第五十七話
今回はこの一話のみ更新となります・・・。
食事を終えた一行は、現在冒険者ギルドで依頼を探していた。
「へぇ・・・・・・これがギルドですか」
セレーネとヘリオスが物珍しげに、室内や掲示板を眺めている。二人の故郷、魔界には冒険者ギルドのようなものはないらしく、道中ヴァンから説明を受けた。
「それでーなんの依頼をうけるわけー?」
ウラカーンが間延びした声でヴァンにたずねる。聞かれたヴァンはアゴに手を当てて依頼を一つずつ吟味している最中だ。
視線を外さずに声だけで答える。
「そうだな・・・・・・当分秘宝探しに集中できるよう、報酬が大きなやつがいい。俺たち自身を鍛えることもかねて、討伐依頼にしよう」
掲示板の依頼書を一枚指差し、これなんかどうだ? と後ろに立っていたアリアとフランに聞く。
「えーと、『B級魔獣討伐依頼』で・・・・・・報酬が銀貨三十枚? 十分じゃないかしら」
「ん? ヴァンよ、討伐依頼ならその上にも一枚あるぞい」
二人より背の高いフランがヴァンの目線より上にある依頼書を破り取り、手渡す。
ヴァンはその依頼書を見て、報酬が同額であることを確認した。
「同じのが二つあると悩むな・・・・・・まぁどっちでもいいか」
「なら、両方ともやったらいいんじゃないか? 三人ずつに分かれればちょうど良いと思うが」
依頼書を見比べているヴァンに、ヘリオスが提案する。
ウラカーンとセレーネがそれに賛成の声をあげた。
「おー、名案だねー、B級魔獣なら六人で行くこともないしー」
「そうですね。それに、討伐依頼が出されているということは、困ってる方がいらっしゃるのでしょう? その方々のためにも、両方とも済ませるべきですよ、アリス?」
そうだな・・・・・・と少し悩むヴァン。三人の言っていることは正論であり効率的だ。
ヴァンもB級魔獣程度なら一人で討伐したこともあった。ヘリオスの言うとおり二手に分かれても三人ずつ。全く問題はない。
「よし、なら、そうしよう。じゃぁ早速、人数分けといくか。どうする?」
その言葉にセレーネとヘリオスが同時に叫ぶ。
「アリスと一緒が!」
「私もヴァンと一緒がいい!」
アリアも少し遅れて叫んだ。ヴァンが、はぁ、と溜息をつく。
「あのな・・・・・・そしたら四人と二人になるだろう」
「あ、ねーヴァンちゃん、できれはオレっち、ヘリオスと一緒がいいんだけどー」
手を上げて左右に振り、ウラカーンが発言する。
「さっきヘリオスに言われたんだけどー、この爪の収納法を教えてくれるっていうからー、依頼中ついでにやりたいなーと思ってさー」
「・・・・・・くっ、グラウクス、余計なことをっ」
にやりと笑うアリアとセレーネに、ヘリオスが悔しそうな顔をした。
それに気づかなかったヴァンは、ヘリオスと向かい合って見上げる。
「そうだったのか。ヘリオス、それは俺からも頼む。ウラカーン、ご飯食べるのも大変そうだったし」
「も、もちろんだ! アリスからの頼みならなんだって聞こう!」
先ほどまで悔しげだったのに、ヴァンから頼まれた途端やる気を見せるヘリオス。
現金じゃのぅ、とフランが呟いた。
「じゃぁ、ヘリオスとウラカーンと・・・・・・あと一人、二人につけば三、三でわけられるな」
「なら、わしがそっちへつこうかのぅ。アリアたちはどうしてもヴァンと一緒に行きたいようじゃしな。それに、バランスも悪くなかろて」
ヘリオスたちの隣へ歩きながら言うフランに、ヴァンがうなずく。
セレーネとヘリオスの戦い方は分からないが、バランスとしては悪くない。ヴァンとウラカーンは接近戦タイプ、アリアとフランは中遠距離戦タイプ。お互いの欠点を補い合える。
「決まりね。さっ、依頼を受けにいきましょ」
ヴァンと一緒になれたことが嬉しいのか、アリアがヴァンの腕を引っ張り急かす。
