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第六十二話

「アリス、今度はこれつけてください、絶対似合いますから!」

「アリス、これもつけてみてくれ。色合いがピッタリなはずだ」

「あ、あぁ・・・・・・分かった、分かったから、とりあえず今つけてるのをはずさせてくれ・・・・・・」

 二人が進めるアクセサリーを押し止め、今頭に乗っている髪飾りや腕輪をはずしていくヴァン。複数つけるとさすがに重い。

 貴金属を扱う露天の前に居るのは、セレーネとヘリオス、ヴァンの三人だけ。アリア、ウラカーン、フランの姿は無い。


 工房長たちに挨拶しにいき、なんとかセレーネたちを紹介できたヴァンたちは、またまた工房長たちの家で世話になることになった。

 工房長が「どうしても嫌だって言う気か? それならおれ仕事しねーぞ!」と訳の分からないことを言ってきたので、断る理由が遠慮だけということもあり、厄介になることにしたのである。

 まだ仕事が残っているから夕方頃に家に来てくれとエリュトたちにも言われ、六人は露店を見て回ることにした。だが、その時アリアが、

「ぞろぞろ歩くのもあれだし、二手にわかれよっか。じゃ、ヴァン、セレーネさんたちの案内お願いね」

 私、案内苦手なの。付け加え、逃げるように去っていき、フランとウラカーンもそれに続いたので、ヴァンは二人と回ることになったわけだ。


「あぁ、やっぱりアリスには青が似合うな」

 微笑みながらヴァンの頭に髪飾りをつけるヘリオス。隣でセレーネもにっこり笑いながら同意した。

「・・・・・・二人とも、露店で試着ばっかりするのは駄目だろ。見て選ぶだけにしよう」

 ぎこちない笑みを浮かべ、ヴァンが頭の髪飾りを露店の風呂敷に戻す。露天商としてはむしろヴァンが客寄せになっているので文句はなかったのだが、本人はそれを知るよしも無い。

 叱られた二人は、しゅんと肩を落とした。

「ごめんなさい・・・・・・」

「すまない・・・・・・」

 謝るセレーネたちに対し、慌てて両手を振る。

「い、いや、謝ることはない。それより、二人とも何か欲しいものでも見つかったか? 依頼を一緒にやったんだし、二人のお金でもあるんだから、何か買っても良いんだぞ?」

 言われ、セレーネとヘリオスは顔を見合わせ、露店に視線を落とした。

「うーん・・・・・・もし買うとしたらアリスに似合うものが買いたいですね」

「そうだな、アリスにつけて欲しいしな」

 ヴァンの言葉に従い、今度は見るだけにしている二人だが、やはり目的が変わってない。

 セレーネとヘリオスがつけるためのアクセサリーを買うのは、ヴァンが選ぶほかないらしい。

 困った姉兄たちに、妹が軽くため息をついて苦笑した。



 一方、アリアたちは全く別の方角を歩いているが、ヴァンたちと同じように露店をみて回っている。

「ほんと、アーちゃんも素直じゃないよねー」

 アリアとフランが歩く少し後ろで、ウラカーンがニヤニヤ笑いながら言った。

「・・・・・・なんのことよ?」

 歩みを止めず声だけで応答するアリア。男嫌いといっても個人を無条件で嫌いになるわけではない。もっとも、その個人を知る前に無条件で嫌いになるわけだが。

「だからさー、素直に『十数年ぶりに会ったんだから、兄弟だけの時間が欲しいわよね。私たちのことは気にしないで、一緒に回ったら良いわ』って言えば良いのに」

「・・・・・・うるさいわよ」

 普段の強気な言葉ではなく弱めの声で返すアリアに、ウラカーンが首をかしげた。

 フランがやれやれと苦笑してアリアの肩に手を乗せる。

「まぁ、これから幾度も機会があるじゃろうて。そう落ち込むでない」

「・・・・・・別に、落ち込んでなんか・・・・・・」

 うつむくアリア。本当は少し落ち込んでいた。

 ヴァンと一緒に回りたかった。一緒にかわいいものを見て回って、欲しいものがあったら一緒に買って、一緒につけあったりしたかった。

 セレーネたちが来て、どこか遠慮をしてしまう。だって、彼らは十数年ぶりにヴァンに会ったのだ。最初は嫉妬に駆られて、ヴァンに抱きつくセレーネや、ヴァンに触れ合いたがるヘリオスを怒っていたが、そのたびに罪悪感にかられた。自分が邪魔者のように思えるのだ。


