第六十六話
ストーリー進みませんね・・・。
驚きの衝撃が強すぎて、涙が止まりぱくぱく口を動かすアリア。
「リーさんっ!」
そこにミリナが駆け寄ってきた。ミリナもリーちゃんに抱きつくと泣き出す。
「あぁぁっ、リーさんっ、リーさんっ・・・・・・!」
そんなミリナを見て、またアリアの表情が暗くなった。
男はただ見下ろし、ヴァンは瞳を鋭くさせて男を見上げる。ミリナとアリアの悲しみと、ヴァンの怒りに影響され、ウラカーンとヘリオスの表情も臨戦態勢のものへかわっていった。と、その時。
「んっ」
「あっ」
「やっ」
「ひゃんっ」
リーちゃんの側に居た女性たちが悲鳴を上げた。上からミリナ、セレーネ、アリア、ヴァンである。
顔を赤らめさせ四人とも自分の後ろ下、つまりお尻のほうへ目を向けた。全員のお尻を、それぞれ蔓が一本ずつ撫で回している。
ヴァンたちは素早くその蔓を鷲掴みにし、ジト目で倒れるリーちゃんに視線を戻すと、何やらぶつぶつと呟きうなっているリーちゃんが目に入ってきた。
「ううーん、やっぱーり柔らかさはアリアさんが一番デーシタねー。ヴァンさんは小ぶり・・・・・・白い人は形のいい適度な柔らかさ・・・・・・悲しいかなミーの想い人ぉーは、意外と普通デーシタ」
「で、言いたいことはそれだけ?」
「ワッツ? ・・・・・・あ」
真剣に吟味しすぎて全員に気づかれていたことに気づいてなかったリーちゃん。
「・・・・・・アリス、私、やっぱり魔獣は滅ぼすべきだと思うんですよ」
「そうだな、今なら大賛成だ」
「ちょ、ちょっと待ってくだサーイ、ほんの出来心デース」
慌てるリーちゃんだが、下半身部分が無いのでうねうねうごめくだけだ。そこでミリナが声を上げる。
「待ってください、皆さん! 殺生はいけません!」
「あぁ・・・・・・ミリナさーん、ミーをかばってくれるのデースね、お尻は普通でしたがやはり一番良い女性デース」
「死んだら苦しみを味あわせることができないじゃないですか!」
その言葉に三人が、あぁ、と首肯し、リーちゃんが固まった。
「さて」
ヴァンが短く言い、立ち上がった。三人もそれに倣う。冷たい視線でリーちゃんを見下ろし、両手の骨を鳴らした。
「リーちゃん。いや、ギガンリーフ・バシレウス。十秒だけやろう。言い残すことは?」
「え、えーと」
「十、ゼロ」
「はやっ!? ま、まってくだサーイ! ぎゃああああああああ!」
目の前で繰り広げられる凄惨で凄絶な処刑を眺め、ヘリオスとウラカーンは身震いすると同時に、今後、女性陣を怒らせないようにしよう、と誓う。
ちなみに、師匠と呼ばれた男は、とりあえず事が済むのを待つことにしていた。
「ふぅ・・・・・・これくらいで許してあげるわ」
額に汗かき頬を紅潮させ、波打つ金髪を手で払うアリア。セレーネとミリナ、ヴァンも荒い息を吐きつつ良い顔をしていた。
その四人の足元にはぼろ雑巾の如く転がっているリーちゃんが一体。大きさは度重なる殴打や引きちぎりによって小さくなってしまっていた。
「さ、さすがーに・・・・・・死にそうデース・・・・・・」
「あー・・・・・・もういいかなー? オレっち、そろそろあの人との話を進めてほしいんだけどー」
ウラカーンが恐る恐る女性陣に尋ねる。ヴァンに師匠と呼ばれた男は元の位置で微動だにせずたたずんでいた。
「えーと、私たち、失礼しますね。お話が済んだら是非うちに来てください」
込み入った話だろうとミリナが小型化されたリーちゃんを引きずり去っていく。それを見送った後、ヴァンが男を見上げて微妙な表情をつくる。
「・・・・・・師匠」
男はヴァンをじっと見下ろし、首をかしげた。
「私は女の子を弟子にもった覚えはないが・・・・・・」
男は怪訝な表情で言う。それは仕方がない。この男がヴァンを知っているのは、少女の姿になる前だからだ。
ヴァンが寂しげな笑みを浮かべながらも、説明しようと口を開きかけるが、それより速く男が言葉を出す。
「ん? ・・・・・・待て、お前、まさか・・・・・・」
「え? わぷっ」
突然男がヴァンの頭に手を乗せ、撫でてきた。そのまま両手をヴァンの肩にのせ、少しずつ下へと撫でていき、男の鍛えられた肉体が徐々に前かがみになっていく。
「い、いきなり何してるのよ!」
「え、え、あ、あの、師匠・・・・・・? わっ!?」