ちなみに、ヴァンは冒険者内でのランクをすっかり忘れていたのだが、受付嬢が闘技場でのウラカーンとヴァンを知っていたので、依頼をギリギリで受けることが出来た。
これには何度も闘技場に出場し、優勝経験もあるウラカーンに感謝したヴァンだが、やっぱりお礼は体でと言おうとしたので、とりあえず殴っておくことにしたのだった。
のちに「あいつに礼を言うのは無駄だ」とヴァンに言わしめることになるのだが、それはまた別の話。
リモニウム共和国草原、外郭周辺。
テリオスとライカニクスはそこにいた。
「して、『フォカーテの香水』の香りは、あの子自身からもれていた、ということか?」
灰の岩を背もたれにして座っているテリオスが、目の前にいるライカニクスに問う。
「はい。正確には、美しき者が魔力を発するごとにです」
獣の返事を聞き、主が息を深く吐いた。
「そうか。あの子は秘宝を吸収したのか・・・・・・。ふむ、まさか、本当に実在するとはな」
「・・・・・・吸収、でございますか?」
ライカニクスが恐る恐るたずねる。テリオスは疲れた様子で口を開いた。
「うむ。我ら魔族の中で、ごく稀に秘宝を吸収し、それを自らの力、肉体の一部にすることが出来る者が生まれる。秘宝を吸収すればするほど力が増し、まさに無敵となれたらしいが、あの子がそれか・・・・・・。下手をすれば、求める者が最大の壁となるやもしれんな」
ふっと笑う主に、獣がまたもたずねる。
「・・・・・・主殿は、秘宝を吸収することは・・・・・・?」
「わからぬ。試したことがない。そもそも秘宝は、種の宝である幼子らを守るために創られたものだ。成熟すれば触ることすらない。それは私も例外ではない」
「では・・・・・・これを」
ライカニクスが大きな口を開き、奥に引っかかっていた物を吐き出した。
音を立てて地面に落ちたのは、小さな短剣。飾り気がなく、抜き身の刀身は平たく太い。
「これは・・・・・・」
テリオスはそれを見て眉をひそめ、手に取る。まるで魔力の塊のような物。そこに存在る強力な物質。
「秘宝、か」
この秘宝は闘技場で優勝者に渡されるものであった。ライカニクスがテリオスの力になれば、と奪ってきたのである。
「ふむ、久方ぶりだな。秘宝を手に取るのは。・・・・・・最後に使ったのはいつだったか・・・・・・千年以上前であるはずだが」
短剣をためつすがめつし、懐かしそうに言葉を落とす。
獣が進言した。
「ぜひ、お試しください」
何を、とは言わない。テリオスもそれは分かっている。もし自分でも秘宝を吸収することができれば、いずれ強大な力を手にすることも出来るだろう。
「ふむ・・・・・・」
だが、試すにしても何をしたらいいのか分からない。やはり吸収というくらいだから、取り込む形象を浮かべるのだろうが・・・・・・。
「・・・・・・お前の配意を無駄にするわけにもいかんな。試してみるとしよう」
短剣を握りなおすテリオスの言葉に、ライカニクスは頭を垂れた。
テリオスが魔力を秘宝へ込めると、短剣の刀身が光りだす。空へ向けて軽く薙ぐ。光の斬撃が弧を描いて飛んでいった。
秘宝は総じて放出系魔術を模して創られる。ゆえにこの秘宝も、短剣の姿をとっているが、使い方は魔力を斬撃に見立てて放つ。
「・・・・・・ふむ・・・・・・」
やはり弱い、とテリオスは思う。自らの魔術を使った魔力斬撃は、もっと疾く、そして鋭い。
秘宝にはそれぞれ魔力を込められる最大量が決まっている。そこまで達すると、押しても引いてもそれ以上魔力を込めることは出来ない。
「武器として持っていては、邪魔なだけだが・・・・・・」
もし吸収できれば、どうなるのだろうか。
とりあえず、魔力を込めれば取り込めるかとおもったが、結果は通常通りの使い方が出来ただけだ。
獣は主をただ見守っている。
