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第六十七話


ほのぼの〜

「で、こいつはその時から夜一人で眠れなくてな。いつも私のベッドにもぐりこんでいたんだ」

「あらあら、ふふ、アリスったら」

「ヴァンちゃんも意外と子供っぽいところがあるんだねー」

「・・・・・・し、師匠、俺の昔のことはそれくらいで・・・・・・ていうか、みんな、それは昔のことだからな!? 今は違うからな!?」

 ラルウァによるヴァンの過去話に、皆は子供に向けるような朗らかな笑みを浮かべ。そんなアリアたちに向けてヴァンが弁明する。

「はいはい、分かってるわよ。・・・・・・今日一緒に寝る?」

 分かったといいつつからかってくるアリアにヴァンが声を荒げた。

「こ、子供の時だって言ってるだろ! 今は全然平気だからな!!」

 がーっと怒るヴァン。アリアはそれを受けて声を出して笑う。

 ラルウァも紅い瞳を細めて微笑んでいた。

「ふっ、元気そうだな、ヴァン。良い仲間にもめぐり合えたようだし、私は安心したぞ」

 言い、ヴァンの頭を撫でる師匠。ヴァンは恥かしげに頬を朱に染めて、うーとうなった。

「師匠・・・・・・俺はもう子供じゃありません」

 上目遣いで非難の視線をラルウァに送るが、言葉とは裏腹に手を払いのけたりはしない。

「あぁ、そうだったな。・・・・・・今のお前を見ていると、昔を思い出してつい、な」

 ラルウァは話している最中も撫でるのをやめなかった。目を下に向け、なすがままにされているヴァンを見て、アリアと姉兄が心底うらやましそうに見ている。もちろん、羨望のまなざしは頭を撫でられているヴァンではなく、頭を撫でている師匠に向けられたものだ。

 アリアや姉兄が撫でれば、ヴァンは恥かしがってすぐに逃げてしまうだろう。ヴァンにとって、ラルウァは親のような存在なのだと分かった。



 しばらくヴァンの子供時代の話をしていたラルウァは窓の外を見る。

「もう遅いな。私は部屋に戻るとしよう」

 ヴァンたち女性陣は今の部屋を取っており、ウラカーンとヘリオスは二人部屋を、そして、ラルウァだけは別の一人部屋を借りていた。

 ヴァン一行が以前のように同じ部屋ではないのは、ウラカーンの存在があるからだ。

「え・・・・・・もうですか?」

 話したり無いのかヴァンが残念そうな表情をし、師匠を見上げる。捨てられた子犬のような目をするヴァンに、アリアとセレーネ、ヘリオスは身もだえ寸前だ。今すぐ抱きしめて頭を思い切り撫でまわしたい衝動に駆られる。

「ふっ、相変わらずお前は寂しがり屋だな。明日にはこの村の村長へ挨拶に行くのだろう? 知り合いのようだったしな。その時、私もつき合わせてもらおう。弟子が挨拶に行くのに、師が何も無いのは失礼だからな」

