第五十四話
今回は短いです。
「まだ起きとらんかえ?」
フランが扉を開けて入りながらヴァンとアリアに声をかける。ウラカーンもフランの後ろから続いて入ってきた。
二人には、セレーネとヘリオスという二人の追加客についてこの宿屋の主人と話をしてもらってきたところだ。
「ここの主人は気のいい方じゃったぞ。料金の追加は無しじゃった」
「あれはどっちかっていうと、フーちんが脅してたような気がするけどー」
フランの言葉にウラカーンが苦笑する。
「何を言うか、わしは誠意を込めてお願いしたんじゃぞ。それと、ぬし、フーちんと呼ぶのをやめんか。どこかの大統領のようではないか」
大統領って? と聞き返すウラカーンにフランは無視した。
二つのベッド、その間に座るヴァンとフランに視線を向け先ほどの問いを再度口にする。
「それで、どうじゃ? まだねむっとるようじゃが」
「あぁ・・・・・・全然起きない」
ヴァンがフランからベッドに目を移す。そこには苦しげな表情でセレーネが横たわっていた。
もう一つのベッドにはヘリオスが同じく眠っている。
「いきなり倒れるなんて・・・・・・魔力も底をつきかけてたみたいだし、何があったのかしら?」
アリアの言うとおり、二人は会話の途中突然倒れた。
ヴァンたちは驚きながらもセレーネたちをベッドに寝かせ、その時に二人の体から魔力がほとんど感じられないのに気づく。
心配そうな顔で見下ろすアリアの手にはヴァンの黒いフリルドレスが握られている。血を洗い流した後、元に形に戻すため魔力を注いでいるのだ。
「分からない・・・・・・が、所々怪我をしているみたいだし、どこかで戦ってきたのかもな」
ヴァンの顔も心配の色が濃い。
医者を呼ぼうにも、魔族だというセレーネたちを、人の医者が診ることが出来るかどうかもわからない。
ヴァンたちには、こうして様子を見ていることしかできなかった。
少しの沈黙が流れ、アリアがそれを破る。
「・・・・・・ヴァンって・・・・・・元々女の子だったんだね」
搾り出された呟きに、ヴァンが苦笑した。
「正直、実感が沸かないけどな。俺が魔族だってことも信じられない・・・・・・けど、『おかしい』魔力を使ったのは記憶にある。・・・・・・お前たちから聞いた、俺がライカニクスを退けたことは覚えてないが・・・・・・死にそうになったのは覚えてる」
バスローブの中に目を落とす。あの時、確かに裂かれた傷はどこにも見えない。痕すら残っていないので、あれは幻だったのかと思ってしまいそうだ。
「ふむ・・・・・・ヴァン、おぬし、もう休め。傷は消えているとはいえ、血は大量に流しておるしな」
「ん? いや、調子は悪くな」
ヴァンがそれを断ろうとし、アリアが言葉を遮った。
「そうね、休んだほうがいいわ。はい、これ。直ったわよ。ベッドは使っちゃってるし、これきてバスローブを羽織って寝たら良いわ」
ぼすっとドレスを押し渡され、ヴァンはまた苦笑する。
「・・・・・・そうだな、ありがとう」
今度は素直に従うヴァンをみて、アリアとフランが微笑むが、次の瞬間、表情が固まった。
「おひょー!」
ウラカーンの奇声が部屋に響く。原因は、その場でバスローブを脱ぎ捨て、下の下着だけになったヴァンを拝めたからだ。
はっと我に返ったアリアがウラカーンに跳び蹴りをかます。まるで闘士の如く鋭い。
「見るなー!!!」
「げぶふぁっ!」
体を句の字に曲げて吹き飛ぶウラカーン。
フランが狼狽しながらもバスローブでヴァンを素早く包んだ。
「な、なにしとるんじゃ!」
再度バスローブ姿になったヴァンが不思議そうな顔をする。
「なにって・・・・・・着替えだが?」