 ヴァンが、二人にとられてしまったような感じがした。


「なんかよくわかんないけどー、アーちゃん、落ち込んでるわけー?」

 ウラカーンの暢気な声が後ろから飛んでくる。その言葉に、アリアはつい声を荒げてしまった。

「落ち込んでなんかいないってば!」

 いきなり叫ぶ金髪の少女に大通りの人たちが驚きこちらを顔を向け、アリアを見下ろすフランの表情は少し悲しげだ。

 はっと我に返りウラカーンへ視線を向けた。ウラカーンは目を少し見開いていたが、すぐにヘラヘラ笑いに戻る。

「そっかー。良かったー」

 なんでもない様子のウラカーンに、アリアがほっと胸をなでおろす。そして、自分に対して怒りや恥かしさが湧き上がってきた。

 心配してくれた相手を怒鳴るなんて・・・・・・。居た堪れなくなり、うつむく。ウラカーンを見ずに呟いた。

「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

 謝られ、ウラカーンの表情が驚愕に塗り固められる。先ほど怒鳴られたときの数倍はあった。

「あ、アーちゃんが謝るなんて・・・・・・! やばいっ、まずいっ、オレっちやりたいこともっといっぱいあったのに、世界が滅ぶー!」

「どういう意味よ!!」

「どぅぶっはぁ!」

 叫ぶウラカーンの腹部に、アリアの鋭い蹴りがめり込む。人通りが多いということもあり、ウラカーンはいつものように吹っ飛ばずそこにとどまった。ナイス根性だ。

「ごふっ・・・・・・鋭利なキックだ・・・・・・魔術師にしておくにはもったいない、ぜー・・・・・・」

 左手で腹を押さえ、右手の親指をぐっと立ててくるウラカーンに、アリアがふんっと鼻を鳴らす。フランは二人を見て微笑んだあと、まゆをひそめさせた。

「こら、おぬしら、迷惑じゃろう。そんなところで騒ぐでない」

 またもフランに叱られ、アリアとウラカーンは「はーい」と唇を尖らせる。

 横目でお互いの視線を混じり合わせ、最後にフランを見た。それを機に、誰からでもなく笑いあった。



 夕方になり、工房長宅の前で合流した六人は戦利品を見せ合おうとしたが、どちらも結局何も買わずに見て回っただけだった。

「ああもいっぱいあると、逆に買えないもんなんだな・・・・・・」

「そうね、欲しい物買っていったらすぐお金なくなりそうよね・・・・・・」

 ヴァンとアリアが、全員の心情を代表して言う。

「おぉ、もう戻ってきてたのか」

 豪快な声と共に工房長とエリュト、オイエスがヴァンたちに歩み寄ってくる。工房長の大きな両腕にはこれまた大きな買い物袋が抱えられており、食材が少し見えていた。エリュトとオイエスも同じように紙袋を持っている。一体どれだけ料理を作るつもりなのかと思わざるを得ない。

「がははっ、嬢ちゃんの料理は美味かったからな。今日も楽しみにしていいか?」

 笑いながら見下ろしてくる工房長に、ヴァンが苦笑した。両腕が塞がっているので、頭ガシガシはされない。

「そういってくれて嬉しいです。今回も頑張りますよ」

 ヴァンから目をはずし、アリアを見下ろす工房長。

「嬢ちゃんは前にちぃっと失敗してるが、なぁに、練習あるのみだ。期待してるぜ」

 その言葉に、アリアが決意の表情を浮かべ、ぐっと胸の前で拳をつくった。

「えぇ、任せて! 今回はお腹痛くならないやつをつくってみせるから!」

「がははっ、その意気だぜ!」

 周囲の空気の温度を少し上げていく二人に、アリアの料理を知らない三人は不安にかられ、ウラカーンが呟く。

「・・・・・・・・・・・・胃薬かっといたほうがよかったのかな?」

 幸い、その呟きはアリアに聞こえていなかった。


読んで頂きありがとうございます。

アリアの心情、少しは書けたでしょうか?恋する乙女!

さて、次回はアリアの料理で何と死sy(スパッ、ドサッ

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