 椅子から立ち上がり、ヴァンの頭をまた撫でた。アリア筆頭、ヴァンを愛し隊の三人がしたがっていることをあっさりするラルウァに、三人はやはり羨望のまなざしを向ける。

「そう、ですね・・・・・・じゃあ、明日起こしに行きますから」

 頭を撫でられながらラルウァを見上げるヴァン。師匠はそんな弟子に苦笑を返す。

「それは構わないが、朝が弱いのは直ったのか? いつも私より遅くに起きていただろう?」

「べ、別に弱くなんかないですよ。あれは師匠が早起きなだけです!」

「ははっ、そうだったか?」

 仲の良い親子のようなやり取りをしたあと、ヴァンの頭から手をどけたラルウァはアリアたちを見渡して口を開いた。

「それでは、私はこれで失礼する。久方ぶりに楽しいときが過ごせた。ありがとう」

「いやいや、こちらこそ。ヴァンの昔の話が聞けて楽しかったぞい」

 フランが返事をし、セレーネとヘリオスがラルウァに頭を下げる。

「アリスのこと、本当にありがとうございました」

「あなたが居なければ、今のアリスは無かった。本当にありがとう」

 セレーネたちが師匠に礼を言うのを見ると、なんだか妙に気恥ずかしさを感じるヴァン。

 ラルウァは微笑み、首を横に振った。

「いや、私は少し手助けをしただけだ。ヴァンが生きてこれたのは、ヴァン自身の強さによるものだ」

 ヴァンの本名がアリスと知って尚、ラルウァはヴァンと呼び続けている。

「それではな。良い夢を」

「おやすみなさい、師匠っ」

 眠りの挨拶を背に受けてラルウァは部屋を出て行った。


「・・・・・・あれがヴァンちゃんの師匠さんかー。強そうだなー、正直底が見えなかったよー」

「おぬしは本当に戦うことしか頭にないのぅ。最初に出てくる感想がそれかえ?」

 フランとウラカーンのやり取りに苦笑するヴァン。そこでヘリオスが椅子から立ち上がる。

「グラウクス、僕たちも部屋に戻ろう」

「ええー? もうー? これからナイスハプニングがあるかもしれないのにー。前みたいにヴァンちゃんが脱ぐとか、へちょるっ」

 期待の目でヴァンを見たウラカーンの腹部にアリアの蹴りが突き刺さった。

「ヘリオス、さっさと連れてって」

「了解だ」

 ヘリオスが昏倒するウラカーンを引きずり、部屋の扉に手をかけて振り返る。

「それじゃ、おやすみ」

「あぁ、おやすみ、ヘリオス、ウラカーン」

「おやすみなさい」

「しっかり寝るんじゃぞー。約一名もう寝とるが」

「おやすみなさい、お二人とも」

「・・・・・・お・・・・・・おやす、みー・・・・・・がくり」

 それぞれ返事をもらった二人は部屋から出て行く。

「され、俺たちもそろそろ寝るか」

 もう女性陣と同じ部屋に寝ることに全く抵抗を覚えていないヴァンが言うが、アリアたちは首を横に振った。

「いいえ、まだお楽しみが残ってるわ」

「アリス、お風呂、まだでしたよね?」

「・・・・・・なぁ、いい加減、パターンになってきてないか?」

「つまり、お約束といいたいわけじゃな? 約束はまもるもんじゃて。さぁゆくぞい」

 同じ部屋で寝ることには慣れたが、一緒に風呂へ入るのは無理だ。いつものごとく逃げようと扉へ奔る。今度は本気と書いてマジと読む。目指すは、今一番安全であろう師匠の部屋だ。

「別にっ、久しぶりに会ったから一緒に居たいとかそんなんじゃないんだからなっ!」

 誰に対する言い訳でもなく、本気の奔りは魔力での疾走。これで逃げ切れる!

「甘いですね、アリス。私がいるのを忘れていますか?」

 背後で聞こえてきたセレーネの声。だが、セレーネはすでに扉の前に現れていた。

 残像を残さんばかりの速度だ。ぶっちゃけあり得ない。慌てて急停止し、後ずさる。

「ヴァーンっ」

 がしっと後ろから肩をつかまれて悲鳴を上げるヴァン。ゆっくり振り向くと良い笑顔のアリアとフランが居た。

「お前ら・・・・・・毎度毎度思うんだが、俺はあれだぞ? 数十年も男としてだな・・・・・・」

「だから、今は女の子でしょ? ていうか、本当に女の子だったじゃない」

「うむ。おぬしはいつまでたっても女としての自覚をもたんのぅ」

「それは姉として心配ですね・・・・・・」

 何やら真剣に悩みだす三人に、ヴァンが叫ぶ。

「それでも! 風呂とか着替えとか、俺一人で出来る! なんでわざわざお前らも一緒に、ていうか、セレーネ、何気にアリアたちと組んでないか? 何故だ?」

「え? だって、アリアさんとフランさんが、アリスがどれだけかわいいかを教えてくださったんですもの。姉である私も参加すべきでしょう?」

 むしろヴァンが何を言ってるのか? といった表情をするセレーネに、ヴァンは後ろのアリアとフランをきっと睨んだ。

「妙なことを吹き込んだな!?」

「楽しみは共用しなきゃ」

「全くじゃ。それに、セレーネはおぬしの姉じゃろう? 何を恥かしがることがあるんじゃ?」

「お前らが手伝いといいながら変なことするからだろうがー!!」

 本日二度目の、がーっ! をアリアたちはさらりと聞き流し、ヴァンを風呂場へ引っ張っていく。

「人のっ、話をっ、聞けええええええ!!」



「・・・・・・ほら、だからいったじゃんー、あの部屋に居たら絶対良い事あるってー」

「・・・・・・姉さん・・・・・・くっ、うらやましい・・・・・・っ!」

「ヘリオスヘリオス、もうホント変態にしか見えないから」




 早朝、まだ日は完全に昇っておらず、朝霧が村中に漂う時刻。ヴァンは同じベッドで自分を抱きしめているセレーネの腕から慎重に抜け出す。

 壁にかけられた黒いフリルドレスを取ると、アリアたちを起こさないように着替える。着替え終わったヴァンは部屋から静かに出て行った。行く先はもちろん、自らの師匠の部屋である。

 ランプが間隔をあけて並ぶ狭い廊下を歩き、ランプと同じように間隔をあけて並ぶ扉の一つの前で立ち止まった。

 一度深呼吸をしヴァンは扉を叩く。

「師匠、起きてますか?」

 中からは返事が無い。ドアノブを掴んでまわすと、扉はあっさり開いた。

「・・・・・・師匠・・・・・・?」

 小声になりながらも少しあけた扉から中をうかがう。

「ん? ヴァンか。おはよう」

 そこにはすでに起きていたラルウァがいた。ラルウァは右手一本で逆立ちをし、限界まで引き絞られた肉体を上下に動かしている。どれくらいやっていたのかはわからないが、肉体にはうっすら汗を浮かばせていた。

「おはようございます。もう起きてたんですね」

 挨拶を返して室内に入るヴァン。ラルウァは息を吐き右手だけで軽く肉体を浮かばせて立つ。

「あぁ。起きたのは少し前だがな。お前が起こしにきてくれると言っていたから、時間をつぶしていた」

 ヴァンは苦笑し、変わってないなと心の中で呟いた。目の前で汗を拭く師匠は、昔からそうだ。こちらが迎えに行くといえば、たとえ遅くとも必ず待っている。時間があるから自らが迎えに行くということが無い。

 逆に、師匠がするといったことも必ずしてくれる。ヴァンをギルドに預け依頼に行くときも、夕方までに帰るといえば必ず夕方に帰ってきたし、二時間で戻るといえば二時間以内に戻ってきた。だから、安心して待っていられた。

「どうした、ヴァン。何か良いことでもあったのか?」

 ラルウァが不思議そうな顔で聞いてくる。そこでヴァンは自分の頬が緩んでいたのに気づく。

「あ、いえ、なんでもないです。師匠、もう少ししたら、みんなを起こして一緒に朝ごはん食べませんか?」

「そうだな。お前たちが良ければ、ご一緒させてもらおうか」

「はいっ」

 即答で了承する師匠に、弟子は嬉しそうな笑顔を向けた。


読んで頂きありがとうございます。

ヴァンの昔話!もっと聞きたい!


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