

「・・・・・・アリスの戦い方にずっと違和感があったんですが、合点がいきました」

「あぁ。道理で攻撃力が低いわけだ」

「どういう意味だ?」

 ヴァンが眉をひそませ、アリアとラルウァも二人の答えを待つ。ウラカーンとフランはずっとそこにいるが、会話の内容が良く分からなかったのでとりあえず静かにしていた。

 んん、と一つ喉をならし、セレーネがヴァンに思い切り指を突きつける。

「ずばり、アリス、あなたは魔族として魔力の使い方が間違ってます!」

「な、なんだってー!?」

 ドーン! と幻聴が聞こえそうなセレーネの勢いに、ヴァンもつい、ガーン! と音がなってしまいそうな反応をかえしてしまう。

 時が止まり、風が七人の間をすり抜けていった。

「・・・・・・こほん、続き、良いか?」

「・・・・・・はい・・・・・・」

「・・・・・・うん・・・・・・」

 ヘリオスの言に、セレーネとヴァンが恥ずかしそうに俯く。

「恥ずかしいならやらなきゃ良いのに」

 アリアの呟きが苦笑と共に俯く二人の耳に入ってきた。


読んで頂きありがとうございます。

次回はヴァンがぱわーあっぷ?するかも!しないかも!

次回『アリア爆発!』

あなたのハートに、フレイムアロー☆

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