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第五話

ギルドギルド・・・・・・むーん、穴がないか確かめたくも頭が回りません。

 ヴァンとアリアは少し静かになった大通りを歩いていた。日は傾き、景色を橙色に染めている。昼時とは違い、行き会う人々はまばらで、どの家からも夕餉の匂いが漂う。どうやら自分は結構な時間眠っていたようだ。

「そういえば、俺を宿屋に運んだのはアリアか?」

「えぇ、そうよ。あなた、その姿になってすごく軽かったし」

 その言葉通りヴァンの体は小柄になっている。男だった頃の半分くらいだろうか。それでもアリアの胸辺りはある。

 となりを歩くアリアは先ほどまでつけていたマントをはずしていた。そのマントはというと、現在、ヴァンの体を包んでいる。少女物の服なぞ持っているわけがないヴァンは、仕方なく服の袖やズボンをまくり上げ、マントでその体を隠している。アリアのサイズに合わせられたマントは、今のヴァンには大きいくらいだった。

「足を怪我していたのに?」

 目を移すと、巻いた布は取り払われており、きれいな足首が見えた。

「あなたが消毒してくれたあと、すぐ治癒術をつかったもの。平気よ」

 それに移動術もつかったしね、と続ける。

 微笑むアリアから目をそらし、

「そうか」

 それだけ、つぶやいた。先ほどから思っていることだが、どうも自分の声になれない。遠くに響くようでいて近くをささやくような、それでいて甘い声。時折自分が喋っているのだと忘れるほど、元の声とかけ離れている。当然といえば当然だが。

「ところで、どこ行くの?」

 先ほどヴァンは何も言わずに宿屋から出て、アリアはそれについてきただけだ。

「ギルドだ。この姿では報酬は受け取れないが、討伐が完了していることくらいは報告しないとな」

「そう考えたら、あなたただ働きね」

「・・・・・・誰のせいだと思ってる」

 そんなことを話している間に、二人はギルドについた。扉を開け中にはいる。他の冒険者の姿は無く、目に入るのは、四つの窓口に四つの掲示板、部屋四隅に置かれた四つの観葉植物。

「あぁ・・・・・・嫌な予感は信じたほうが良かったのか」

 どこか遠い目でつぶやくヴァンに、アリアは首をかしげた。

「少し話してくる」

「はーい」

 二番目の窓口へ歩くヴァンの言葉に応えたアリアは掲示板に近づき、張り出された依頼を眺めていた。つらつら読んでいくと、壁に貼ってあった紙にヴァンの名前が書いてあった。不思議に思い、ずずっと張り紙の上部に目を移動させる。

「えーと、依頼中における死亡者・・・・・・・ほう、こく、しょ?」

「なんだと!?」

 突然聞こえてくるヴァンの怒声に、アリアの肩が震えた。慌てて窓口に駆け寄る。受付嬢が驚きながらも口を開く。

「で、ですから、その魔獣討伐依頼は完了したと九人の冒険者の方々により報告されています。その際、ヴァン・グラシアード様はその場に居合わせた女魔術師により殺害されたと・・・・・・」

 二人は愕然とする。そしてすぐにその背景を理解した。あの冒険者たちは、アリアたちが魔獣を倒すのを分かっていたらしい。アリアは魔女と呼ばれるほど強力な魔術師であったし、ヴァンは誰も気づかぬうちに魔獣の気配を察知できるほどの手練れ。倒せぬはずが無いと。そして、あの『狼殺し』はヴァンを殺すだろうと考えたのだ。

 ならば、先に報告を済ませ、報酬だけを頂く。アリアは依頼を受けたわけじゃないし、唯一真実を知るヴァンは『狼殺し』に殺され、話すことは出来まいと。

「これだから男は・・・・・・」

 はき捨てるように言うアリア。 もちろんヴァンも怒っていた。だが、冒険者として生きていくには、他者を利用することも必要になってくる。仕方がないのだ。それに今の問題は、冒険者としてギルドから依頼がうけられないことだ。もっとも、どちらにしろ女になったヴァンには一つの道しか残されていない。深くため息をつく

「仕方ない、ギルドに新規登録するか。アリア、ギルドには登録してあるか?」

「いいえ、してないわ。しないとダメかしら?」

「駄目ということはないが・・・・・・金に困るぞ」

「そう・・・・・・そうね、どうせ長い旅になるだろうし、やっててもいいかもね」

 呆けている受付嬢を放置し、話す二人。

「というわけで、ギルドに冒険者登録したいんだが」

 急に話しかけられ、慌てる受付嬢

「あ、か、かしこまりました。それでは、こちらにお名前をどうぞ」

 アリアが差し出された羊皮紙にすらすらと名前を書く。ヴァンも、少し悩んだそぶりをみせたが、そのまま『ヴァン・グラシアード』と書いた。

「ありがとうございます。少々お待ちください」

 受付嬢はそれを気にすることなく、手続きを続行する。名前をそのまま使ったヴァンにアリアがささやく。

「いいの? そのまま名前使っちゃって」

「あぁ、登録に使う名前は別になんだっていいんだ。ずっと使い続ければな。それに一つのギルドに登録したら、世界中のギルドに自動で登録されるし」

「へぇ、便利なものね」

 そう、冒険者ギルドに登録すると、全ギルドにその名前が登録される。そして、依頼の達成数や達成率により、ギルド内での格付けがされていく。この格が大きければ大きいほど、高額の依頼を優先的に受ける権利がもらえるのだ。つまり、格イコール信頼度となる。ちなみに、ヴァンも『レガベアード』討伐を終えれば、Aランクに昇格できたのだが・・・・・・。そのことを思うと、気は重くなるばかりだ。

「これでまた、下積み時代に逆戻り、か」

「お待たせいたしました、ヴァン・グラシアード様、アリア・エキーア様、登録完了となります。なお、先ほどのペンと羊皮紙は特別な魔道具で、容姿、魔力濃度、属性、すべてはからせていただきました。ご了承ください」

「・・・・・・ほんと、便利なものね」

 呆れ顔のアリアをみて、ヴァンは苦笑した。ただ名前だけで登録できるなら、管理も大変だ。

「お手間をおかけするわけにはいきませんので」

 微笑む受付嬢。そのまま引き出しから二つの紙を取り出す。

「これが最初のご依頼となります。これを達成していただいたのち、一月以内にどんな依頼でもかまいませんので、三つの依頼を完了してくださいませ。それが出来なかった場合、除名処分となります。お気をつけください」

 つまり、試験ということだろう。どんな者でも登録し放題では、ギルドの質が疑われる。

 二人は紙を手に取り、読む。アリアが顔をしかめる。

「・・・・・・これ、本気?」

「本気の本気、大マジにございます」

 受付嬢は微笑を崩さない。

「まぁ、最初はこんなもんだろう」

 ヴァンの言葉に、再度、紙に書かれた内容を読む。紙にはこう書かれていた。


 『魚を二十匹捕まえてきてください』と。



読んで頂きありがとうございます。感想批判大歓迎にございます。

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