怒鳴るアリアと戸惑うヴァンを無視し、今度はヴァンの細い腰を掴むと自分の目船の高さまで持ち上げる。まんま『たかいたかーい』だ。
「ふむ・・・・・・」
そのままヴァンを様々な角度から眺め、すとんと下ろす。アゴに手をかけ、赤い瞳でヴァンを再度凝視し、口を開いた。
「・・・・・・お前は・・・・・・まさか、ヴァンか?」
「え、ええー!?」
全員の表情が驚愕のものへ変わる。
「なっ、なんで・・・・・・分かったんですかっ?」
驚く皆を代表してヴァンが声をあげるが、男は平然と言ってのけた。
「なんとなくだ。・・・・・・それにしても、身長がほとんど伸びてないな。ちゃんと食べているのか? 朝食は体の資本だと何度も言っただろう」
「いやいやいや、もっと突っ込むべきところがあるんじゃないのー?」
「わしもそう思うが・・・・・・それはボケておるのかえ?」
ついツッコむフランとウラカーンを見て、ヴァンの師匠が目を少し見開く。
「ほう・・・・・・ハーフエルフか。久しぶりに見たな。ん? そっちはなんのハーフだ? その爪、自前だろう?」
これにヴァン以外の表情が驚きの色になった。フランがハーフエルフであることや、ウラカーンの爪が自らの指から生える鉤爪だと一目で看破されたのだ。当然である。
「師匠、相変わらずすごい洞察力ですね。普通分かりませんよ」
呆れながらも嬉しそうな顔をするヴァンに、男がふっと笑う。
「伊達にお前の倍以上生きてるわけではない。・・・・・・久しぶりだな、ヴァン」
「はい、師匠っ」
自分のことを弟子であるヴァンだと分かってくれた師匠に、ヴァンが思い切り破顔する。今まで見たことの無い、安心しきった笑顔だった。
もうすでに日は沈み、ヴァンたちは宿屋の一室で集まっている。ミリナに村長宅へ招待されていたが、時間も遅いので挨拶には明日行くことになった。
「と、いうわけで・・・・・・俺、実は女だったみたいなんです」
「そうか」
テーブルを挟み、男と向かい合って座るヴァンが、これまでの経緯と今の姿の説明、セレーネたちとの関係や、自分の生い立ち、今の目的などを話した。
それの返事が上の一言だけだ。
「そうかって・・・・・・そんなあっさり信じるわけ?」
ベッドに腰かけたアリアが呆れ顔で聞くが、ヴァンの師匠であるラルウァ・レギストン・パテールは当然だと頷く。
「ともに旅をしているお前たちなら知っているだろう。こいつは嘘をつくのが苦手だ。あとは、そうだな・・・・・・こいつは昔からたまに少し女のような行動を取るときがあったんだが、それで納得できたのかもしれん」
ラルウァの言葉に、ヴァンを除く全員が今までのヴァンを思い出す。性別での関係は無いが、すぐ涙目になったり、妙に男のツボをおさえていたり、甘いものを食べるときはまるで少女のようである。皆が一番強く思い出すのは、酔っているときのヴァン。
そして、他の三人より長く一緒にいるアリアとフランは、ヴァンの普段取る行動でもそれらしい心当たりがあった。
座り方は自然と少女のように座るし、胡坐をかいているのはみたことがない。靴の脱ぎ方一つとっても、膝を内側にまげて後ろ向きに指をかける。どれをとっても男くささを微塵も感じさせない時が多々であった。
もしもこれらの行動を、ラルウァとともにすごしていた時もしていたのならば、ラルウァのいうこともすこしは分かる。が、やはり、信じた理由はヴァンへの信頼が多くを占めるだろう。女のような行動うんぬんは、得心しただけに過ぎない。
「・・・・・・そんなことはないでしょう? 俺のやること全て漢味あふれてるでしょう? 男くささ全開でしょう?」
ヴァンの師匠への反論に、皆首を横に振る。
「いえ、無いわね」
「無いのぅ」
「無いと思うが」
「無いですよ」
「無いよね〜」
「お前ら・・・・・・」
部屋を見渡し、アリアたちの顔を頬をひくつかせながら見るヴァンに、ラルウァも少し考えた後口を開く。
「ふむ・・・・・・無いな」
「し、師匠まで・・・・・・」
男として生きてきた自分を、今このとき木っ端微塵にされた気がして、ヴァンは深く溜息をついてうな垂れた。
読んで頂きありがとうございます。
師匠さん、なんて人でしょう。ちょっとテリオスと話し方かぶっちゃいそうなので、がんばって個性出そうと思います。セレーネさん影薄い。
セレーネ「!?」
感想批評、大歓迎でございます。