「だからって何で男がいる前で脱ぐの! ていうか、人が多いときは普通お風呂場とかトイレとかで着替えるもんでしょ!?」
アリアがウラカーンの前に立ち、ヴァンに叫んだ。
「そういうものか? 確かに素っ裸になるのは恥ずかしいが、下着なら問題ないと思うんだが・・・・・・実際、上半身裸で大通りを歩いたこともあるしな」
ヴァンが思い出すように言い、次はフランが叱る。
「ばかたれ! おぬしは今女の子じゃろうが! だいたい、わしやアリアが着替えを手伝おうとすると恥ずかしがるじゃろう!」
「そ、それは・・・・・・お前らが色んなところ触ってくるからだ! あとなんか身の危険を感じんるんだよ!」
怒鳴り返すヴァンに、アリアとフランが言葉に詰まった。それはいわれても仕方がない。
「ヴァンちゃん、十数年も男だったんから、人の前で着替えるくらい平気なんだねー、さぁ、さっそく着替えて着替えてー」
ウラカーンが腹部を押さえてうずくまりつつも、ヴァンの着替えを促す。
「たわけっ」
「はぶるっ!」
「この変態!」
「どぅぶっはぁっ!」
フランが後ろ回し蹴りの要領で屈んでいるウラカーンのアゴを蹴り上げ、アリアが前蹴りの追撃を腹部にめりこませる。
すばらしいユニゾンアタック。ごっつ痛そうだ。
「お、おまえら、ウラカーンを殺す気か・・・・・・? ていうか、アリア、お前が変態って言うのはちょっと説得力が無いぞ?」
ドレスを胸の前に抱きながら、吐血するウラカーンを同情の瞳で見た。
「私は変態じゃないわよ。こんな男は死んだほうがヴァンのためだわ! というより、あんたいつまでここにいるの? さっさと帰りなさいよっ。もうヴァンは平気なんだから!」
とても辛らつな言葉をウラカーンに浴びせるアリア。だが、その声音はどこか親しみを感じさせた。
「あいたた・・・・・・良い蹴り持ってるね、二人とも。はいはい、分かりましたよ〜、帰ります、かえればいいんでしょー? 全く、アーちゃんは素直じゃないねー。『もうヴァンは平気だから、いつまでも付き合ってくれなくて良いのよ。夜も遅いし、早く帰ってあなたも休んで?』ってストレートに言ってくれれば、オレっちも気持ちよく帰れ、げぶるぁ!」
つらつらと話すウラカーンに、アリアが鉄拳を叩き込んだ。顔を真っ赤にして怒鳴る。
「そ、そんなこといってないでしょ! 脳内変換しないでくれるかしりゃ!!」
アーちゃんと呼ばれたことよりも、そこに怒るアリア。最後のほうなど、噛んでしまっている。
「ナ、ナイスパンチ・・・・・・」
鼻を手で押さえ空いている片手で親指を立てた。両手からは鉤爪が伸びている。
「やー、ここにいたら恥ずかしがり屋のアーちゃんに殺されそうだから、帰るねー」
誰が恥ずかしがり屋よ! と叫び、また突き出された拳をさっと避けてウラカーンが部屋から飛び出す。
「じゃ、ばいばーい」
出て行き際、鉤爪の手をひらひらと振った。
「はぁーっ、はぁーっ、もう! なんなのあいつっ!」
アリアが、荒い息を吐いたあと、顔を赤くしたまま波打つ金髪を手で払う。
「はっはっは、アリア、男嫌いは卒業かえ?」
笑い肩を叩いてくるフランにアリアが怒鳴る。
「ち、ちがうわよ! あんなやつ、全然心配なんかしてないんだから!」
「・・・・・・」
そんな二人を、ヴァンが面白くなさそうな顔で見つめていた。
読んで頂きありがとうございます。
リアルの事情により、三月九日は更新することができませんでした・・・申し訳ありません!
毎日更新が途絶えてしまい、覗いてくださってる方々のご期待に沿えることが出来ませんでした。本当にすみません。
ですが、途中で終わる、ということは絶対にしませんので、最後までお付き合いくだされば嬉しいです。
これからもがんばります!