「さっぱり分からん。・・・・・・ライカニクス、何か考えは無いか?」
聞かれ、獣はうなった。そもそも魔獣たちに物を創るということがどういうことなのかも理解できない。
聞いても無駄だったかと撤回しようとしたテリオスに、意外にもライカニクスは口を開く。
「我らは他の存在を見に取り込むというのは、それを食べる以外に知りません。ゆえに、取り込むとはつまり食すことかと」
「ほぅ・・・・・・ふむ、一度壊さねばならんということか」
つまりはそういうことだろう。食べるにしても獲物を殺さねば食えない。
「なるほど、なるほど・・・・・・。試してみる価値はあるな」
テリオスは言い、短剣の切っ先と柄の下部分を両手の平につけ、挟む。
そのまま魔力をこめながら、ぐぐっと秘宝を押しつぶす。
「あ、主殿、何をっ」
「決まっている。取り込むために、壊しておるのだ!」
短剣は、短剣であるにもかかわらず、ひびが入ることも無く、割れることも無く、ただ潰れた。
両手を叩き合わせる乾いた音が響く。瞬間、テリオスの合わせた両手の間から光が溢れた。
「むぅっ」
この光は魔力だ。ならば、これが秘宝の魔力であるはずだ。
テリオスはその魔力を少しずつ吸収する形象を頭に浮かべる。力の奔流がゆっくり自らの中に染み渡っていくのが分かった。
やがて、光は消える。
獣が呆然と呟く。
「主殿・・・・・・?」
目の前に居るテリオスはうつむき、肩を震わせていた。
まさかどこかにお怪我を!? 慌て近寄るが、歩みを止める。主は笑っていた。
「くく・・・・・・くくく・・・・・・ははははは!」
狂ったように天を仰ぎ、笑う。獣は訳が分からない。
「ははは、はは、くく・・・・・・出来たぞ。ライカニクス」
唇をゆがめたまま言ってくるテリオスに、ライカニクスの顔も歪んでいく。
「なんと! 真にございますかっ?」
「うむ。見ておれ」
テリオスは右手を持ち上げ、顔の前でこきっと鳴らした。手の甲が盛り上がり、肉と皮を引っ張って形を創っていく。
あっという間に、先ほどの短剣の刀身が現れた。
魔力を右手にこめ、再度空へ薙ぐ。轟音が地を揺らし、先ほどの魔力の斬撃より二回り大きく、そして疾い斬撃が大気を切り裂いていく。
そのあまりの力に、ライカニクスは言葉を失った。
「くくく、すばらしい。すばらしいぞ、ライカニクス。お前のおかげだ・・・・・・」
主に礼を言われ、獣は我に返る。
「はっ、ありがたきお言葉!」
「久方ぶりに気分が良い・・・・・・。ライカニクス、私は決めた。もっと秘宝を集めよう・・・・・・私はこの世で最も強くなり、その時初めてあの子を迎えにいくのだ」
「主殿の望むままに・・・・・・。さすれば、北へ参りましょう。北の『魔翼の王』とは旧知の仲。協力が得られるはずです」
獣の進言に、テリオスが鷹揚にうなずく。
「そうだな。南には『ギガンリーフ・バシレウス』がいるが・・・・・・まぁ、今は想いを成就させておるだろうし、私が行ってそれを邪魔するのも野暮というやつだろう」
テリオスは、人に恋した魔葉の王を思い出す。あの時は種族が全く違う相容れぬ存在でありながら、愛することを知っている魔葉の王に感銘を覚え、言葉を教えたのだ。
初めて出会ったときも、少なからず言葉を覚えていたが、拙いものであった。一週間、みっちりと言葉を教え、ついでにあの子と接触した際に使おうと考えていた『女性を落とす方法』も教えたが・・・・・・果たしてうまくいっただろうか。
「ふっ、事が終われば様子でも見に行くとしよう」
テリオスの呟きは風に乗って消えた。
読んで頂きありがとうございます。
テリオスも秘宝を吸収できました。ヴァンたち、お金稼いでる場合ではないのでは・・・。
でも貧乏暇なしといいますし、頑張ってもらいましょう。
感想批評、大歓迎でございます!